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2013年1月に読んだ本

2013年02月02日 01時44分33秒 | 本と雑誌
2013年1月の読書メーター
読んだ本の数:12冊
読んだページ数:3705ページ
ナイス数:100ナイス

無花果とムーン無花果とムーン感想
主人公がバカで愚かでワガママで、でも、身近な人の死という衝撃を受け入れることはキレイゴトなんかじゃなく、等身大の姿で描いてみせた作品。オロオロするばかりだった父親や兄貴の視点で読んでしまった。ある意味、月夜は理解の対岸にいる感じだし。だからこそドキドキして読めたわけだけど。(☆☆☆☆☆☆)
読了日:1月4日 著者:桜庭 一樹
夏服パースペクティヴ (樋口真由“消失”シリーズ)夏服パースペクティヴ (樋口真由“消失”シリーズ)感想
エンタテイメントにとって過剰さは売りではあるけど、この作品の場合刺激的な演出は書き手の空回りというか痛々しさに繋がっているように感じてしまう。前作同様の叙述ミステリの部分や、リアルと虚構の構図は非常に上手いだけに、キャラクターが致命的に借り物っぽいところなどの欠点が際立ってしまう。惜しい気はするけど、次回作が出たら手に取ろうと思う惜しさじゃない感じだね。(☆☆☆☆)
読了日:1月4日 著者:長沢 樹
マツリカ・マジョルカマツリカ・マジョルカ感想
微妙。キャラクターの造型が悪くないだけに、よりそう感じてしまう。現実離れした設定を使うのはいいけど、もう少しそれを演出でどうにかできなかったものか。あと、「さよならメランコリア」の謎の伏線があまりにも見え見え。日常の謎系ミステリと呼ぶには全体にミステリ色が弱すぎ。かといって「青春」の部分は手垢が付き過ぎて読む価値があるとも思えないし。ラノベ的な割り切りがあった方が良かったかもしれないが・・・。なんにせよ微妙。(☆☆☆)
読了日:1月11日 著者:相沢 沙呼
青空の卵 (CRIME CLUB)青空の卵 (CRIME CLUB)感想
文章は悪くないが、いろいろと青臭さや生硬な感じが至る所で感じられた。『和菓子のアン』の肩の力の抜けた感覚に達するまでには時間が掛かるのだろう。シリーズ続編を読みたいかというと、なかなか悩ましいところ。日常の謎は好きなんだけど、ミステリとしての提示の仕方が巧くないんだよね。(☆☆☆)
読了日:1月11日 著者:坂木 司
まもなく電車が出現します (創元推理文庫)まもなく電車が出現します (創元推理文庫)感想
どんどんハーレム化しているんですけど(笑)。著者は女性不信かなにか?って気も。短編だからというわけでもないが、伊神さんが簡単に謎を解き過ぎ。もう少し捻りが欲しいところ。「嫁と竜の~」のようなアイディアものは良い感じだったけどね。(☆☆☆☆☆☆)
読了日:1月12日 著者:似鳥 鶏
いわゆる天使の文化祭 (創元推理文庫)いわゆる天使の文化祭 (創元推理文庫)感想
ミステリとしては悪くないんだろうけど、トリックのために日常の謎的な面白さが失われてしまった。再読すれば印象が変わるかもしれないが、第二章あたりで投げ出そうかと思ったくらいだ。伊神さんが万能すぎて、いかにして伊神さんの登場を遅らせるかとなってしまっているし。視点移動を使ってまでこのシリーズで書く内容だったのかは激しく疑問。(☆☆☆)
読了日:1月15日 著者:似鳥 鶏
浜村渚の計算ノート (講談社Birth)浜村渚の計算ノート (講談社Birth)感想
数学をないがしろにする国なんて滅びていいよね、私も黒い三角定規に何を措いても参加するよ!って感じなんですけど(笑)。ジュブナイル・ミステリ風の連作短編。『ちごうた計算』はまずまずの出来。ただフィボナッチ数列だともろに『数学ガール』を思い出してしまうわけだけど(苦笑)。(☆☆☆)
読了日:1月17日 著者:青柳 碧人
職業としてのAV女優 (幻冬舎新書)職業としてのAV女優 (幻冬舎新書)感想
たいへん興味深く読んだ。金に関してかなり具体的な数字が書かれていてリアリティがある。悲惨な歴史の末に現在はかなりクリーンな業界へと変貌を遂げていることや、数多くのAV女優志願者がいること、成功しているごく一部を除くと決して稼げる職業ではなくなったということ、承認欲求等の理由からそれでも続けたいと願う人たちがいること、などなど。性産業とセーフティネットの関連性など更に踏み込んだものが読みたくなる。(☆☆☆☆☆☆)
読了日:1月17日 著者:中村 淳彦
とっさの方言 (ポプラ文庫)とっさの方言 (ポプラ文庫)感想
東京に出て来て何年。方言を話さなくなったけど~って話より、子供の頃の体験談の方が平均して面白いと感じた。あと、方言と認識されずに使っている言葉というのは興味がある。知られていないだけで相当あるはず。執筆陣が豪華で、巧い人は巧いね。(☆☆☆☆)
読了日:1月18日 著者:小路幸也,大崎善生
聴き屋の芸術学部祭 (ミステリ・フロンティア)聴き屋の芸術学部祭 (ミステリ・フロンティア)感想
文章は巧みだし、キャラ立ても上手い。トリックも悪くないのだけど、メリハリに欠ける。ミステリは、もったいをつけたり、ケレンを散りばめてこそ盛り上がるもの。もっと面白くなりそうなだけにもったいないと感じる。日常の謎かユーモアミステリかその辺りもはっきりした方が良かったような。惜しいなあ。(☆☆☆☆☆)
読了日:1月19日 著者:市井 豊
家庭料理の近代 (歴史文化ライブラリー)家庭料理の近代 (歴史文化ライブラリー)感想
社会階層や地域性が今よりもはるかに大きい明治・大正期だけに、女学校や料理教室、料理書、婦人向け雑誌だけでは全体像を捉えるのは難しく感じた。新しい食材に関しては流通量のデータなど経済学的側面がもっと欲しい。男女分業の意識の徹底や良妻賢母思想の誕生など幕末から明治期にかけての日常生活への見方の変化と、この本に記されている研究成果がどのようにリンクしていくのか。明治期の暮らしも今では想像できないものになったのだと強く感じた。(☆☆☆☆)
読了日:1月29日 著者:江原 絢子
アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者5 (講談社ラノベ文庫)アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者5 (講談社ラノベ文庫)感想
ヌルさや浅さも含めて「軽小説」としてよく出来ている。ただラノベであっても一人称はつまんないよなあと再認識。ミュセル視点は面白かったけど、同じ手は使えないだろうし。ロイクとロミルダでもってるような感じになってきただけに、もうちょいテコ入れが欲しいような・・・。(☆☆☆☆☆☆)
読了日:1月31日 著者:榊 一郎

