狼と香辛料〈12〉 (電撃文庫) 価格:¥ 578(税込) 発売日:2009-08-10 |
ようやく最新刊に到達。
リュビンハイゲンの羊飼いノーラ、テレオの村のエルサやイーマ、レノスの酒場の看板娘、中編に登場したアリエスと多種多様で魅力的な女性キャラクターが登場するものの、より踏み込んで描こうとすると底の浅さが露呈してしまうように感じられる。その代表がエーブだが、今回登場したフラン・ヴォネリもまたそんな印象を持った。
聖女カテリーナを通した世界観の描き方や、奇蹟を巡る謎、村と領主の駆け引きなどストーリーは決して悪くない。盛り上げていく展開もよかった。ただ物語を担ったフランがもうひとつだった。
構成上の問題として、ロレンスの視点でのみ描かれているという点が挙げられる。エーブの時もそうだが、ロレンスが見たもの感じたことしか描かれない。気持ちをストレートに表さないキャラクターに対してロレンスは鈍感であり、ロレンスが彼女たちの内面を推し量って語られる内容はどこか遠く感じられてしまう。
フランが「天使の奇蹟」を見るために命を懸けようとまでする理由は語られる。だが、彼女の行動についてそれまで述べられたものとは一貫しているように見えない。フランの過去や彼女の本質が十分に伝わったとは言い難く、彼女が生き残ったことも偶然の産物のように思えてしまう。
ロレンスに覚悟を問うた点は大きな意味があると思うが、それ以外ではフランとロレンスやホロの距離は遠く、ほとんど交わらないまま終わってしまった。ロレンスにとって商売や身の危険以外で行動の理由をどう据えるのか。ホロのためにどこまで覚悟できるのか。そろそろ曖昧にしたままでは済まなくなってきた。
作劇の上でもロレンス視点を貫くのならば、キレイゴトや建前だけでは成り立たなくなってきている。商売が軸とならない話ではロレンス視点はむしろ物語の軸をぼやけさせてしまう。本来ロレンスの側に行動の理由が必要なのに、ホロのために行動するようになって物語は右往左往している。「狼の足の骨」や「北の地の地図」といった目的を作り出しているが無理矢理な印象は否めない。行き詰る前にヨイツでロレンスの覚悟を示して欲しいところだ。