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心のたねを言の葉として

森友事件は終わっていない         関川宗英

2023-01-29 11:27:18 | 安倍晋三

森友事件は終わっていない         関川宗英




2023年1月12日、森友学園の籠池理事長と妻の有罪が確定した。

 

森友学園補助金詐欺 籠池理事長と妻の実刑判決確定へ 最高裁

2023/1/12 NHK政治マガジン

 

森友学園の籠池理事長と妻が国などの補助金をだまし取った罪に問われた裁判で、最高裁判所は12日までに上告を退ける決定をし、理事長と妻をともに実刑とした2審の判決が確定することになりました。

森友学園の理事長、籠池泰典被告(69)と妻の籠池諄子被告(66)は、小学校の建設工事や幼稚園の運営をめぐり、国や大阪府、それに大阪市の補助金、合わせて1億7000万円余りをだまし取ったとして、詐欺などの罪に問われました。

籠池理事長は一部の不正を認めたほかは無罪を主張し、諄子被告は全面的に無罪を主張しましたが、2審の大阪高等裁判所は籠池理事長について「小学校の設計業者に対して補助金を『国から多めにもらって建築費に充てよう』などと発言しており、みずからの判断で虚偽の申請をしていた」などと指摘して、1審に続いて懲役5年の実刑判決を言い渡しました。

一方、諄子被告について1審は一部を無罪として執行猶予のついた有罪判決を言い渡していましたが、2審は「学園は家族経営で、書類の内容などから理事長が水増し請求を行っている認識はあった」などと判断し、懲役2年6か月の実刑としました。

2人は判決を不服として上告していましたが、最高裁判所第1小法廷の深山卓也裁判長は12日までに退ける決定をし、ともに実刑とした2審の判決が確定することになりました。

2人は今後、刑務所に収容されることになります。

https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/94369.html



 森友学園の元理事長籠池泰典は、ノンフィクション作家赤澤竜也との共著、『国策不捜査「森友事件」の全貌』(以下、『国策不捜査』)を2020年2月に出版している。

 その中で籠池泰典は自身の罪について、

 

「塚本幼稚園のための大阪府への補助金申請に関して、ボクはよくないことをした」(p-167)  ※ページ数の表示は全て『国策不捜査』から

 

 と書いている。補助金の不正受給については公判でも本人は認めているわけだが、国有地が「8億円も値引き」された経緯は完全に解明されておらず、森友事件が国会で取り上げられてから発覚した「公文書の改ざん」についても多くの謎は残ったままだ。

 そして、籠池夫妻以外、誰も裁判でその罪を問われていない。2018年5月31日、大阪地検特捜部は告発された疑惑の38人全員を不起訴としている。




 

 

1 事件の発端 

 森友事件は、2017年2月9日の「森友学園に対する国有地払い下げに安倍元首相夫妻が関与し、大幅な値引きが行われたのではないか」という朝日新聞のスクープから始まる。

 

 安倍晋三は2月17日の国会で森友学園について問われ、「森友学園の先生の教育に対する熱意は素晴らしい」と籠池を擁護しているが、「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」との発言が飛び出す。

 

 この発言で、森友学園問題が一気に炸裂することになる。森友学園が、国家の屋台骨を揺るがすような事件として広く国民に知れわたることになるのだった。

 

 そして安倍晋三は、1週間後の国会答弁では籠池を「しつこかった」と評価を一変させる。しかもその前日、森友学園のホームページから名誉校長だった安倍昭恵の顔写真とコメントが消えるという珍事が起きた。

「瑞穂の國記念小學院」のホームページに掲載されていた昭恵夫人の顔写真とコメント

         ※瑞穂の國記念小學院~2017年2月当時、籠池が開校の準備を進めていた疑惑の小学校



 『国策不捜査』によれば、名誉校長安倍昭恵の顔写真とコメントの削除について、2017年2月23日のこととして次のように書かれている。

 

 龍安寺の駐車場に到着した昼過ぎのこと。

 ボクの携帯に「安倍晋三事務所」の初村滝一郎秘書から電話が入る。

「ああ、籠池さん、初村です。おたくの『瑞穂の國記念小学校』のホームページに載っている昭恵夫人の写真とコメントを削除してください」

 とても高圧的かつ一方的な口調だった。

 (中略)

 ほぼ恫喝に近いような口吻で迫ってくる。日本国の首相秘書からの拒むことの出来ない命令だったので、しかたなく応諾する。

 しかし、この初村さんとの電話を切った食後のこと。

 今度は住吉神社の神武磐彦権宮司の夫人から電話が入る。先に述べたように娘の神武亨代さんは、昭恵夫人付きの秘書をしていた。

「いま、昭恵夫人から、『わたしは今、籠池さんがどんな状況だかわからないけど、どうなっているのかしら。教えてほしい』と連絡があったんです。なにかありましたか」

「いや、なにかありましたかって、昭恵夫人が名誉校長を降りられることになりました」

「ええ、どうしてですか!」

「どうしてもこうしても、こちらの方こそ、なにがどうなっているんだかわかりません」

「わかりました。すぐさま昭恵夫人に知らせます」

 この日の午後3時41分、ボクたちの留守にしている塚本幼稚園には、衆議院議員会館1212号室(安倍晋三事務所)の番号から一本のファックスが入る。そこには、昭恵夫人が名誉校長を退任するのでホームページから削除するよう依頼する文章が書かれていた。

 仕方なく留守を預かる長女の町浪に連絡し、業者に削除の依頼をするよう指示をする。(p-39)

 

 このように、森友学園のホームページから名誉校長安倍昭恵が消えた珍事の顛末が書かれている。この中で責任者である籠池が森友学園を留守にしていたことが判るが、森友学園問題が大騒ぎになり始めた時に留守とはどういうことなのだろうか。

 実は、籠池夫婦は、安倍晋三の「総理も議員もやめる」発言のその日、しばらく身を隠すように指示されていたのだった。

 

「17日、財務省の理財局長より『籠池さんに身を隠してほしい』との依頼を受けました」

(p-30)

 

 これは森友学園顧問の酒井弁護士の言葉だ。

 そして籠池は書いている。

 

 だが、なぜ財務省はボクに対して「身を隠せ」と言ったのか。本当の理由を知るには、翌年の「公文書改ざん事件」の発覚を待たねばならなかった。

 そんなことは露知らず、当時のボクはあろうことか、

「安倍首相をはじめ、国が一丸となってわれわれを助けようとしてくれている。彼らの言う通りにし、任せておけば、この嵐もうまくやり過ごせることができるのだ」

 と考え、身を隠すことにしたのだった。(p-32)

 

 こうして、森友学園問題の幕は切って落とされた。

 

(ちなみに、名誉校長安倍昭恵の写真とコメントの削除要請は、2017年2月20日の時点ですでに、大阪8区選出の自民党議員大塚高司の公設秘書からあったが、断ったそうだ。p-456)




2 政権サイドのドタバタ

 2月24日の朝日川柳を見れば、「裏口を名誉校長すっと抜け」と昭恵の珍事が取り上げられている。

 また「廃棄したと まず言ってみて様子見る」は、8億円の値引き交渉の記録は「廃棄した」と繰り返された国会の珍答弁のことだ。

 「近畿財務局と森友学園の交渉記録はございません」(2017年2月24日)、「価格設定して向こうと交渉することはございません」(同2月27日)、これは佐川財務省理財局長の国会答弁である。

 

 10億円もの大阪の国有地が、8億円も値引きされたと聞いて、信じる御人好しがどこにいるのか。

 2017年の国会は、過去三度廃案となっていた「共謀罪」法の審議が大きな焦点となっていた。しかし降ってわいた森友問題で、メディアは上を下への大騒ぎとなり、国会では「総理も議員もやめる」の発言から連日のように日本国の優秀な官僚たちの不様な大立ち回りが繰り返されていた。

 

 国会では「PMメモ」なるものまで登場した。

 

