ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』

2008-02-16 11:16:31 | 新作映画
※カンの鋭い人は注意。※映画の核に触れる部分もあります。
鑑賞ご予定の方は、その後で読んでいただいた方がより楽しめるかも。



(原題:Away from Her)

「映画ってときどき、思ってもいない出会いがあるものだけど、
この作品もその一つだね」

----えっ、そうニャの。
こういうアルツハイマーを扱ったようなお話は、
えいは、タイプじゃニャいと思ってた。
「うん。そのとおりだね。
たとえば
まず老齢の人を描いた映画が苦手。
最近では『いつか眠りにつく前に』とかも…」

----でも、気に入ってしまったってわけだ。
「うん。この映画、
たとえば『私の頭の中の消しゴム』のように、
徐々に発病していくというのとは違っていて、
最初からそれを見せちゃう。
あっ、まずは簡単なプロットから。
主人公は、結婚生活44年目となるフィオーナ(ジュリー・クリスティ)と
グラント(ゴードン・ピンセント)。
アルツハイマーの診断を受けたフィオーナは、
躊躇する夫を振り切って自ら老人介護施設への入所を決断する。
やむなく施設の下見に行くグラント。
ここの描写がまず素晴らしい。
広間のソファーで他の患者への面会客の様子を
じっと見ているグラント。
最初はにぎやかなその広間から
面会客の姿が一人消え、二人消え、
後に、患者だけが残されたときの
なんとも言えない寂寥感」

----へぇ~っ。
監督はだれニャの。
「なんと女優のサラ・ポーリー。
そのキャリアのほとんどが、
非メジャー作品の彼女。
最初のうちは、その色合いが
彼女が出演した『スウィート ヒアアフター』の監督
アトム・エゴヤンそっくり。
正直言って観る前は、あまり彼女らしくない
素直なテーマを選んだものだと、
訝っていたんだけど、
これが、思いもかけない展開を示す」

----どんな風になっていくの?
「入所一ヶ月後、
面会禁止期間が過ぎて、
妻の元を訪れた夫が目にしたのは、
自分のことをまったく忘れている妻の姿。
まあ、ここまでは誰しも想像つくよね。
ところが、彼女には新しい恋人オーブリーができていた」

----そ、それはスゴい。
「もちろん、これは原作ものだから、
そのお話自体をどうのこうの言うつもりはない。
ただ、やはり一筋縄ではいかないお話を選んだなとは思ったね。
その恋人オーブリー(マイケル・マーフィ)は車椅子姿だし、
肉体的関係があるわけではないんだけど、
やはり、そこには複雑な感情が渦巻く。
夫グラントは、そのうちに、
もしやこれは彼女の演技ではないかと
疑い始めるんだ。
かつて、妻がいるにもかかわらず
若い女性と遊びまくった自分への罰とね…。
このあたりの、感情の揺らぎ、そしてそれを目で表現する
ゴードン・ピンセントが実に素晴らしい」

----そういえば、
ジュリー・クリスティ、
アカデミー賞主演女優賞候補になっているよね。
「そうそう。
彼女の演技は、もう絶品。
この映画の最大の特徴、それはクリスティ。
果たして、その口から次にどんな言葉が飛び出すのか、
この緊張の一瞬。
アルツハイマーという病気の設定からして、
彼女が演技で夫を罰し続けているとは
常識的には考えられないけど、
もしかして、そういうこともあるのではないかと、
彼女を見ていると、そう思えてしまう。
つまりここでこの純愛映画は
サスペンス、そしてミステリーをも含んでくるんだ。
『ドクトル・ジバゴ』『華氏451』の若さはないとは言えど、
やはりその姿は美しい。
あの頃からのファンだった自分としては
ぜひ、彼女にもう一度オスカーを取って欲しい」

----でも結局、演技だったわけじゃニャいんでしょ。
「さあ、それはどうかな。
この後も実は映画は意外な展開を見せて、
最後は、見方によってはハッピーエンド。
でも、別の見方によっては
とても皮肉な結末を迎える。
このシニカルさが、サラ・ポーリーらしいとも言える。
愛のために男が決断したこと、
それは他の人の人生を巻き込んでいく。
でも、その果てに待つのは……。
ほんとうは、全部話してしまいたいけど、
プレスでも途中以降の展開については触れていないので、
ここまでにしておこう。
ただ、オーブリーの妻(オリンピア・デュカキス)が絡んだ時制の入れ替え。
この脚色の巧さには言及しておきたい。
アカデミー脚色賞ノミネートも納得。
それとタイトルはあえて明かさないけど、劇中の使用曲にもね」



(byえいwithフォーン)

