ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

川崎市市民ミュージアムを生田緑地へ移転することが発表された

2023年03月13日 10時30分00秒 | 国際・政治

 私は川崎市出身で、現在も川崎市民です。とは言え、市内でまだ入ったことのない施設はいくつもあります。そのうちの一つが、中原区にある川崎市市民ミュージアムです。

 どのような経緯でこの施設が等々力緑地に建設されたのかを知らないのですが(川崎市議会の議事録などを参照すればよいのですが、時間の都合などもあり、今回は参照しないでおきます)、おそらく、多摩川のすぐそばという立地に当初から疑問があったはずですし、利用者数も低迷していたようです。実際、川崎市文化芸術振興会議が2021年7月にまとめた「川崎市市民ミュージアムの今後のあり方について―答申―」において「過去には、利用者の大幅な減少や稼働率の低さから、包括外部監査により厳しい指摘を受けたこともありましたが、改革基本計画や新たな取組方針の策定など、市民ミュージアムがめざす姿の実現に向け 取り組み、さらに、2017(平成29)年度からは指定管理者制度を導入し、時宜を得た企画や効果的な宣伝広報などの指定管理者ならではの取組の結果、従来に比べ来場者数が大幅に増加し、川崎市の文化施設の中でも大きな存在感を示してきました」と(残念ながら具体的な数値はあげられていませんが)述べられています。また、この答申では、既に、2019年において「開館から31年が経過し、雨漏りや部品落下、設備の経年劣化など、利用者の安全にも影響を及ぼしかねない状況への早急な対応が不可欠」である旨が述べられていました。

 或る意味では皮肉ですが、川崎市市民ミュージアムは2019年秋に全国的に有名な施設となります。その理由は同年10月の台風19号です。多摩川の氾濫などにより、川崎市文化芸術振興会議の答申によれば2019年3月31日の時点における約259,800点の収蔵品、上記朝日新聞社記事では306,635点の収蔵品のうち、245,673点が被災しました。答申に従えば約95%、上記朝日新聞社記事に従えば約80%が被災したということで、どちらにしても高い率です。浸水被害および修復作業はNHKの「日曜美術館」でも取り上げられていましたが、廃棄せざるをえない収蔵品が7万点ほど存在したようで、現段階ではおよそ4万点が修復済みであるものの、13万点ほどはまだ手つかずで、今後も10年程作業が続くようです。

 さて、被災してから休館が続く川崎市市民ミュージアムですが、移転候補地が発表されました。朝日新聞社が2023年3月12日10時45分付で「台風で浸水の川崎市市民ミュージアム 移転先は多摩区の生田緑地に」(https://www.asahi.com/articles/ASR3C7JY9R3BULOB00H.html)として報じています。

 川崎市民であれば予測できたことであろうと思われますが、移転先として選ばれたのは生田緑地です。一口で生田緑地と言っても広大であり、かつて小田急の向ヶ丘遊園の所在地であった「藤子・F・不二雄ミュージアム」や「ばら苑」は多摩区長尾に、「日本民家園」や「岡本太郎美術館」は多摩区枡形にあります。また、宮前区初山に「とんもり谷戸 森の広場」があります。川崎市市民ミュージアムの移転予定地は「ばら苑」に隣接する市有地で、開園当時は臨時駐車場であった場所でした。広さはおよそ8,600㎡、標高はおよそ56mです。上記朝日新聞記事には「浸水などの被害想定区域に該当しないという。市は浸水被害を踏まえ、『可能な限り被災リスクが少ない場所を最優先の条件とした』と説明している」と書かれています。たしかに、この地域であれば河川の氾濫による浸水被害はない、とまでは言えなくとも低確率と言えるかもしれませんが、崖崩れなどの被害がないと言えるでしょうか。川崎市が公表している多摩区土砂災害ハザードマップでは、詳細がわからない部分もあるものの、土砂災害警戒区域なども含まれています。

 (ちなみに、1971年に発生した川崎ローム斜面崩壊実験事故の舞台は生田緑地です。現在は岡本太郎美術館がある場所が舞台であるとのことです。但し、事故の名称から明らかであるように、これは自然災害ではなく、人為的に斜面崩壊を起こした結果によるものです。)

 ただ、市有地の分布や交通の利便性も考え合わせると、生田緑地で決定されるのではないかと思われます。基本計画や管理運営計画は今後の課題であるようですが、生田緑地に移転しても川崎市市民ミュージアムには「博物館と美術館が融合した機能を持たせる」とのことで、川崎市は「1980年代から2000年代に設けられた公設美術館(67館)の平均延べ床面積(9746平方メートル)以上を確保する構想」を持っているようです。再開業の予定時期は2029年以降とされており、全ての修復作業が終わってから、ということなのでしょう。

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