「もっと強気で行け」安倍首相は佐川氏にメモを渡していた

今から約1年前、2017年早春の国会でのことだった。

学校法人「森友学園」への国有地売却を巡り、財務省の佐川宣寿理財局長(当時)は野党の質問攻めに忙殺されていた。委員会室で10数メートル先に座る首相の安倍晋三の秘書官の一人が佐川氏に歩み寄り、1枚のメモを手渡した。

「もっと強気で行け。PMより」

「PM」は「プライムミニスター(首相)」、即ち安倍首相を指す官僚たちの略語である。

「近畿財務局と森友学園の交渉記録はございません」(2017年2月24日)

「価格設定して向こうと交渉することはございません」(同2月27日)

当時、野党の攻め口を遮断するこんな強気の答弁を連発し、国有地売却の適法性を主張して追及に一歩も引かない佐川氏への首相官邸の評価はうなぎ上りだった。「PMメモ」の含意は佐川氏個人への激励にとどまらない。

【Yahoo!ニュース(文春オンライン) 2018.4.9.】

 

 こんなことまで取り沙汰されて、国会の品位は落ちるばかりだ。毎日あくせく働いて、所得税や住民税などきっちり収めている庶民には、国会の先生方のドタバタは怒りを通り越して溜め息も出ない。

 

 続く2月25日、森友学園塚本幼稚園運動会の「安倍首相ガンバレ」動画が流出する。

 森友学園は園児に教育勅語を暗記させ、昭恵の前でも披露したことがあるとか。昭恵は涙を流して子どもたちを見ていたそうだ。そんな塚本幼稚園の、2015年秋の運動会の動画である。


https://www.youtube.com/watch?v=lnCOeG3oy0A&t=35s

【宣誓】

あついあつい夏がすぎて、ぼくたちわたしたちの待ちに待った、平成27年度 秋の大運動会がきました。

先生と、お友達と、一緒になって、おけいこをした、おゆうぎ、音楽、体育、かけっこなど、今日一日、頑張ります。

おじいちゃん、おばあちゃん、おとうさん、おかあさんの前で、褒めていただけるよう、全力をつくします

大人の人たちは、日本が他の国に負けぬよう、尖閣列島・竹島・北方領土を守り、日本を悪者として扱っている、中国、韓国が、心改め、歴史で嘘を教えないよう、お願い致します。

安倍首相、ガンバレ! 安倍首相、ガンバレ!

安保法制国会通過よかったです!

僕たち、私たちも、今日一日、パワーを全開します

日本ガンバレ!えいえいおー!

【出典:塚本幼児教育学園「思い出の宝箱」より】




 朝日新聞の森友学園に対する疑惑のスクープから、安倍政権サイドのドタバタぶりは目を覆うばかりだ。

 当時の防衛大臣だった稲田朋美は籠池との関係を問われ、「10年も会っていない」、「顧問弁護士などやっていない」などと明らかな嘘をついて、すぐに発言の撤回、謝罪に追い込まれた。政権サイドの対応の悪さ、質の低さを象徴している。




3 森友事件の経緯

 国会で森友事件を問われた安倍首相が、「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」と発言してから、公文書の改ざんは始まった。

 しかし、それが明るみになるのは一年後の2018年3月のことだ。

 あらためて、森友事件の経緯をまとめてみる。

 安倍政権サイドが、とにかく籠池を犯罪者として葬ろうとしたことがよくわかる。



2017年

2月9日  森友事件のスクープ(朝日新聞)

2月17日 安倍首相「総理も議員もやめる」発言。

2月17日 籠池は財務省から「身を隠せ」と指示される。

2月23日 森友学園のホームページから名誉校長安倍昭恵の写真とコメントが消える。

2月24日 安倍首相、籠池を「しつこい人」と批判。

3月6日   松井知事、小学校の設置不認可。

3月10日 籠池、理事長辞任。

3月23日 籠池、国会で証人喚問。 

3月29日 サステナブル補助金不正受給で籠池告発。

5月31日 特捜部、補助金詐欺で大阪府の籠池告発受理。

6月19日 国会閉幕後、幼稚園、籠池邸など一斉に家宅捜索。

6月27日 大阪市は森友学園系列の保育園に対し、保育士不足を理由に、事業停止命令。

7月6日   国は森友学園管財人に2100万円の返還要求。

7月12日 近畿財務局、森友に豊中学校用地の原状回復を要求。

7月14日 大阪市、籠池を補助金不正受給で告発。

7月27日 大阪地検特捜部、籠池夫妻の一度目の事情聴取。

7月31日 籠池夫妻逮捕。( → 釈放は約300日後の2018年5月25日)

 

2018年

3月2日  森友文書改ざん報道(朝日新聞)

3月7日  近畿財務局職員赤木俊夫さん自殺。

3月9日  佐川国税庁長官、辞任。

3月12日  財務省、14の決裁文書で改ざんがあったと公表。

3月27日  佐川前国税庁長官、証人喚問。

5月25日  籠池夫妻、釈放。

5月31日  大阪地検特捜部、一連の森友事件で告発された38人を全員不起訴。

 

2019年

3月6日  籠池夫妻、初公判。

 

2020年

2月19日  1審の大阪地裁は、泰典被告が懲役5年の実刑判決、諄子被告が一部無罪の上、懲役3年、執行猶予5年。被告の夫妻、原告共に控訴。

 

2022年

4月18日  2審の大阪高裁は、籠池を1審に続いて懲役5年、妻については一部を無罪とした1審判決を取り消し、懲役2年6か月の実刑判決を言い渡した。夫妻は上告。

 

2023年

1月12日  最高裁、上告を退け、2審の有罪が確定。



 このように森友事件の経緯を整理すると、権力サイドが籠池を悪者にして事件の決着を図ろうとしていたことは明白だ。

 保守主義、天皇主義を堂々と標榜する籠池は、生長の家や日本会議と関わりながら人脈を広げ、学校づくりを進めてきた。しかし、森友学園が事件として問題化すると、それまで関わってきた多くの保守主義者たちから手のひら返しを食らったという。安倍晋三もその一人だ。

 安倍晋三に対する思いを籠池は『国策不捜査』で次のように語っている。

 

 ボクは教育関係の組織から保守運動に携わり、そこから日本会議とも関わりを持つようになった。ご存じのように、日本会議は「教育基本法」の改正にも大きな影響を及ぼしている。

 だが、現在の日本会議の存在理由は憲法改正だけ。そう言い切っていい。憲法改正こそが焦眉の急であり天王山である。

 根っこには、これまで述べているように、生長に家原理主義者たちが抱く狂おしいまでの占領軍による押しつけ憲法への憎悪がある。

 先ほどボクは「日本会議の凄みは、ものすごく長期的なスパンで小さなことからコツコツと積み上げていくところ」と述べた。

 憲法改正についても、日本会議は数十年前から現在の状況を見据えて活動してきた。

 具体的に言うと、安倍晋三を巡る動きがその一つだ。日本会議は、安倍さんが1993年に政界デビューした当初から、「この男をかついで憲法改正を実現させる」と考えていた。

 何十年にもわたって政治家・安倍晋三を陰に日向に支援してきたのも憲法改正のため。この粘り強さは、そんじょそこらの組織にできる業ではない。

 ここまで書くと、ボクが自分の学校に「安倍晋三記念小学校」と名付けた理由の一端を理解してもらえるのではないかと思う。

 日本会議の人間にとって、この人は他の政治家とは違う特別な存在なのだ。(p-250)

 

 そんな安倍晋三に対して、『国策不捜査』のエピローグで次のように書かれている。

 

 安倍官邸は「素早い決断」の名のもと、官僚組織の集合知を軽んじ、専門知を踏みにじる。公文書を改ざんさせ、優秀な官僚たちに国会でウソをつかせ、議会そのものを毀損した。

 保守は歴史を大切にするはず。言葉とは歴史そのものだ。言葉=歴史を尊ばない人を保守と呼んでいいのだろうか。政治家とは言葉で生き死にする人たちではなかったか。言葉をないがしろにする人間に、国家にとってもっとも崇高な言葉である「憲法」を語る資格などあるのだろうか。

 公文書改ざん事件については、本物の首謀者が国家の中枢でいまだに我が物顔に権勢を振るっている。本物の悪が、森友事件を闇の葬り去ることができたと薄笑いを浮かべている。恐ろしいことである。(p-480)