読書メーター




12冊。ノルマには達したものの、もう少し読みたかったという思いは残る。

「日常の謎」は、元祖とも言える「円紫さん」シリーズにおいて、時間経過とエピソード主体による主人公の成長を描くというスタイルを打ち出したため、後続作品の多くがそのスタイルを追随している。
これはコミック・アニメにおける「空気系」のスタイルと近い(中心人物としての主人公の存在が大きく異なるが)。どちらにとっても大切なことは、キャラクターの立て方であったり、魅力的な日常会話のやりとりであったりする。

『マツリカ・マジョルカ』はミステリ色が弱い点は大きな問題ではない。キャラクターの立て方も悪くなかった。ただキャラクターの関係性が主人公とヒロインのマツリカだけといった感じで、広がりを欠いた。シチュエーションも突飛過ぎてもうひとつ。

『青空の卵』はキャラクターの魅力不足に感じた。全体に説明口調が多く、感想にも書いたように硬さが際立っている印象だ。ミステリ部分よりも日常こそが肝だと思うだけに、読んでいて辛いものがあった。

『まもなく電車が出現します』はシリーズ4冊目で、連作短編というより、普通の短編集のおもむき。著者の最大の魅力は畳み掛けるような展開だと思うので、その点では物足りなさがあった。しかし、キャラクターはよくできているし、会話の楽しさは素晴らしい出来。

『いわゆる天使の文化祭』はシリーズ5冊目。長編で、初めての視点切り替えもあり。ミステリとしては頑張っていると分かるのだが、日常の謎としては楽しみが半減している印象を受けた。天使のネタは面白いだけに、別の展開が見たかった。

『聴き屋の芸術学部祭』は連作短編だが、日常の謎と殺人事件がごちゃまぜとなっている。キャラクターはたいへん素晴らしく、日常の謎として一貫してくれれば相当な作品となっていたかもしれない。今後に期待の作家と言える。

以前、『放課後探偵団』というアンソロジーを読んだ。相沢沙呼、市井豊、鵜林伸也、梓崎優、似鳥鶏の5人が書いている。梓崎優はその直前に『叫びと祈り』を読んでいた。鵜林伸也はいまだ本は出ていない。
相沢沙呼、市井豊、似鳥鶏の3人は自身の「日常の謎」のシリーズから短編を掲載している。しかし、アンソロジーを読んだ時はまだ作品は読んでいなかったので、もうひとつといった印象だった。シリーズを読んだ今なら違った感想になるだろう。近いうちに読み返したいと思っているのだが……。

残るミステリ。

『夏服パースペクティヴ』は著者のデビュー作『消失グラデーション』より時間的には前の話となっている。刺激的な素材をふんだんに織り交ぜながら密度の濃いサスペンス風のミステリが展開するのは前作同様。ただ痛々しい感じがしてしまうのが困ったところで、そういう作風なんだろうけど、もう少しなんとかならないものか。

『浜村渚の計算ノート』はユーモアミステリといった感じだが、子供だましに近い印象だった。『数学ガール』と比ぶべくもないのは分かっていても、それでも比べてしまうわけで。困ったものだ。

