ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

先天性心疾患(CHD)の胎児診断

2011年08月30日 | 周産期医学

congenital heart disease: CHD

【発生頻度】 CHDの発生頻度は出生児100人に1人で、重症CHD児はその3分の1である。CHDは最も頻度の高い先天異常であり、乳児死亡原因の第1位である。

【胎児診断の目的】
・ 十分な術前情報により、手術成績向上に寄与する。
・ 合併症の予防により、後遺症の軽減と医療コストの削減に寄与する。
・ 出生前に妊婦および家族へ十分な説明ができる。

【現状】
・ 四腔断面像(four chamber view)に著しい異常をきたす疾患は高率に診断できる。(単心室、Ebstein奇形など)
・ 四腔断面像に所見が乏しく、流出路に異常所見のあるCHDの診断率は低い。(完全大血管転位症、両大血管右室起始など)

【治療】
・ 動脈管依存性CHD: 動脈管開存により肺血流が保たれている症例では、プロスタグランジンE投与によって、手術の適応となるまで動脈管を開存させる。
・ 卵円孔狭窄: バルーン心房中隔裂開術。
・ 大動脈全狭窄、肺動脈弁狭窄: バルーン弁形成術。
・ 高度の心拡大、心不全、呼吸不全を来す疾患では呼吸管理、抗心不全治療を行う。

● 超音波・ルーチンスクリーニング

胎児心エコー検査ガイドライン

Standard 2D Ultrasound Examination of the Heart

1)左右の決定法
 モニター画面の右側に児頭、左側に足がくるような長軸断面をとる。プローブを反時計方向に回転させる。背骨を時計の文字盤の12時とすると、3時方向が左、9時方向が右になる。

2)腹部断面
・ 胃泡の位置を確認する。

Stomach

・ 内臓錯位(心臓と胃が逆サイド):ほぼ100%心奇形が合併、他の奇形も多い
・ 内臓逆位(心臓、胃ともに右サイド):10~20%に心奇形が合併

Outflowview

3)four chamber view(4CV) 四腔断面像
・ 心胸郭断面積比 cardiothoracic area ratio(CTAR):正常35%以下
・ Cardiac Axis(脊椎-胸骨を結ぶ直線と心房中隔-心室中隔を結ぶ直線が作る角度): 正常 45° ±20°

4cv

4chamberview_2

4)five chamber view(5CV)
・ 4CVに大動脈も含めたview

5cv

5chamber_view_2

5cv1

5)three vessel view(3VV)
・ 肺動脈、大動脈、上大静脈が左前から右後ろに向かって一直線に並ぶ。大きさが肺動脈>大動脈>上大静脈の順番

3vv

3v_view

Cardiac_image5_3_vessel_view

6)three vessel trachea view(3VTV)
・動脈管と大動脈弓が下行大動脈で合流し、これらの血管の外側に気管をみる。

3vtv

3vt_view

3vtv

Matsui H et al., Circulation. 2008; 118: 1793-1801. Fig. Magnification of the 3-vessel and trachea view showing the pulmonary trunk (PA) leading into the arterial duct (D). The isthmus (I) is measured as shown by the line just before it enters the descending aorta and the duct measured opposite it (line). L indicates left; R, right; and Ao, aorta.

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問題 胎児心臓超音波検査法・四腔断面像で異常所見がみられる心奇形はどれか。1つ選べ。

a. Fallot四徴症
b. 完全大血管転位症
c. 両大血管右室起始
d. 小さな心室中隔欠損
e. Ebstein奇形

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正解:e

Ebstein奇形の胎児心エコー: 四腔断面像で右房が拡大し、僧帽弁に比べ、三尖弁が右室内に下降しているように見える。

Ebsteinecho

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問題 心奇形のうち四腔断面像で異常を示さないのはどれか。1つ選べ。

a. 心内膜床欠損
b. Ebstein奇形
c. 完全大血管転位症
d. 単心室
e. 動脈管早期閉鎖

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正解:c 

完全大血管転位の胎児心エコー:四腔断面像は正常所見。左室から肺動脈(血管が分岐する)が、右室から大動脈(血管がアーチを描く)が出ていることを確認する。正常では肺動脈が大動脈の左前方を走るが、完全大血管転位症(complete TGA)では大動脈が左前方を走る。合併する心室中隔欠損(VSD)、肺動脈狭窄症(PS)、動脈管開存(PDA)を描出し、各型の分類をする。

Tga1

Ctga


先天性十二指腸閉鎖症

2011年08月30日 | 周産期医学

congenital duodenal atresia

【頻度】 6,000~10,000人に1人。

【合併疾患】 Down症候群の合併が多い(30%)。先天性食道閉鎖症、輪状膵、腸回転異常症、鎖肛、先天性心疾患などを合併することもある(合併疾患の頻度は50%)。

【概念】
・ 十二指腸が発生する過程の異常による。
・ 膜様型、索状型、離断型、多発型があり、膜様型と離断型が多い。
・ 膜に孔があり通過が可能なものを狭窄症という(閉鎖症の約半分の頻度)。
・ Vater開口部の肛門側の閉塞であることが多い
・ 低体重児に多い。

【症状】 
・ 羊水過多
・ 嘔吐(閉鎖部位がVater開口部より口側にある十二指腸閉鎖では、嘔吐物に胆汁が含まれず、Vater開口部以下の閉鎖では胆汁性嘔吐が認められる)
・ (上腹部に限局した)腹部膨満
・ 出生後24~48時間以内に胎便排出がない(胎便排泄遅延)、閉塞が乳頭開口部より遠位ならば灰白色便

【検査】
・胎児超音波検査:胃泡と閉塞部位より口側腸管の拡張がみられれば腸閉鎖の疑いが濃厚である。羊水過多を認める。現在では、出生前診断で見つかることが多い。

Duodenal_atresia2  

Da1

・X線写真:double bubble sign。
腸回転異常症の診断には注腸造影検査が必要。

Duodenal_atresia1
double bubble sign

【治療】
・ 経鼻胃管による持続吸引で減圧
・ 輸液
・ 手術: 十二指腸十二指腸吻合(ダイアモンド吻合)

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問題 羊水過多をきたす胎児異常はどれか。1つ選べ。

a. 十二指腸閉鎖
b. 腹壁破裂
c. 臍帯ヘルニア
d. Hirschprung病
e. 鎖肛

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正解:a