 

 はっきりと名指しはされていないが、「本物の悪」とは明らかに安倍晋三のことだろう。

 『国策不捜査』の発行は、「2020年2月15日」である。第二次安倍政権最後の年の2月に発行されている。官邸にいる安倍晋三に向けて、このようなエピローグを籠池は書きつけたのだ。



 『国策不捜査』は籠池の恨み節でもあるのだが、籠池本人や妻も森友学園関係の保護者とさまざまなトラブルを引き起こしていた。「犬臭い」、「在日韓国人、支那人に近づくな」、「便のついたパンツ事件」などとネットを検索すれば教育の場とは思えないトラブルはすぐに確認できる。森友問題に出てくる人物たちは所詮同じ穴の狢という声も聞こえてくる。

 しかし、籠池夫妻の有罪確定で森友事件は終わったわけではない。

 鉛筆なめなめして金を多くとろうとした噓つきはつかまったが、国の文書を改ざんまでしてあったことを無かったことにしてしまおうとした巨悪はその罪を問われていない。

 森友事件では、法治国家の根幹をないがしろにするような、不正とウソがまかり通ってしまった。

 「いい土地ですから、進めてください」とは、どのような権限のもと発せられた言葉なのか。

 「神風が吹いた」のはなぜだったのか。

 財務局長官だった迫田も、佐川も、国税庁長官に昇進できたのはなぜなのか。

 国会では森友事件で139回の嘘の答弁があった。

 八億円もの値引き、公文書改ざん、多くのことが解明されていない。

 その事実を明らかにし、その責任を明確にすることは、民主主義の国として後世に正しい歴史を遺すための大切な一歩だ。

 森友劇場の幕は開いたままだ。

 

 








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強権の発動と嘘の言葉に塗れた安倍長期政権②            関川宗英

2022-09-14 16:47:49 | 安倍晋三

強権の発動と嘘の言葉に塗れた安倍長期政権②            関川宗英

 

 

1 「丁寧な説明」に程遠い国会答弁

 では実際の国会論戦の模様はどうだったのか。

 以下は、2017年6月16日、参議院予算委員会の一コマだ。この日は、「共謀罪」法が強行採決された次の日である。

 「国会会議録検索システム」から引用する。



025 福山哲郎

○福山哲郎君 民進党・新緑風会の福山でございます。総理を始め閣僚の皆さん、よろしくお願い申し上げます。

 まず、冒頭でございますが、非常に残念なことが与党自民党からありましたので、一つ国民の皆さんにお知らせをしておきたいと思います。

 今日、実は、予算委員会、これ三月の終わり以来の久しぶりの予算委員会ということで、今、加計学園の問題が大変国民の関心も高いということですので、野党としては前川前文科省事務次官の参考人招致をこの予算委員会に求めました。残念ながら、またもや自民党が拒否をしました。前川前事務次官は民間人でいらっしゃいますけれども、実はこの通常国会に予算委員会、来ていただいております。なおかつ、御本人も、参考人も証人喚問も出席の意向があると言われているにもかかわらず、呼ばない理由はないんですが、理由も明確にされないまま、自民党は参考人の招致を拒否をしました。これは強く抗議をしたいと思います。

 一方で、共謀罪の審議の法務委員会は、与党が全会一致の原則を崩して多数決で刑事局長を参考人にずっと居続けさせるという、これも憲政史上例にないことをやられました。片方では刑事局長を陪席、多数決で決めて、片方では前川前事務次官、この国会に、この通常国会に来ていただいている方にもかかわらず拒否をしたと。非常に凸凹の対応だというふうに思っておりまして、非常に残念に思います。

 それで、総理、国会がお決めになることだと言われるのは重々分かるんですが、やはり総理がいろんなところで、総理の御意向だとかいうことで、前川前事務次官は間違いなく総理の御意向があったと、それから文書の存在も認められたわけです。これは、総理が今言われていることと真っ向から対立します。例の森友学園の籠池さんのときには、総理を侮辱したといって証人喚問をやられました。前川前事務次官は侮辱はされていないと思いますが、総理の今の主張とは真逆のことを言われています。

 やっぱり、こういう場で総理が身の潔白を証明する場合に、前川前事務次官を国会に呼んで、参考人として来ていただく、若しくは証人喚問すると。総理としても、自民党の総裁でいらっしゃいますから、国会がお決めいただくんだといういつもの答えではなく、少し前向きにお答えをいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

026 安倍晋三

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 真逆ということではないんだろうと思いますが、いずれにせよ、これはもう福山委員が重々承知の上で質問されているということも私も分かっておりますが、まさにこれは院の方で、また委員会の方でお決めになることでありますから、行政府の長としてそれに対して指示をするということが今までもなかったわけでございますので、これはまさに国会においてお決めをいただきたい。国会においてお決めをいただければ、我々はそれに従っていくことは当然のことであろうと、このように考えております。

027 福山哲郎

○福山哲郎君 行政の方で決めたことはないということを言われるから国民は白けるんです。この間の強行採決、中間報告という名の審議打切り、強行採決だって、それは官邸の意向が強く働いていると世間はみんな思っているわけです。

 やはりそういうことを言われるから国民の皆さんは白けるというふうに思いますし、まあ理事会で、委員会で決めていただければ呼べばいいとおっしゃっているので、是非、自民党の皆さん、与党の皆さんは参考人招致に賛成をいただきたく思います。

 続いて、総理、前川前事務次官ですが、前川氏を文科事務次官に任命をされたのはどなたですか。

028 安倍晋三

○内閣総理大臣(安倍晋三君) ちょっと私も記憶が余り、事務次官を、様々な事務次官が内閣でそれぞれ任命されておりますから、一々私もそれは承知をしていないところでございます。

029 福山哲郎

○福山哲郎君 別にここで僕は総理を、何か知らないのかみたいなことを言うつもりは全くありませんが、内閣人事局の制度になって、普通、任命権者は一義的にはもちろん文科大臣です。しかしながら、今は任命協議というのがあって、そこは総理と官房長官と文科大臣と三人で協議をして最終決定になって、任命されるのは文科大臣ということになっています。

 ですから、総理と官房長官と文科大臣が協議をして事務次官は決まります。もちろん前川前次官は安倍内閣での任命ですが、それでよろしいですね。

030 安倍晋三

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 形式的なものでありますから、言わば協議ということについて私は全く記憶がないわけでありますし、基本的に大臣から言われたものを事実上ほぼ全て認めてきているところでございますが、前川次官が安倍内閣、もう安倍内閣も四年続いておりますから、恐らくその間に任命されたのだろうと、このように思います。

031 福山哲郎

○福山哲郎君 今の答弁はちょっと問題で、内閣人事局の制度になっていますから、総理も官房長官も十分意思決定者です。

 それで、私は思うんですけど、どうですか、やっぱり自分の時代の事務次官、文科省の事務次官というのは、やっぱり僕は、それぞれ本当に、国家公務員試験を合格されて一生懸命国のために尽くしてこられた人です。総理にとっても、やはり事務次官ですから、一緒に仕事をされてきた方です。その方が、この加計問題に対して総理の意向を感じざるを得なかったと、それから文書の存在はあると、あるものをないとは言えないといって会見等をされました。一緒に仕事を安倍政権の中でやって、半年とはいいながら事務次官に任命をされた人がこういうことを言われる事態について、総理はどう思われますか。

032 安倍晋三

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 前川前次官も、これは日経新聞のインタビューにおいては、これは政策的なことなので政府の意向は関係ないという趣旨のこともおっしゃっておられるというふうに承知をしておりますが、いずれにせよ、先ほど山本大臣と阿達議員とのやり取りの中にあったように……(発言する者あり)ええ、先ほどですね。どのようにそれぞれの、言わばこれ、前川次官と私が議論したということではなくて、この当該の内閣府の職員と文部科学省の職員が議論をし、そのときの出来事をメモにしたということであり、そのことから前川次官が感じ取ったこと等についてお話をされているんだろうと、このように思う次第でございますが。

