気軽に洋書ミステリー

家にいてもすることがないおじさんは考えました。このままではボケる。そうだ!好きなミステリーを英語で読もう!英語力???

The Litigators by John Grisham

2014-09-07 10:15:06 | 読書感想

シカゴのうらぶれた通りのうらぶれた建物に事務所を構える弁護士が二人だけのうらぶれた法律事務所「Finley&Figg」。扱う仕事は協議離婚、遺言書の作成などの家庭問題や交通事故の賠償請求。弁護士過剰と云われる中で仕事を得るために、救急車のサイレンを聞くと直ちに交通事故の現場に駆けつけ被害者の依頼を受けようとしたり、葬祭場を廻って金がありそうな遺族を探し廻る。そんな些細な仕事を続けて数十年、シニアパートナーのOscarは慰謝料が払えないためにできない妻との離婚と引退を考えながら仕事をし、ジュニアパートナーのWallyは企業の製造物責任を問う集団訴訟の新聞記事に目を奪われ、いつか自分もその訴訟に加わって巨額和解金の分配に預かることを夢見ていた。

そして今、Wallyはその夢を実現する機会に出会う。
いつものように新聞の死亡記事欄をチェックしていたWallyは、6年前、この法律事務所で遺言書を作成をしたChester Marinoと云う男の死亡記事を見つける。遺言書で資産を調べたWallyは、数千ドルの報酬になる遺言執行人の依頼を取るべく遺族がいる葬儀場に向かう。
そこで彼は Marinoの息子のLyleから父親が心臓発作で死んだのは服用していた薬のせいだと話すのに緊張する。彼によると肥満に効くというKrayoxxという薬を服用し始めた父親は、体重は減ったが同時に心臓の違和感を訴え初めていたと話し、明らかに心臓発作の原因は薬のせいだと主張していた。そして彼は新聞記事のコピーを見せ、フロリダの有名な製造物責任専門の法律事務所「Zell & Potter」がこの薬による薬害訴訟を起こしたと言い、父親の件でも訴訟を起こしてほしいと依頼する。

WallyはLyleが彼に渡した新聞記事のコピーなどから訴訟を起こした「Zell & Potter」は一人当たり2百万ドル以上の賠償金を請求しており、さらにこの薬の訴訟が全米で起きることを予想し集団訴訟を提起していた。もし訴訟を起こした場合、大手薬害訴訟専門の法律事務所の尻馬に乗って、巨額の報酬が得られる途方もない金脈を発見したことに彼は興奮する。依頼人が多ければ多いほど賠償金の分配が巨額になると察した彼は薬害被害者を捜し始める。彼は、その薬害がまだ世間に認知されていない今が他の弁護士と奪い合うことなく依頼人を増やす好機だと知り、市内の葬儀所を片端から周り心臓発作で死んだ者の中にKrayoxxを服用していた者がいないか探し回る。
さらに 過去に事務所が扱った依頼人を訪ね親族や近所の人でKrayoxxを常用していて心臓発作を起こした人がいないか探し歩く。

名門Harvard Law School出身、30代前半の弁護士Davidは、5年間、一日15時間、超一流法律事務所で債券事務の仕事をしていたが、ある朝突然、出勤途中に仕事のやる気をなくし、仕事をボイコット、近くのバーで一日中飲酒する。夕方、酔っぱらった状態でバーを出た彼はたまたま目に付いた小さな法律事務所「Finley&Figg」に転がり込み、働かせてほしいと頼みこむ。
WallyとOscarは、いきなりの要求にとまどうが、たまたま起きた交通事故でのDavidの行動に感心して彼を雇用することを決定する。翌日、はりきって出勤してきたDavidはWallyの助手として シカゴの貧民街で薬害被害者の調査をしらみつぶしに行っていく。。

その結果、WallyはLyleの父親のほかにもう一人の被害者の依頼人を見つけ、連邦裁判所に製薬会社を相手にして損害賠償の訴訟を起こす。
DavidはKrayoxxと心臓発作の因果関係に確信を持てないながらもWallyに求められるままに原告代理人として訴訟に名を連ねる。
さらにWallyは、この提訴の内容をシカゴの全マスコミに送り、この薬の危険性を訴える。そして、マスコミがこの訴訟を取り上げたことで全米でこの製薬会社を相手取っての訴訟が起こる。

全米のマスコミがこの訴訟を取り上げた後、薬害に対する問い合わせで事務所の電話は鳴りっぱなしになり、彼らはさらに6人の依頼人を得る。やがて、「Zell & Potter」法律事務所の Jerry Alisandrosから連絡があり、Krayoxx訴訟を起こした弁護士たちが密かにあって会議を行うのでWallyも参加するよう求められる。その席でWallyはJerryから自分たちの法律事務所とチームを組まないかと申し込まれる。薬害認定の専門医の手配など訴訟の段取り、陪審審理は自分たちが引き受けるからWallyたちは薬害被害者の原告をもっと増やすように提案される。陪審審理など経験したことのないWallyたちにとって、この提案は渡りに船だった。さらにJerryは裁判は陪審審理に入る前に和解に達し、賠償金の話しあいになるとの見通しを話した。薬害訴訟専門の大物弁護士に訴訟のすべてを委せ、原告側弁護士として同席するだけで巨額の賠償金を手に入れることができることにOscarもDavidも興奮する。

一方、訴えられた製薬会社はたびたび薬害訴訟を起こす薬害訴訟専門の弁護士たちに苦虫を噛む思いをしていたが、ここで一気に彼らに報復する事を決意する。そして、その手段として法律事務所「Finley&Figg」を選ぶ。

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アメリカの民事訴訟裁判、陪審審理に入る前に証拠開示手続き(discovery)があることなど裁判の進め方などがわかって興味深かったが、それなりにどきどきするところもあるが、ミステリーとしては物足りない感じがした。

しかし、2014年9月4日の各マスコミは、ルイジアナ州の連邦裁判所は武田薬品の糖尿病治療薬アクトスの薬害被害者に6300億円の支払いを認めた陪審員評決を支持する判決を出したと報じていた。まさにこの本が取り上げた薬害訴訟の裁判。この本によると弁護士報酬は40パーセント、訴訟に参加した弁護士達は2520億円という巨額の報酬を得ることになる?薬害訴訟専門の弁護士がこれを主導したのか?武田製薬は和解に動かなかったのか?集団訴訟は起こさなかったのか?この本のおかげで記事の背景を推測する楽しみができた。

日本だと弁護士を雇うときは何らかの金を支払うがアメリカでは無料で代理人となって相手方と交渉し 相手方から得た賠償金の中から報酬を得るという手法に驚く。

また 企業の製造物責任を糾弾する裁判も社会正義のためでなく、巨額の和解金目当てというのは読む気力をなくす。訴訟に参加した被害者は救われるが参加しなかった被害者は救われない。

薬害被害者の遺族も身内を亡くした怒りよりも巨額の賠償金が転がり込むことに浮かれ、おこぼれを預かろうと遺族の周りには親族や友人が集まってくる。これだけえげつなく人間の業を描かれるとDavidじゃないけどその場をさっさと立ち去りたくなる。

また Litigatorの翻訳本『巨大訴訟』(上下巻 白石朗訳 新潮文庫)のおかげでかなり法律用語も覚えた。他のリーガルサスペンスにも挑戦したくなった。

Kindle2版 ★★★


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