棗(なつめ)の実 越一人
夏がくると
一本の木を思いだす
木は隣りの目立屋の屋根に細い枝をのばし
小さい実をぶらさげていた
その木を
棗だと教えたのは
父であったか
兄たちだったろうか
ふるさとの
たった一つ実をつける木
びくびくしながら登る細い木だ
ぼくはもう何十年とその実に出会っていないのに
夏になると
ぼくは木の下に住んで
いつはてるともなく
甘くも酸っぱくもない実を噛じっている
朝から暑さをかきたてる蝉が鳴いている
高原の夏は
今年で幾度目になるのか
今年もまた
ぼくは蝉の声から
棗の実をもぎ取っていた
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