 いずれにせよ、これ政治的な言わば事柄となった段階においては、また大臣なり、また私にも直接問合せをしていただければよかったのかなと、こんなように考えているところでございます。

033 福山哲郎

○福山哲郎君 私の聞いているのは、このことを言っているんではなくて、前次官だった方が、総理の御意向はあった、さらには、文書が確認できなかったとしている安倍政権に向かって、文書は存在して、あるものをないとは言えないと、そして行政がゆがめられたとまでおっしゃっている。それは、総理として、事務次官は一緒に仕事する人たちですから、そういう状況に今なっていることについてどう思われますかとお伺いしているんです。

034 安倍晋三

○内閣総理大臣(安倍晋三君) そういうことであれば、大変残念でございます。

035 福山哲郎

○福山哲郎君 その前川前事務次官が実在する本物だと主張していた文書について、やっと文科省が再調査して、十九の資料のうち十四の存在が確認をされました。前川氏の証言はほぼ正しかったと言えると思います。確認できなかった三つも、他の法人との関係等々がありまして、もうほぼ全てが実在するという状況でした。

 総理、今の時点では、総理は本会議で確認できなかったと答弁されているんですけれども、今の時点では、あの文書について、我々民進党が提出をし、我々の仲間が本当にいろんなところから集めてきて、毎日毎日プロジェクトチームをやり、表に出してきたあの文書、今は本物であるということを総理は認めていただけるんですね。

036 安倍晋三

○内閣総理大臣(安倍晋三君) もう既にこれは文部科学大臣が記者会見でお答えしたとおりであり、それに尽きるわけでございますが、同時に、この文書の問題をめぐって対応に時間が掛かったということについては率直に反省したいと、こう考えております。

037 福山哲郎

○福山哲郎君 もう一度。これはもう実在する本物だということは、総理もお認めいただくということでいいんですね。イエスかノーかでお答えください。

038 安倍晋三

○内閣総理大臣(安倍晋三君) これは、私も答えますが、まず文科大臣からお答えをさせていただきたいと思います。

039 松野博一

○国務大臣(松野博一君) お答えさせていただきます。

 今先生から御指摘があったとおり、十四の文書に関しては、これは全く同じ形式のものではございませんが、同種の内容のものも含めて存在が確認をされたということでございまして、二つは存在が確認されなかったということでございます。

040 安倍晋三

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 詳細にわたってお答えをする必要があるので、まず文科大臣からお答えをさせていただいたところでございますが、まさに文科大臣からお答えをさせていただいたとおりでございます。

041 福山哲郎

○福山哲郎君 違います。総理の口から、この文書は実在したことを自分も認めたと言っていただきたいんです。本会議で確認できない確認できないと我々の前で言われているわけです。

 あえて私は虚偽の答弁をしたとは言いません。なぜならば、再調査をして分かったわけですから、確認ができなかったと言っていた時点では本当に確認できなかったので、それを虚偽だとは言いませんが、本会議で延々と、委員会も含めて、確認できなかったと言われているので、今はあの文書は存在しているものだということを総理自身がお認めいただいたということを言っていただければ結構です。

042 安倍晋三

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 今、これは松野文科大臣が答弁をさせていただいたことを、これ踏まえて聞いておられますから、松野大臣から、二つについては確認できなかったということでございます。その上において、まさにそれが、また、形式等も違うものがあったというふうにもお答えをさせていただいておりますが、中身については、中身についてはそういう趣旨のものがあったということでございます。

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=119315261X01920170616&current=1



 長々と引用したが、福山議員の質疑に対して、安倍晋三が前川前次官の参考人招致を拒否し、「総理のご意向」の文書の存在を認めるまで12分かかっている。

 丁寧に説明するといいながら、このようなノラリクラリの答弁が延々と続く。質問に対してまともに答えず、今までの経過をなぞったり、同じ答弁を繰り返す。しかしTVニュースは、そんなはぐらかしの言葉の中から、質問に対する答えらしき言葉を切り取って、編集して、国会論戦を30秒ほどで伝える。野党と安倍晋三の議論の様子を直接30分でも見れば、誰もが呆れ返るはずだが、TVニュースだけでは国会のひどさは判らない。

 そんな不毛な国会論戦は突然断ち切られ、「共謀罪」法は強行採決された。

 2017年6月19日の記者会見終了に合わせて、森友問題の籠池邸や幼稚園に家宅捜査が入る。

 安倍政治の強権ぶりがまた一つ露わになった。





2 更に荒れた2017年後半

 国会閉幕までを2017年の前半の区切りとするが、まさに怒涛のような政治劇だった。そしてその荒れ模様は、2017年の後半も続く。だが、安倍晋三は見事に巻き返し、10月の衆議院選挙で圧勝する。

 

 「丁寧な説明」などすることはなかった安倍晋三、ざっくりと2017年後半の流れを確認する。

 

6月22日 国会閉幕後、野党は臨時国会の招集を内閣に要望する。

7月2日 都議選、小池百合子の都民ファーストの会圧勝、自民党は歴史的な敗北。

7月10日 国会閉会中審査。前川前次官参考人招致。安倍首相、外遊中、欠席。

7月24日 国会閉会中審査。安倍首相、加計学園獣医学部の話を知ったのは「1月20日」と発言。

7月28日 稲田朋美、PKO日報問題で辞任。

7月31日 籠池夫妻逮捕。

8月2日 第3次安倍内閣発足。

9月28日 臨時国会の召集。衆議院解散。

10月22日 衆議院選挙。自民党圧勝。

11月1日 第4次安倍内閣発足。

11月10日 大学設置・学校法人審議会が加計学園獣医学部の開学を認める答申。

11月14日 林文科相が開学を正式に認可。

 

 以上が2017年後半だが、6月22日の臨時国会要望から振り返る。

 野党4党(民進、共産、自由、社民)は、それまで予算委員会の集中審議や前川前次官の証人喚問を要求してきたが、与党からはゼロ回答だったため、日本国憲法第53条に基づく臨時国会の召集要求を衆院、参院それぞれに提出した。

 しかし安倍内閣は、「招集の時期は憲法に明示されておらず、内閣の判断に委ねられている」として、臨時国会を拒否し続ける。


http://harusan.net/emapg/archives/date/2017/07/01

 

 「日替わりで小池に棚ぼた落ちてくる」は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった都議会選前の小池百合子のことだろう。

 そして連日の「PKO日報問題」でメディアに追われていた稲田朋美、それをかばう安倍晋三。「総理殿もうムチャクチャでゴザリマス」とぼやきたくもなる。

 様々な疑惑に答えず、逃げの姿勢の安倍政権は、支持率を下げていく。

 

 7月1日は、都議会選の応援で安倍晋三が秋葉原に登場した。会場には籠池夫妻も現れる。安倍の演説とともに、「安倍やめろ」のコールが高まる。それに対して一国の首相が「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と声を荒げる一幕もあった。

 

 森友問題、加計問題、都議選、PKO日報問題、と追い詰められていた安倍晋三、7月の内閣支持率は30%代まで下落した。ところが、9月には50%に上昇する。

 支持率回復の理由は、二つ考えられる。

 一つは、小池百合子の「排除します」発言、民進党の分裂など政局の混迷。

 二つは、北朝鮮のミサイル、核実験の成功。

 希望の党、民進党のゴタゴタはオウンゴールだが、北朝鮮の動きが日本全体に与えた影響は大きかった。

 7月4日、7月28日と火星14号に続き、8月29日の火星12号は北海道上空を通過したという。いずれも大陸間弾道ミサイルだった。

 そして、9月3日、北朝鮮は6回目の核実験を行う。6回目の核実験は、インド、パキスタンにならえば、事実上の核保有国として認められることになるそうだ。

 北朝鮮の「核技術完成」、「核を搭載した、大陸間弾道ミサイルを持った」という事実は世界を揺るがした。

 北朝鮮のミサイルが飛ぶたびに、日本中の携帯のアラームが鳴った。核実験を受けて安倍晋三は「断じて容認できない」と非難する。一連の北朝鮮の動きがメディアを騒がす中、内閣支持率は回復する。

