chuo1976

心のたねを言の葉として

棗(なつめ)の実        越一人

2017-09-14 04:18:57 | 文学
なつめの実        越一人



夏がくると

一本の木を思いだす


木は隣りの目立屋の屋根に細い枝をのばし

小さい実をぶらさげていた

その木を

棗だと教えたのは

父であったか

兄たちだったろうか

ふるさとの

たった一つ実をつける木

びくびくしながら登る細い木だ


ぼくはもう何十年とその実に出会っていないのに

夏になると

ぼくは木の下に住んで

いつはてるともなく

甘くも酸っぱくもない実を噛じっている


朝から暑さをかきたてる蝉が鳴いている

高原の夏は

今年で幾度目になるのか

今年もまた

ぼくは蝉の声から

棗の実をもぎ取っていた

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 一歩出てわが影を得し秋日和... | トップ | 酒も少しは飲む父なるぞ秋の... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

文学」カテゴリの最新記事