フォーンの一言「人間には、忘れたい記憶もあるのかニャ」小首ニャ

※このラストの余韻はあまりにも複雑だ度

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猫ニュー 

画像はカナダ・オフィシャル/ダウンロードサイトより。


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12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
おはよーございます (minori)
2008-04-23 10:04:07
えいさん、おはようございます。
私は、英語での鑑賞だったのでイマイチ理解できてないところもあると思うのですがラストは皮肉と受け取っておりました。切なさが残るというか。それにしてもジュリー・クリスティもよかったけど、やっぱり旦那さんのゴードン・ピンセントも素晴らしかったですよね。こっちにも賞をとってほしかったくらいで。サラ・ポーリーは若いのに、自分のビジョンっていうのをしっかりもっている方ですよね~。
ではTB失礼します。
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■minoriさん (えい)
2008-04-23 11:01:40
おはようございます。

試写でご覧になったのかと思っていましたが、
そうでしたか英語でのご鑑賞でしたか。

この映画、あのラストがとにかく効いています。
普通のありふれた夫婦愛や介護モノになっていない。
今、思い出してもゾクッとします。

そうそう、ゴードン・ピンセントもよかった。
あんな渋みは、なかなか出せません。
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Unknown (ケント)
2008-06-08 18:11:26
えいさん、コメントありがとう
そうですね。おしゃる通り若い人には、徐々に発病するタイプの映画の方が入り込みやすいかもしれませんね。
同世代の老人だと、自分もそろそろと思っているから、発病までの経緯がなくても感情移入が出来る。
結局その差だけだと思います。
それにしてもこの映画を創った女性監督が、若干29歳とは驚きですね。若いのに、よく年寄りの気持ちを描けるものだと感心しました。
だからというわけではないけれど、ありきたりのヒューマンラブストーリーではなく、ミステリアスな展開にしたのかもしれませんね。
返信する
■ケントさん (えい)
2008-06-09 10:53:16
こんにちは。

もし、この映画が予定調和的な
ヒューマン・ドラマだったら、
おそらくぼくはここまで肩入れしなかったでしょう。

人間というものの不思議さ、
一人ひとりが、
それぞれ考えていることが違い、
自分中心に動いているはずのドラマから
まったく新たな物語が導き出されていく。

こういう映画は好きです。
返信する
エキゾチカ☆ (かえる)
2008-06-11 00:12:19
えいさん、こんばんは。
私もてっきり、えいさんはこういうタイプのドラマはお好きじゃないのかと思ってましたよ。(笑)
さすがのサラ・ポーリーでした。
アトム・エゴヤンも大好きな監督なので、通じるものを感じてまた嬉しく。
本当に人それぞれの受け止め方ができるという点が味わい深く見事だなぁと思います。
ジュリー・クリスティの演技は絶品でしたねー。
そして、とても美しいー。
ルーツはアイスランドっていうのがまたよかったです。
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■かえるさん (えい)
2008-06-11 09:58:32
こんにちは。

はい、映画は青春を描いた方が好きで、
こういう老いや死を直視したものは苦手です。

でも、この映画は、
それとは別に、
ミステリーとしてゾクッとしました。
過去を振り返って、
そこには裏切りもあれば自尊心もある。
ギリギリの局面になっても
そのようなものが顔を覗かせる人間の心の不思議さ。
でも、かえるさんが書かれているように
ベースには夫婦愛が…。
なかなか奥の深い作品でした。
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Unknown (Cartouche)
2008-06-14 11:52:48
これは今年のベスト入り間違いナシの作品でした。
表面的には病気のことを描いているけれど、老いてから直面する孤独がテーマですね。
ラストもすごかったです~
しかし・・ジュリー・クリスティってなんてきれいなの!
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■Cartoucheさん (えい)
2008-06-15 10:55:00
こんにちは。

Cartoucheさんのところにもコメントを---と思ったのですが、
書き込む場所が分からなかったので、
こちらでのお返事という形で失礼させてください。

この映画、先日本屋で原作を見かけました。
ラストの解釈がとても気になったので、
少し読んでみたい気もします。

ぼくもこの映画は、
今年長く記憶に残る作品となりました。
人間の出会いの不思議さ、
そしてそこから生まれるもの…
いろんなことを教えてくれた気がします。
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こんにちは~ (rose_chocolat)
2008-07-08 13:46:35
サラ・ポーリーは、よっぽど男のことで嫌な目に遭ったのかな・・・なあんて考えてしまいました(笑
若いうちってお互い血の気が多いから、そういう仕返しってできないけど、年取ってからこんな風にされちゃうとキツイですね^^;

夫婦って、やっぱりいいとこ取りなのかなってラストを見ながら思いました。ちょっぴりずるいよね。。
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■rose_chocolatさん (えい)
2008-07-10 09:26:35
この作品ほど、
タイトルから想像されるものと
実際の中身が違う映画も珍しいですよね。

最近は、即物的な描写のホラーがブームですが、
ぼくはこういう映画の方が、じわりじわりきて怖いです。
去年で言えば『あるスキャンダルの覚え書き』もそうでした。
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