 安倍晋三は政権維持のため、解散総選挙を決断する。

 

 野党の臨時国会要望から98日目の9月28日、やっと衆議院は招集となったが、その冒頭、衆院解散が強行される。首相の所信表明も野党の代表質問もなかった。

 国会の召集直後に首相が冒頭解散に踏み切るのは戦後四回目で、二十一年ぶりのことだそうだ。しかも、安倍晋三は8月に内閣を改造しているが、新内閣が本格的な論戦をせず解散するのは戦後初めてだという。9月28日の衆院解散は日本憲政史の汚点ともいえる暴挙だった。

 

 そして10月22日、衆議院選挙。自民公明与党は圧勝、三分の二を超える議席を獲得する。

 衆議院選挙で禊は終わったかのように、森友も、加計も、急激にその熱を覚ましていく。 

 2017年はこのように激しく揺れたが、安倍晋三は、またも生き残った。

 

 2018年4月、加計学園獣医学部は開学した。安倍晋三は4月26日、この問題について「事実に基づき、丁寧な上にも丁寧な説明をしていく努力を重ねたい」と記者団に語っている。





4 民主主義の冒涜、国家の衰退

 第二次安倍政権は憲政史上、最長の政権だが、8年9か月のその中身は、この2017年のような強権の発動と嘘の言葉に塗れた政治劇の連続だった。

 

 集団的自衛権の憲法解釈を、内閣法制局の人員を入れ替えたうえで、閣議決定によって変えてしまった安倍晋三。

 

 「桜を見る会」の国会答弁では、118回も嘘をついたと衆院調査局は報告している。

 

 安倍晋三の政治とは、法治国家の根幹に唾を吐くような、民主主義を冒涜するものだった。

 

 丁寧に説明する、そんな言葉を連発しながら、第2次安倍政権の8年9ヵ月は過ぎていった。

 なんと言葉の軽い首相だったことか。

 8年9ヵ月の安倍政権の間に、格差社会の溝は深まり、弱者が弱者を攻撃するような荒んだ事件に心を痛めることが増えたように感じている。

 

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強権の発動と嘘の言葉に塗れた安倍長期政権①            関川宗英

2022-09-13 16:47:28 | 安倍晋三

強権の発動と嘘の言葉に塗れた安倍長期政権①            関川宗英



 安倍晋三の国葬が議論になっている。

 国葬に対する世論調査は9月4日時点で、読売、産経も含めて、全て「反対」が「賛成」を上回った。



 9月8日、岸田首相は、「丁寧に説明したい」と閉会中審査を開いた。

 しかし、国葬の理由、法的な根拠など同じ説明をなぞるだけだった。安倍晋三と旧統一教会の関係については「本人が亡くなった今、実態を確認することは難しい」などと述べた。そして、今後も理解を得られるよう丁寧に説明していきたいと同じ言葉を繰り返した。

 

 岸田首相は「丁寧に説明していく」と本当に思っているのだろうか。

 

 安倍晋三もこの言葉をよく使った。

 

 

1 「丁寧に説明する」という嘘

 

 2015年4月17日、安倍晋三は翁長雄志沖縄県知事と初めて会談した。翁長雄志は、前年の11月の沖縄知事選で、辺野古移転容認派だった仲井真弘多を破っている。以下は、その時の安倍晋三の言葉である。

 普天間の危険性の除去、撤去はこれはわれわれも沖縄も、思いは同じであろうと思います。

 その中においてわれわれといたしても一歩でも二歩でも進めていかなければならないという中におきましては、辺野古への移設が唯一の解決策であると考えているところでございまして、これからもわれわれ政府が丁寧なご説明をさせていただきながら、ご理解を得るべく努力を続けていきたいというふうに思います。

 安倍晋三は、丁寧に説明していきたいと述べているが、その機会はこの会談以降なかった。サンゴは移したなどと嘘をついて、辺野古の工事を強引に推し進めた。

 

 「丁寧に説明していく」、このような言葉を安倍晋三はその最長政権下で何度使っただろうか。

 

「私自身がもっともっと丁寧に時間をとって説明すべきだったと、反省もいたしております」

 これは2013年12月9日の言葉だ。首相官邸ホームページにも載っている。

 特定秘密保護法が強行採決されたのはこの三日前、12月6日である。

 NHKが行った世論調査では、国会で議論が尽くされたと思うかどうかについて、「尽くされた」が8%に対して「尽くされていない」が59%だった。



「丁寧に説明していく、その努力を積み重ねたい」

 この言葉は、通常国会閉会を受けて2017年6月19日の記者会見で述べられたものだ。

 この会見の四日前の6月15日、なんと朝午前7時すぎ、物議をかもしていた法案が参議院で強行採決されている。過去三度廃案となっていた、「共謀罪」法である。会見では、「国会の開会、閉会にかかわらず、わかりやすく丁寧に説明したい」との言葉もあった。

 

 この時の安倍首相の発言には、森友問題に続き、加計問題の追及も受けていた渦中だったので、それらの疑惑についての「説明」も含まれていた。

 6月15日は、60年安保で樺美智子が死んだ日だ。岸信介が安保条約を強行採決したように、安倍晋三も賛成反対の議論沸騰する中、権力を振りかざす決着を図った。

 強権を発動しながら、口では「丁寧な説明」と繰り返す。

 「丁寧は意味が違うと広辞苑」。閉会直後の6月21日の朝日川柳にあるが、庶民の嘆きなど安倍晋三の耳には届いていなかっただろう。

 

 

※「共謀罪」法~テロ等準備罪処罰法。犯罪を計画段階から処罰する『共謀罪』の趣旨を盛り込んだ改正組織的犯罪処罰法。




2 激動の2017年前半

 

 2017年の「共謀罪」法の強行採決は、法務委員会を通過せず、いきなり参議院本会議で採決された。なぜこのような極めて異例な採決を、与党は強行したのか。当時のTVニュースを引用する。

 

共謀罪「ウルトラC」強行採決 そのワケは

日テレNEWS 2017年6月15日 17:50

 15日午前、徹夜の与野党攻防の末、“共謀罪”の趣旨を盛り込んだ“改正組織犯罪処罰法”が可決・成立した。自民党は委員会採決を省略する異例の手段で採決に踏み切ったが、こうした強硬な手法に自民党内からも批判の声が出ている。



■委員会採決省略「ウルトラC」のワケ

 今回、なぜここまで委員会での議論を無視したやり方をしたのか。

 政府与党はこの国会で、何としても共謀罪の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法を成立させたいが、そのために国会会期を延長すると、野党に加計学園の問題で追及の場を与えることになってしまう。それが政権にダメージとなり、来月2日投開票の東京都議会議員選挙に悪影響が及ぶ――という、いわば自民党の保身ための戦略があった。

 さらに、この都議選をめぐってはもう1つ、公明党の意向もポイントになっていた。

 実は、参議院法務委員会の委員長は公明党の秋野議員。参議院自民党の幹部は「法務委員会での採決を省略して行わなかったのは公明党への配慮だ」と話している。

 先月、衆議院の法務委員会で同じ法案の採決を行った時は、委員長を野党の議員が取り囲んで怒号が飛び交うなかでの採決だった。「これと同じ光景を公明党が重視する都議選の前に、公明党委員長の手で展開したくない。公明党は強引な採決を行う党というイメージをつけたくない」と、公明党側から自民党に要請されていたということだ。

 これに応じる形で、委員会採決を省略する「ウルトラC」にたどりついた。

■“加計学園”今後の対応は

 与党の都合で異例の国会対応が行われたが、これで会期の延長はせずに共謀罪の趣旨を盛り込んだ法律は成立。加計学園をめぐる再調査の結果も出て、野党による追及はこれでおしまいとなるのだろうか。

 加計学園の獣医学部新設をめぐっては、16日、首相出席のもと、参議院予算委員会で集中審議を3時間行うことが決まり、かろうじて安倍首相が再調査結果をうけて、野党の質問をうける機会は設けられた。しかし、この3時間でおしまいなのか、また、衆議院でどうするかなどはまだ決まっていない。

