本当は21日の午後に最高裁判所から出された神奈川県臨時特例企業税訴訟の判決を取り上げたいのですが、朝日新聞の速報メールが発信されたのが13時37分で、おそらく、夕刊のデッドラインには間に合わなかったのでしょう。朝日の夕刊にも日経の夕刊にも記事が掲載されていません。そこで、21日の朝日新聞夕刊1面4版トップ記事「『定期代、高すぎる』 経営難の北総線 周辺私鉄の数倍 学生ら提訴、26日判決」を題材とすることにいたします。
(余談ですが、神奈川県臨時特例企業税訴訟の控訴審判決について、私が短いながらも解説を書いております。法学教室366号別冊付録「判例セレクト2010〔Ⅱ〕」の12頁を御覧下さい。)
北総鉄道の運賃の高さは有名です。私は一度も利用したことがないのですが、同社のサイトによると、初乗り(3キロメートルまで)は190円です。これでも値下げされたそうで、以前は200円だったとのことです。
上記記事では「1区間は最大290円」と書かれていますが、これは小室から次の千葉ニュータウン中央までなど、小室~印旛日本医大の1区間の運賃で、初乗りではなく、3キロメートルを超えて5キロメートルまでの区間なら290円ということです。これには驚きました。渋谷から横浜まで東急東横線に乗っても260円です(距離は24.2キロメートルです)。290円というのは、渋谷から南町田まで田園都市線に乗った時の運賃と同じ額ですが、距離は29.2キロメートルです。もし北総線で同じ距離を利用すると仮定してもピッタリ適合しないのですが、京成高砂から千葉ニュータウン中央までが23.8キロメートルで720円、京成高砂から印西牧の原までが28.5キロメートルで750円です。
初乗り運賃だけを比較するならば、千葉都市モノレールと同額で、東葉高速鉄道よりは10円安く、埼玉高速鉄道および京都市営地下鉄よりは20円安いということになりますから、日本で一番高いという訳でもありません。しかし、それ以外の区間について各運賃の高さには改めて驚かされます。
千葉県と言えば、やはり運賃が高いことで有名なのが東葉高速鉄道で、西船橋から東葉勝田台までは16.2キロメートルで610円です。北総鉄道であれば、この距離で600円ですから、あまり違いがないということになります(京成高砂から西白井までが15.8キロメートルで600円)。
今回、訴訟の対象となっているのは定期代ですが、北総線は、とくに定期代が高いということで知られており、沿線では「財布なくしても定期なくすな」という格言があるそうです。詳しいことはわかりませんが、通学定期代は周辺の私鉄と比較して4倍以上も高いと言われています。上記記事で書かれていた例によると、千葉ニュータウン中央駅から新鎌ケ谷駅までの11.1キロメートル分の通学定期代(高校生)は6ヶ月分で55620円です。JR東日本なら同じ6ヶ月で25370円であるとのことです。
実は、この定期代の問題は昔から指摘されていました。とくに、北総線の場合、京成線、都営浅草線への直通運転がなされていることから、あまりにも高額になるのです。
そして、北総線の運賃については、最近になって非常に複雑な問題が現実のものとして出てきました。京成成田空港線、通称成田スカイアクセスの開業です。京成の路線とはなっていますが、実際は非常に複雑でして、鉄道営業法に照らすと、施設保有者などは次のようになっています。
京成高砂~小室:北総鉄道(第一種鉄道事業者)
小室~印旛日本医大:千葉ニュータウン鉄道(第三種鉄道事業者)←北総鉄道は第二種鉄道事業者
印旛日本医大~成田空港高速鉄道線接続点(成田湯川と空港第2ビルとの間にある所):成田高速鉄道アクセス(第三種鉄道事業者)
成田空港高速鉄道線接続点~成田空港:成田空港高速鉄道(第三種鉄道事業者)
従って、京成はいずれの区間についても第二種鉄道事業者であり、線路等施設使用料を北総鉄道などに支払っていることになります。このことが京成の運賃とどのように関係しているかが、少し見たばかりではよくわからないのです。参考までに、運賃に関する若干の例を記しておきます。
1.京成上野からの普通運賃
(1)北総線(京成成田空港線)経由で印旛日本医大まで:1030円(45キロメートル)。
(2)京成成田空港線経由で成田湯川まで:1130円(53.4キロメートル)。
(3)京成成田空港線経由で成田空港まで:1200円(64.1キロメートル)。
(4)京成津田沼経由で成田空港まで:1000円(69.3キロメートル)。
