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ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『許されざる者』(李相日監督版)

2013-08-25 22:33:58 | 新作映画


----『許されざる者』って、
クリント・イーストウッドが監督としてオスカーを受賞した
最初の作品だよね。
それを日本で李相日監督がリメイクなんて、
最初聞いたとき、ニャんか違和感が残ったニャあ。
「おっ。違和感ときたか…。
フォーンも転生前に比べて使う言葉が変わってきたな(笑)。
でも、それはぼくも同じ。
西部劇を日本の“時代もの”にリメイクなんて、
なんだか無理を感じて。
その逆は『荒野の7人』をはじめ、
いくつかはあるんだけど…」

----そういえば、
クリント・イーストウッドが映画スターへの第一歩を踏み出したのも
黒澤明の『用心棒』をリメイクした『荒野の用心棒』から。
「そう。
そんな歴史もあってだろうね。
一見、無謀とも思えるこのリメイクのオファーに
イーストウッドは簡単にOKを出したみたい。
さて、オリジナルがあるだけに
この映画のストーリーを云々言うことは、
あまり意味を持たない。
ましてや、すでに評価が定まっている作品。
そういう意味では、
一本の映画として、どこまで見ごたえがあるか…
そういうことになる。
まあ、人によっては比較をやりたくもなるんだろうけど…」

----そこニャんだよね。
西部劇というのは、もとより大陸から渡った西洋人が
“銃”と馬で切り開いていった史実の上に成り立っているワケじゃニャい。
日本のような狭い土地では難しいのではと…。
「いやいや、そこなんだけどね。
なんと、この日本版『許されざる者』は、
その舞台を1880年、明治初期の蝦夷地に持ってきているんだ」

----蝦夷地?
「うん。
長い江戸幕府の時代が終り、明治時代が始まる。
鎖国を解いた政府は一方で北海道を開拓していく。
ところがそこは元よりアイヌ民族が暮らしていた土地。
彼らからすると、日本=ヤマトは侵略者に映る」

----あっ、それってネイティブ・アメリカン。
「そう。
ここに、西部劇と同じ舞台ができあがる。
そうなると、
あとは、日本ならではの歴史を背景に持つ人物を配置していけばいい。
ということで
まずは主人公の釜田十兵衛(渡辺謙)から。
いまは人里離れた土地で子どもたちとひっそりと暮らす十兵衛だが、
かつては徳川幕府の命を受けて志士たちを惨殺。
幕末の京都で人斬りとして名を轟かせた刺客であった。
だが、五稜郭を舞台にした箱館戦争終結を境に新政府の追手をかわして失踪。
長らく剣を捨てていたが…」

----ところがそこに
誰かが“賞金首”の話を持ってくるってわけだね。
「そういうこと。
彼に、剣の封印を解かせたのは、
昔の仲間・馬場金吾(柄本明)。
実は、ぼくは今回のリメイクでは
彼の演技がいちばん印象に残っている。
馬にもたれかかりその口を開くだけで、
彼の“いま”を一瞬にして浮かび上がらせる。
そして、もうひとりそこに加わるのが
アイヌ出身の沢田五郎(柳楽優弥)。
最初、ぼくはこれがあの『誰も知らない』の少年とはとても信じられなかった。
よく、ここまで過去のイメージを払しょくできたなと…」

----ふうん。
じゃあ、佐藤浩市の役は?
「彼が演じるのは大石一蔵、いわゆる悪役。
恐怖で町を支配する町長兼警察署長。
その前に、もうひとりの悪役として
國村隼演じる北大路正春が出てくるんだけど、
彼を完膚なきまでに叩きのめしちゃう。
この北大路というのも、
賞金に連れられてやってきた男。
さて、オモシロいのはこのふたりに、
幕末から明治初期の男の生き方それぞれが出ていること。
大石も北大路も共に、かつての討伐隊の一員。
ところがこの地で実権力を掴んだ大石に対して
北大路の方は、政府の中枢にいる者をやっかみ、
この蝦夷地で名をあげようとして当地にやってきたという設定。
出自は同じながらも
いかにその後、自分がその時代で生きる術を見つけていったか?
その違いがいまのふたりの差となっている。
これは、現代にも通じる、
いや、ある意味、どんな時代でも変わらぬ真理かなと…」

