トゥレイス・５

何もしたことのない人間は
自分の中に何もない
愛したこともない
だれかのために
いいことをしたこともない
ともだちといっしょに
おもしろいことをしたこともない

沈む夕日を見て
不思議な思いを持ったこともない
星空を見て
打たれたこともない
何も　何もないのだ
だからその心には
寒い風すら吹かない

金釘よりも冷たいものが
自分だというものになっている
素晴らしい人から姿を盗んでいるが
人間には見えない
虫のようにむごいことをしている

恐ろしいことをしても
自分がやっているという感じではない
何もないからだ
自分のものが
何もないからだ

長い長い年月を
何もせずにきたものは
そのように
ありながらないというものになっている
まるで世界に穿たれた
恐ろしい傷のようになっている
そこだけ
恐ろしく深い負の海になっているのだ

憎しみはない
ただ
藻のようにうごめく自分を
まさかりで切りたいと思っている
いやらしいことをするのは
自分にそれをしたら痛いからだ

だから
みんなを殺すのだ