2.京成高砂からの運賃
(1)北総線(京成成田空港線)経由で印旛日本医大まで:780円(32.3キロメートル)。
(2)京成成田空港線経由で成田湯川まで:880円(40.7キロメートル)。
(3)京成成田空港線経由で成田空港まで:950円(51.4キロメートル)。
(4)京成津田沼経由で成田空港まで:890円(56.6キロメートル)。
こうした運賃設定に対して、京成成田空港線の開業当時も、北総線沿線の住民や自治体が疑念を示していたはずです。印旛日本医大駅から成田湯川駅まで8.4キロメートルも離れていることに注意してください。今回の裁判で、原告の住民側は、京成が北総鉄道などに支払っている線路等施設使用料が不当に安いという趣旨の主張を行っています。これに対し、裁判の被告である国は、運賃の認可が鉄道利用者の個々の利益を保護するものではないという、近鉄特急事件判決において述べられた内容の主張をしています。
行政事件訴訟法改正前であれば、今回の訴訟については原告の勝ち目はほとんどなかったでしょう。現在は第9条第2項の規定がありますので、これに沿って原告適格や訴えの利益を判断することが求められます。
運賃の認可は言うまでもなく行政行為ですが、これが必要とされるのは、鉄道会社と乗客との間で結ばれる契約が適正な内容であることが必要であると考えられるからです。契約とは言っても個別的に結ばれるものではなく、運送約款という、鉄道会社が一方的に作成する契約文書に基づくものですから、運賃などが不当に乗客の利益を損なうようなものであってはなりません。このように考えるならば、運賃の認可が鉄道利用者の個別の利益を保護するものではないという主張は、妥当と言えないのではないかと考えられます。
ただ、これはあくまでも私の意見です。裁判所の判決ということでは、原告敗訴の可能性のほうが高いようにも思われます。却下の可能性が半分程度、棄却と請求認容(つまり勝訴。全部も一部も含めます)が残りのうちの半々、というところでしょうか。
上記の朝日新聞夕刊記事には、2010年に当時の白井市長が行った、およそ2300万円を北総鉄道への支援援助金として支出するという内容の専決処分についても書かれています。この処分の妥当性が住民訴訟で争われていて、その判決が22日に出るとのことです。
北総鉄道の歴史は千葉ニュータウンの歴史と重なります。千葉ニュータウンは、開発計画が進展せず、縮小されたという経緯があります。交通もそうで、実は都営新宿線も千葉ニュータウンと関係がありました。東京都交通局の路線なのに千葉県市川市までの路線となったのは、本八幡で千葉県営鉄道と接続し、乗り入れる計画があったためです。
計画は大昔からあったようです。
その用地買収のコストの関係で、
江戸川わたってから地下を掘る事になったのですが、
そのコストも、借金をしてつくったので、運賃に跳ね上がりました。
周辺の私鉄がどうして安いかは、昭和30年代以前につくっているからですね。物価が安かったようです。
地元に住んでいる身からすれば、元々鉄道がなかったところに鉄道が引かれたんだから、高いなら使うな。
矢切駅が近くにありますが、バスで市川や松戸に行くのは何とも思いません。
訴訟したところで何の解決にもならないと思います。
むしろ、鉄道を通すために引っ越しをしなければならなかった人の保証金が跳ね上がっているだけです。
外環もそうです。
小学校の時に同級生が多数引っ越していきました。
ただ、北総線は京成グループです。
どうして、京成電鉄が、北総公団を立ち上げたのかは、その時の資料を調べればわかるでしょう。
高度経済成長の遺産でしょうか?
でも、成田空港。近くなりましたよね?
(2)川崎→久地:210円(14.9キロメートル):210円
(3)川崎→宿河原:290円(16.2キロメートル):290円
(4)川崎→稲城長沼(24.1キロメートル):380円
(5)川崎→分倍河原(28.8キロメートル):450円
(6)川崎→西府(30.0キロメートル):450円
(7)川崎→谷保(31.6キロメートル):540円
(8)川崎→立川(35.5キロメートル):620円
(9)川崎→拝島(42.4キロメートル):690円
(10)川崎→小作(49.6キロメートル):780円
この地域については、どうしても千葉ニュータウンや成田空港と切り離せない部分があります。このブログでは、敢えてそこに踏み込まないことにしました。