----それは、
時代を先読みする能力、、
そしてそこに活路を見出す能力を持っているか否か?
と、そういうことだニャ。
「うん。
さらにつけ加えれば
過去の栄光を振りきれるか否かもね。
ぼくはこの視点がとても興味深かった。
僕らが生きるいまも時代は混沌としている。
でも、その中で自分の生き方を曲げぬのか、
それとも、上手く立ち回るのか?
本来ならば
悪役と主人公の間で振り分けられるはずの差異を
悪役の中同士で描いて見せるんだ」

----う~ん。オモシロい話だけど
結局、
物語ばかり喋っているような…。
確かツイッターではデヴィッド・リーンうんぬんと…。
デヴィッド・リーン
彼の映画は、
悠々たる、
いや荒々しい大自然を映像に焼きつけ、
その中での人間の営みというものが
いかに小さいかを見せつけてくれる。
ちょっと大胆な言い方をすれば“神の視点”。
だから鳥瞰撮影も多い。
この映画も
その大自然をワイドスクリーンいっぱいに捉え、
人間をまるで豆粒のように写す。
その好例が、
主人公たちが最初の賞金首を殺めるシーン。
普通ならばカメラはよりで、
彼らの心理的葛藤を見せるはず。
だが、ここでは思いっきりカメラを引く。
まさに<運命>。
それを強く感じさせてくれるんだ。
このシーンだけでも
ぼくはこの映画を観た価値があったと思ったね」



                    (byえいwithフォーン)


フォーンの一言「そしてオープンセットもいいのニャ」身を乗り出す

※CGでは絶対に味わえない度

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4 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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こんにちは (ナドレック)
2013-09-16 22:47:55
北大路正春のカッコ良さに痺れました!
オリジナルのイングリッシュ・ボブもいいのですが、E・ボブはキジを撃ち落すだけで、人間相手には活躍してないんですよね。
でも北大路正春が薩摩の武士と対決する場面は、『七人の侍』の宮口精二演じる久蔵を髣髴とさせてワクワクしました。
宮口精二さんも國村隼さんも、一見すると剣豪っぽくないのに、様になりますねー!

>(原題:Prometheus)

失礼ながら、これは消し忘れでは?
返信する
こんばんは (ノラネコ)
2013-09-19 21:13:56
オリジナルもリメイクもどっちも傑作!
これ以外と少ない気がします。
イーストウッド版を換骨奪胎して、北海道の歴史をプロットに組み込み、日本でしか成立しえない話に仕上げたのは見事でした。
シネスコの雄大なカメラ、町ひとつ丸ごと作ったオープンセットなど、画をみているだけでもテンションあがります。
これぞ娯楽映画という素晴らしい作品でした。
返信する
■ナドレックさん (えい)
2013-09-23 23:11:46
こんばんは。

またまたケアレスミス。
ご指摘、ありがとうございました。

ぼくも北大路正春のキャラクターにはゾクゾクしました。
あんなふうに粋がって登場しながら
去り方が…。
こういう役を演じるのって役者冥利に尽きるでしょうね。
返信する
■ノラネコさん (えい)
2013-09-23 23:14:23
なるほど。
オリジナルもリメイクもよくできた作品ですか…?
これはリメイクと言えるかどうか。
『猿の惑星』は新作も旧作に伍して頑張っていたと思います。
そう。ぼくもCGに頼らない映像に
映画そのものが持つ<熱>を感じた口でした。
こういう映画が、まだ作られているというのが嬉しいです。
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