その他。

『無花果とムーン』は読書メーターのコメント見ていると賛否両論というかやや否定派が多い感じ。ただ桜庭一樹の読み方としては、ストーリー性ではなくシーンごとのエピソードの魅力が売りだと思うので、十分に楽しめる作品だった。ファンタジーだけど心は地に足がついているしね。

『とっさの方言』でいちばん印象に残ったのは「さきっぽだけ」(違。それはともかく、執筆陣が豪華なので一読の価値はあるかも。

『家庭料理の近代』は以前読んだ『きょうも料理』とも重なるものだが、歴史学的内容。正確だが堅いのは仕方ないとしても、もう少し踏み込んだ見方を示して欲しかった。西洋料理の普及の話よりも、女性が料理する意味や価値について押さえておかなければ内容が薄いものとなってしまう。例えばそれぞれの社会階層ごとにどれだけ主婦が家事に時間を割いていたのかといったデータとかないのだろうか。

『職業としてのAV女優』は1月に読んだ本の中で最も読み応えがあった作品。一昔前のAV業界から様変わりした話や、女性の意識の変化などとても興味深かった。日本は宗教的な戒律があまりないので性風俗は時代の影響を受けやすい。もともと性に開放的な国民性だったが、明治期以降は意識も大きく変化した。
先日Twitterで、「日本は「えっちな情報は18歳未満はNG」だけど「セックスは18歳で経験済みじゃないと人格に問題」(以下略)」なんてコメントを見かけたけど、意識の変化を定量化して歴史的変遷として比較することができたら面白そうなんだけど。
経済学的アプローチが効果的なんだけど、いまネットで見たら風俗産業の規模は出典が一冊の本だけで、どうも怪しい(苦笑)。一方、一般人の意識の部分はフィクションに投影されやすいとされるが、今はジャンルごとに細分化してしまっているしね。
この本のようにひとつの業界に絞って金銭を中心に説明されるとかなり説得力がある。もちろん、あくまでも一面的な見方に過ぎないけど。ただこういう話が表に出て来ない世界だしねえ。

『アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者5』は主人公視点とヒロインのミュセル視点が交互に表示される形式になっている。これまで主人公の一人称でずっと進行していたが、ストーリー的にそれでは話が進まないため変更された。『いわゆる天使の文化祭』はそれで作品の魅力が損なわれたが、この作品はさすがに手慣れた仕事という感じ。
ただ、やはり一人称オンリーだとどうしてもストーリーが限定されてしまう。「小市民」シリーズでごく一部だけ三人称になったりと、結構みっともない構成があった。日常の謎も一人称形式が多い。
ライトノベルでも、『フルメタル・パニック』や『スクラップド・プリンセス』など三人称の作品はいくらでもある。ただ最近は一人称が多い印象を受けている。『涼宮ハルヒ』のように独特の書き回しであればともかく、漫然と一人称という作品も少なくないように感じる。『れでぃ×ばと』や『ベン・トー』では視点を変えたり人称を変えたりする試み(というか仕方なくの場合も多いが)があった。
『マリア様がみてる』はほぼ三人称で通していて、神視点ではなく一元視点方式となっている。作品によっては視点の切り替えが多く、非常に効果的に利用しているケースもある。視点によって地の文でのキャラクターの呼び方が変わったりするのも面白い。
一人称の作品がアニメ化などですっきりするのは視点が変わる影響も大きい。映像的・ドラマ的に見せるという意味でも三人称の方が秀でていると言える。一人称は主人公に共感できるかどうかによって作品への入り込みに違いが出る。そして、ライトノベルで共感できるケースは非常にマレだったりする。その点でも三人称の方がありがたいように思う。

2012年に読んだ本
2011年に読んだ本




2013年1月に読んだコミック

『恋愛ラボ』7巻(宮原 るり)
『大東京トイボックス』1-9巻(うめ)
『らいか・デイズ』15巻(むんこ)
『みなみけ』10巻(桜場 コハル)
『はじめの一歩』102巻(森川 ジョージ)
『グラゼニ』7-8巻(アダチ ケイジ)
『銀の匙 Silver Spoon』6巻(荒川 弘)
『侵略!イカ娘』13巻(安部 真弘)
『みそララ』6巻(宮原 るり)
『鬼灯の冷徹』6巻(江口 夏実)
『じょしらく』3巻(ヤス)

計20冊。どれも素晴らしい。特に宮原るり。いちばん好きな漫画家と言い切れるほど。『みそララ』は6巻読んだ後に1巻から読み直したしね(笑)。

前作『東京トイボックス』を読んでいるので新作とは言えないが、語るべきは『大東京トイボックス』だろう。
上下巻で終わった『東京トイボックス』と異なり長期連載前提でストーリーを作ったため敵を外部に置く手法を取っている(業界内・企業内ではあるが論理として外部)。この手法が成功するかどうかは終わってみての判断となるだろう。ゲームファンにとって必読のマンガなだけに成功して欲しいところだ。