 首相周辺は、「何らかの形で首相が答える場を作るべき」と話していたが、形だけの場を作っておしまいでは批判逃れのためと受け止められても仕方ない。土日を返上するか、もしくは国会を閉じた後も、「閉会中審査」という方法で審議を行うなど、丁寧な対応をとらなければ今回の強引な国会運営のしっぺ返しは覚悟しなくてはならない。

https://news.ntv.co.jp/category/politics/364353



 ニュース記事にもあるように、法案は5月19日に衆議院の法務委員会で採決されていた。委員会の強行採決は例にもれず委員長席を議員が取り囲むドタバタの画を生み、メディアを賑わせた。参議院では、このような画を衆目にさらして更に報道の過熱を招くような愚を避けたということだろう。

20170519衆法務委

 

 政府与党は、森友問題、加計問題の追及を避けるため、そして直後に控えていた都議会選への影響を抑えるために、国会の閉幕を急いだのだ。

 

 2017年6月15日、「共謀罪」法強行採決のこの日には、加計問題でも大きな動きがあった。

 松野文科相が、疑惑の的だった「これは総理のご意向」などと記された文科省の文書が確認されたと発表したのだ。

 この文書については、5月19日に「確認できなかった」と調査結果を発表していた。

 すると5月25日、前文科省事務次官だった前川喜平が「あったことをなかったことにはできない」と記者会見を開く。

 安倍晋三が「腹心の友」と認める加計孝太郎。加計学園の獣医学部開設が、「総理のご意向」で進んでいるのではないかという疑惑。

 国会は加計問題で大きく揺れていた。

 

 一方、2月17日の「私や妻が関係していたなら総理大臣も国会議員も辞める」との答弁から火が点いた森友問題は、安倍昭恵名誉校長の辞任、籠池理事長の補助金搾取容疑の発覚と目まぐるしく展開する中、5月8日には改ざんされた決裁文書が明るみになった。

 森本問題でも、国会は連日、大揺れとなっていた。

 

 2017年通常国会閉幕は、森友、加計という疑惑を、共謀罪法の異例の強行採決で断ち切るという、前代未聞の荒技だった。



 2017年通常国会閉幕の安倍晋三の言葉の一部を、首相官邸のホームページからそのまま引用する。

 

2017年6月19日 記者会見(首相官邸HP)

(内閣広報官)

 それでは、皆様からの質問を頂きます。

 質問をされる方は、所属とお名前を明らかにされた上で、お願いいたします。

 初めに、幹事社の方からの質問です。どうぞ。

(記者)

 幹事社の毎日新聞の高山と申します。よろしくお願いします。

 先ほど、冒頭でもおっしゃいましたが、この通常国会では加計学園をめぐる問題や森友学園をめぐる問題などの論戦に注目が集まりました。加計学園の問題では、特に国会最終盤、文科省の再調査で総理の御意向と明記された文書の存在が確認される一方、内閣府の調査ではそういう発言や文書はなかったという調査結果が発表され、食い違いも見られました。

 野党は閉会後もやっぱり説明を行うべきだと主張していまして、森友学園についても疑念はやっぱり払拭されていないんじゃないかと主張しています。この2つの問題について、もう十分、説明責任は果たされたという認識でいらっしゃいますでしょうか。また、先ほど説明を積み重ねるともおっしゃいましたが、どのように説明を果たしていきますか。

 さらに、テロ等準備罪を新設する法案の審議では、与党は委員会審議を省略する中間報告という異例の手法を使って成立させました。当然、法案の審議が不十分だったという指摘もございます。国民の不安払拭に向けて、どう説明をこれからも果たしていくおつもりでしょうか。

 この週末の各社の世論調査では10ポイント近く、内閣支持率も落ち込みました。そうした状況も踏まえて、以上の点、お答えいただけたらと思います。

 以上です。

(安倍総理)

 今、御指摘をいただいた問題については、国会において、政府として説明を重ねてきたところでありますが、残念ながら、必ずしも国民的な理解を得ることはできていない。率直に、そのことは認めなければならないと考えています。

 テロ等準備罪処罰法は、テロ対策について国際的な連携を強化していく上において不可欠な法律であると考えておりますが、依然として国民の皆様の中に不安や懸念を持つ方がおられることは承知をしております。

 しかし、改めてこの機会にもう一度、私からはっきりと申し上げておきたいことは、一般の方が処罰の対象となることはない。そしてまた、一般の方が被疑者として捜査の対象となることはないということは改めてはっきりと国民の皆様に申し上げておきたいと思います。

 これらの法律を実施していくに当たって、国会での御議論なども踏まえて、適正な運用に努めてまいります。しっかりと適正に運用していく中において、今、私が申し上げたことについて、我々が申し上げていることは間違いなかった。そう確信していただけると、こう思っています。

 国民の命と財産を守るための法律であります。国民の命と財産を守るために、万全を期していく考えであります。

 また、森友学園への国有地の売却については、既に会計検査院が検査に着手をしており、政府としては全面的に協力をしてまいります。

 国家戦略特区における獣医学部の新設につきましては、文書の問題をめぐって対応は二転三転し、国民の皆様の政府に対する不信を招いたことについては、率直に反省しなければならないと考えています。今後、何か指摘があれば、政府としてはその都度、真摯に説明責任を果たしてまいります。国会の開会・閉会にかかわらず、政府としては今後とも分かりやすく説明していく。その努力を積み重ねていく考えであります。

 今国会の論戦の反省の上に立って、国民の皆様の信頼を得ることができるように、冷静に、そして分かりやすく、一つ一つ丁寧に説明していきたいと思います。

https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10992693/www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2017/0619kaiken.html



 国民的な理解を得ることはできていない。

 依然として国民の皆様の中に不安や懸念を持つ方がおられる。

 国民の気持ちに寄り添うような言葉を並べ立て、「一つ一つ丁寧に説明していきたい」という安倍総理だが、「共謀罪」法は強行採決された。

 権力が牙をむいた、その事実は歴史に刻まれている。

 

(「強権の発動と嘘の言葉に塗れた安倍長期政権②」につづく)

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安倍晋三「こんな人たちに負けるわけにいかない」   関川宗英

2022-08-13 18:07:07 | 安倍晋三

安倍晋三「こんな人たちに負けるわけにいかない」   関川宗英

 

 2017年7月、都議選前日の秋葉原、「安倍やめろ」、そう書かれた横断幕が広がった。それは、当時の首相、安倍晋三の到着を告げたタイミングだった。

 

 安倍晋三が演説を始めると、「安倍やめろ」との声は大きくなる。すると、一国の総理がヤジを飛ばす一団を指さして「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と言った。

 

「皆さん、あのように、人の主張の、訴える場所に来て、演説を邪魔するような行為を私たち自民党は絶対にしません!私たちはしっかりと政策を真面目に訴えていきたいんです!憎悪からは、何も生まれない。相手を誹謗中傷したって、皆さん、何も生まれないんです。こんな人たちに、皆さん、私たちは負けるわけにはいかない!都政を任せるわけにはいかないじゃありませんか!」 

 

 支持者は日の丸の小旗を振りながら「そうだ」と賛同の声を上げた。しかし、それ以上に「安倍やめろ」の声は大きくなった。

 

 テレビやSNSでこの場面が拡散されると「総理大臣は国民と戦う立場じゃない」「あなたがバカにしている『こんな人たち』も、あなたが守らねばならない国民なんです」などと安倍への批判が広がった。

 

 

 安倍晋三の「こんな人たち」という言葉は、国民の分断を深めるものだ。当時安倍晋三は自由民主党の総裁だが、一国の総理だ。すべての国民の代表である。しかし、安倍晋三にとっては、自分を支持してくれる人だけが「私たち」なのだろう。

 「こんな人たち」と言ってしまうとき、国民は「私たち」とそうでない人たちに分断される。

 

 

 安倍晋三は対決型の、力強い政治家をアピールしてきた。敵を作り、それと対峙することで、自分の存在価値を露出させる。敵を批判し、嘲笑し、数の力で圧倒して、自らの強さと実行力を見せつける。そんな対決型の姿勢を、「決める政治」として評価する人たちもいるが、一方、安倍晋三が強行する政策や次々と採決されていく法案に疑問を呈する人々の不満は怒りは募るばかりだ。

 対決型の政治に、国民の融和は生まれない。

 

 

 2008年の米大統領選、共和党のマケイン候補と激しい選挙戦を戦った民主党オバマ候補は、勝利が決まった後の演説で、マケイン氏を称え、こう語った。

〈私がまだ支持を得られていない皆さんにも申し上げたい。今夜は皆さんの票を得られなかったかもしれませんが、私には、皆さんの声も聞こえています。私は、皆さんの助けが必要なのです。私はみなさんの大統領にも、なるつもりです〉(加藤祐子訳)

 

 安倍晋三は、首相でありながら、国会の討論の場で、「ニッキョウソ」などと野党の議員に対してヤジを飛ばす男だった。

 また別の日、野党議員から総理を論難する厳しい言葉をうける。その追及が時間切れで終わった時、「意味のない質問だよ」と言ったこともあった。

 残業代ゼロ法案が審議されていた時、過労死遺族との面会を拒否した。

 

 彼の言動から、一国の総理として、すべての国民の命と安全がその双肩にかかっているその重みと覚悟など微塵も感じることはなかった。

 

「根拠法がなく定義もない。国会で説明もせずに公費が使われていいのだろうか」(琉球新報)

「安倍氏の負の側面に向き合わず、ふたをしてしまうことにつながらないか」(新潟日報)

 

 安倍晋三の国葬などとても認められない。

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安倍晋三の死           関川宗英

2022-07-22 04:07:34 | 安倍晋三

安倍晋三の死           関川宗英



1 安倍晋三の死

 安倍晋三元首相が2022年7月8日、死去した。67歳だった。奈良市で参院選の街頭演説中に銃で撃たれたためだ。犯人の山上徹也容疑者(41)は、その場で逮捕された。

 安倍晋三は2006~07年と12~20年の2度にわたり首相を務め、通算の在任日数は3188日で憲政史上最も長かった。

 メディアは安倍晋三の功績を称え、家族葬のはずの葬儀会場付近にあふれる人々の姿をTV映像に映し出す。

 岸田内閣は国葬の実施を決定した。国葬が実施されるとなれば、吉田茂に続いて二人目となる。

 しかし安倍晋三ほど、言葉を弄び、法治国家の基礎をないがしろにした首相はいない。国会では何度も嘘をつき、質問中の野党議員に「ニッキョウソ」とヤジを飛ばす男だった。

 安倍は、日本の構造的な権力のトップに長く君臨し、二度の突然の首相退陣後も影響力を発揮した。「森友」「加計」「桜を見る会」など様々な疑惑にまみれながら、集団的自衛権の憲法解釈変更、安保法制、秘密保護法など、自ら「国民に不人気」と語った政策を強行に進めた。

 「米国の若者が日本のために血を流すのに日本は流さない」と日米同盟の強化を強調し、戦後レジームからの脱却を唱え続けた。それは世界の大国に伍して、日本が戦場に立つことを意味している。

 

 安倍銃撃事件の後、統一教会との関係が取りざたされているが、安倍の汚点がまた明らかになる。日本をダメにした首相の筆頭として、安倍晋三は後世の歴史に刻まれるだろう。



 

2 権力に近いレイプ犯

 

 日本の権力構造がいかに腐敗しているか、それは一つの事件を追うだけでも見えてくる。

 

 安倍銃撃後の7月10日、フランスのフィガロ紙は、銃撃事件に関する記事の中で「日本の警察は、権力に近いレイプ犯の起訴を止めたことで有名な中村格氏が現在トップを務めている」と報道した。

 「権力に近いレイプ犯」とは、元TBSワシントン支局長、山口敬之のことだ。 




 山口敬之のレイプ事件は、2015年4月3日に起きた。ジャーナリストの伊藤詩織さんをホテルに連れ込み、レイプしたというものだ。

 その事件から7年、なんと安倍晋三銃撃事件の前日の7月7日、最高裁は山口の上告を退けている。山口敬之のレイプは認定された。



最高裁 伊藤詩織さんの性的被害認め 賠償命じる判決確定

2022年7月8日 NHK 

 

ジャーナリストの伊藤詩織さんが元TBS記者の山口敬之さんに性的暴行を受けたと訴えた裁判で、最高裁判所は双方の上告を退ける決定をし、山口さんに330万円余りの賠償を命じるなどした判決が確定しました。

ジャーナリストの伊藤詩織さんは7年前、元TBS記者の山口敬之さんとの食事で酒に酔って意識を失い、性的暴行を受けたとして賠償を求めました。

山口さんは同意があったと主張して争っていましたが、2審の東京高等裁判所は「伊藤さんの供述は具体的で一貫しており、信用できる。同意がないのに性行為を行ったと認めるのが相当だ」と指摘し、1審に続いて伊藤さんの訴えを認め、330万円余りの賠償を命じました。

一方、事実と異なる内容を公表され名誉を傷つけられたという山口さんの訴えについては、1審は退けましたが、2審は「記者会見や著書の内容のうち、食事中にデートレイプドラッグを飲まされたという部分は的確な証拠がなく、真実とはいえない」と一部認め、伊藤さんにも55万円の賠償を命じました。

これについて双方が不服として上告していましたが、最高裁判所第1小法廷の山口厚裁判長は、8日までに退ける決定をし、2審の判決が確定しました。

 

伊藤さんの会見 #MeToo 性被害をめぐる議論のきっかけに

伊藤詩織さんは被害について告訴しましたが、東京地方検察庁は嫌疑不十分で不起訴としました。

これについて伊藤さんは2017年、検察審査会に不服を申し立てるとともに、顔や名前を明らかにして記者会見を開き、性被害にあったと訴えました。

確定した2審の判決は、伊藤さんが被害を公表したことについて「性犯罪の被害にあった女性が泣き寝入りせざるをえない状況を憂慮し、これを改めるきっかけにしたいという目的で、公益を図るためだった」と認定しています。

伊藤さんの会見は「#MeToo」の動きが世界で広がる中で注目を集め、日本での性被害をめぐる議論のきっかけにもなりました。

刑事事件については、その後、検察審査会が不起訴が相当だと議決しています。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220708/k10013708631000.html




 引用したNHKの記事では、「ジャーナリストの伊藤詩織さんが元TBS記者の山口敬之さんに性的暴行を受けたと訴えた裁判」について大まかな過程が紹介されているが、大事な点が抜けている。それは、事件後の警察の動きだ。警察は山口を逮捕しようとしていたが、逮捕中止の命令が警察の上層部からかかったという特異な経緯だ。

 性的暴行を受けた後の5月30日、伊藤詩織さんは警察に出向き、準強姦容疑で被害届を出した。

 2015年6月8日、高輪署の捜査員は山口敬之の逮捕状を取り、成田空港で帰国する山口敬之を逮捕するために待ち構えていた。しかしその逮捕執行の直前、「警視庁幹部の指示」により、山口の逮捕は見送られたという。

 ストップをかけたのは、当時の警視庁刑事部長中村格だった。中村格は、週刊新潮のインタビューに「私が決裁した」と明確に述べている。

 その後準強姦容疑の山口敬之は書類送検されるが、2016年7月22日、東京地方検察庁は嫌疑不十分で、不起訴処分とした。

 それから約一年後の2017年5月、伊藤詩織さんは検察審査会に「不服申し立て」をするが、4か月後に検察審査会は「不起訴相当」を議決する。

 そして2017年9月22日、伊藤詩織さんは慰謝料など1100万円の損害賠償を求める訴えを起こしたのだ。以上のような特異な経緯は見過ごせない。


© 時事通信 提供 伊藤詩織さん(EPA時事)

 

 <レイプ事件から最高裁の判断までの流れ>

2015.4.3  レイプ事件

2015.4.30  伊藤詩織さん準強姦容疑で被害届提出

2015.6.8  高輪署捜査員が山口敬之を逮捕しようと動き出すが、警視庁刑事部長中村格がストップをかける

2015.8.26     山口敬之、準強姦容疑で書類送検

2016.7.22   東京地方検察庁、山口を嫌疑不十分で不起訴処分

2017.5.29   検察審査会に不服申し立て

2017.9.21   検察審査会、不起訴相当

2017.9.28   性的暴行による損害賠償を提訴

2019.12.18 一審の東京地裁は、伊藤詩織さんの訴えを認め、山口に330万円の賠償金

2022.1.25   二審の東京高裁も、一審を追認、山口に332万円の賠償金

       山口の訴えも一部認められ、伊藤詩織さんに55万円の支払いを命じた

2022.7.7  最高裁は山口の上告を認めず、二審の判決が確定する





 

3 メディアの支配 司法の関与

 

 山口敬之は、2016年6月、『総理』を出版している。出版社は幻冬舎、以下はその本のコピーである。

 

 そのとき安倍は、麻生は、菅は――綿密な取材で生々しく再現されるそれぞれの決断。迫真のリアリティで描く、政権中枢の人間ドラマ。

 

 『総理』の出版は、参議院選挙の直前だった。




 安倍晋三と幻冬舎といえば、2012年に出された『約束の日 安倍晋三試論』(小川榮太郎)が思い出される。第二次安倍内閣が生まれる直前に出版された本だ。安倍首相の地元の政治団体が大量に購入したと話題になった。

 「自民党山口県第4選挙区支部」は2013年1月24日、紀伊國屋書店新宿本店で『約束の日』2000冊を315万円で買っている。これは政治資金収支報告書に添付された領収書でわかる。また、安倍首相の東京の政治団体「晋和会」の2012年の政治資金収支報告書からは、例年になく書籍代が760万円を超えていることが確認できる。

 この大量買いのせいなのか、『約束の日』は紀伊國屋書店、丸善書店、リブロなど都内有力書店で売り上げ1位となった。今度はそれを、幻冬舎がニュースとして振りまく。安倍晋三と幻冬舎の見城徹社長の親密さは有名だそうだが、2012年のベストセラー『約束の日』誕生にはこのような裏話があった。

 2016年の『総理』出版の際にも、参院選前の話題づくりのために同じような工作があったかもしれない。

 

 2018年1月30日、衆院予算委で当時の安倍首相は、山口敬之との関係を問われ、「週刊誌報道を基に質問するな」と色をなして牽制した後、「私の番記者だったから取材を受けたことはある。それ以上でも以下でもない」と答弁している。

 しかし、山口は安倍晋三に最も近い記者と言われ、テレビ朝日、フジテレビなどのテレビ番組やラジオ等に出演して安倍政権の露骨な提灯持ちを繰り返した。山口敬之ような男は、メディアを支配しプロパガンダを推進するためになくてはならない存在だったに違いない。

 

 ここで一つ気になるのが、準強姦容疑で書類送検されていたその渦中で、『総理』が出版されていることだ。『総理』出版後に、山口敬之が起訴となれば、政権のダメージは大きかっただろう。

 しかし時代の波は安倍晋三にあった。それを見透かしていたかのように、安倍晋三は政局を自分のものにしていく。山口敬之の不起訴処分もシナリオ通りの展開だったのか。

 

 2016年7月10日の参議院選挙で自民党は圧勝、改憲勢力は三分の二を超えた。

 

 参院選後の2016年7月22日、東京地方検察庁は山口敬之について「嫌疑不十分で不起訴処分」と発表した。

 その後2017年5月、伊藤詩織さんは検察審査会に不服申し立てをするが、同年9月、検察審査会は「不起訴相当」を議決している。

 

 安倍政権時、地検の「不起訴処分」、検察審査会の「不起訴相当」は他にもある。甘利明の現金授受問題、小渕優子の政治資金事件も「不起訴」となっており、真相は解明されないままだ。

 

 司法への官邸の関与は明らかだ。2020年、当時の黒川東京高検検事長を検事総長にするために、安倍晋三内閣は国家公務員法を変えて、黒川検事長の定年延長を図ろうとしたことは記憶に新しい。

 時の政権の意向に沿って、司法も動いている現実が今の日本にはある。



 そんな権力構造に立ち向かうように、2017年9月22日、伊藤詩織さんは山口敬之を提訴する。

 それから5年、山口敬之の有罪が確定した。二十代半ばだった伊藤詩織さんがレイプされてから、7年が過ぎていた。




4 日本の構造的な問題

 

 伊藤詩織さんは2022年1月25日の二審東京高裁の勝利判決の後、記者会見で次のように語った。

検察審査会で不起訴不当を訴えて5年。性被害を語る風潮は珍しいとされたが、『#MeToo』運動が始まり、大きな流れを感じた。不同意の性交が、法で裁かれる世がくるのを信じている。 

 この記者会見は、2017年5月の裁判開始の頃のことから始まっている。裁判の当初は、なぜ性暴力の被害者本人が声を上げるのかといった驚きの報道が多かった。なぜ性暴力の刑法改正を訴えるのか、その社会的背景など伝えるメディアは少なかったという。

 

 伊藤詩織さんの裁判が始まった2017年は、性犯罪に関する刑法が大幅に改正された年である。

 「強姦罪」は「強制性交等罪」と名称が変わり、最も短い刑の期間は3年から5年に引き上げられた。従来は被害者は「女性のみ」が対象となっていたが、被害者の性別を問わなくなった。つまり男性に対する性被害も扱われることになった。

 改正は1907年(明治40年)の制定以降初めてで、実に110年ぶりのことだ。

 

 また2017年は、#MeToo運動が起きた年でもある。普段隠されてしまいがちな性的被害問題を訴えることで、団結して立ち上がろうという動きだ。アメリカで活躍する歌手・女優のアリッサ・ミラノさんの「セクハラや暴力を受けた場合は、このツイートへの返信として「私も」と書いてください。」というツイートがきっかけで始まり、世界中に広まった。

 

 提訴から5年、性犯罪の刑法改正がなされ、#MeToo運動が広がるなど、隠匿されがちだった性暴力の被害を訴える声は大きくなっている。しかし不同意の性交などまだ不十分な点がある、それがきちんと法で裁かれることを信じていると語った伊藤詩織さんの言葉は重い。



 記者会見では、東京新聞の望月衣塑子記者が次のように質問する。

 中村格は山口敬之について、安倍晋三に近い記者だったなどということは知らなかったと述べている、しかし山口が記者クラブに登録されており、言論の自由などの問題もある中その逮捕は慎重でなければならない、だから逮捕を止めたという。一般人なら強姦容疑で逮捕され、記者クラブだとその執行を止められる、その決断が刑事部長一人の判断で行われる、このようなメディアと権力の問題をどう思うか。

 

 これに対して伊藤詩織さんは次のように答えた。

 中村格が山口敬之の逮捕を止めたことは週刊新潮で公となった。しかしその後、後追いの報道はほとんどなかった。メディアは今このことをどう考えているのか。そして、なぜ逮捕をやめたのか、刑事部長一人の判断でそんなことができるのか、警察はきちんと説明するべきだ。性暴力、ハラスメントのような問題が起きるとき、必ずそこにはパワー関係が介在している。それは権力かもしれない、年齢かもしれない、上司かもしれない。そういったパワー関係、構造の問題をメディアとしてどう取り扱っていくのか。

 

 山口敬之のレイプ事件は、ワシントンと東京を往復しながら活躍する報道記者とジャーナリスト志望の女性との間で起きたことだが、単なるスキャンダルではない。この男のレイプ事件は、男が女を支配する、権力のある者が下の者を従わせる、事件の決着は上の者が決める、下の者は上の者に忖度して問題が表沙汰にならないようにする、そんな日本の腐敗、構造的な問題を露わにした。



 山口の逮捕にストップをかけた中村格はその後出世し、2021年9月、警察庁長官になっている。

 官邸は、警察の人事を握り、司法を操り、マスコミを巧みに利用して権力の伸張を実現してきた。

 その権力構造の頂点にいたのが、安倍晋三である。

 安倍晋三の国葬など、絶対に認められない。

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