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感想:『狼と香辛料〈12〉』

2009年09月02日 21時58分46秒 | 本と雑誌
狼と香辛料〈12〉 (電撃文庫)狼と香辛料〈12〉 (電撃文庫)
価格:¥ 578(税込)
発売日:2009-08-10


ようやく最新刊に到達。

リュビンハイゲンの羊飼いノーラ、テレオの村のエルサやイーマ、レノスの酒場の看板娘、中編に登場したアリエスと多種多様で魅力的な女性キャラクターが登場するものの、より踏み込んで描こうとすると底の浅さが露呈してしまうように感じられる。その代表がエーブだが、今回登場したフラン・ヴォネリもまたそんな印象を持った。

聖女カテリーナを通した世界観の描き方や、奇蹟を巡る謎、村と領主の駆け引きなどストーリーは決して悪くない。盛り上げていく展開もよかった。ただ物語を担ったフランがもうひとつだった。
構成上の問題として、ロレンスの視点でのみ描かれているという点が挙げられる。エーブの時もそうだが、ロレンスが見たもの感じたことしか描かれない。気持ちをストレートに表さないキャラクターに対してロレンスは鈍感であり、ロレンスが彼女たちの内面を推し量って語られる内容はどこか遠く感じられてしまう。

フランが「天使の奇蹟」を見るために命を懸けようとまでする理由は語られる。だが、彼女の行動についてそれまで述べられたものとは一貫しているように見えない。フランの過去や彼女の本質が十分に伝わったとは言い難く、彼女が生き残ったことも偶然の産物のように思えてしまう。
ロレンスに覚悟を問うた点は大きな意味があると思うが、それ以外ではフランとロレンスやホロの距離は遠く、ほとんど交わらないまま終わってしまった。ロレンスにとって商売や身の危険以外で行動の理由をどう据えるのか。ホロのためにどこまで覚悟できるのか。そろそろ曖昧にしたままでは済まなくなってきた。

作劇の上でもロレンス視点を貫くのならば、キレイゴトや建前だけでは成り立たなくなってきている。商売が軸とならない話ではロレンス視点はむしろ物語の軸をぼやけさせてしまう。本来ロレンスの側に行動の理由が必要なのに、ホロのために行動するようになって物語は右往左往している。「狼の足の骨」や「北の地の地図」といった目的を作り出しているが無理矢理な印象は否めない。行き詰る前にヨイツでロレンスの覚悟を示して欲しいところだ。


感想:『狼と香辛料〈11〉Side Colors2』

2009年09月02日 21時01分28秒 | 本と雑誌
狼と香辛料〈11〉Side Colors2 (電撃文庫)狼と香辛料〈11〉Side Colors2 (電撃文庫)
価格:¥ 578(税込)
発売日:2009-05-10


シリーズ2冊目の短編集。ロレンス視点の短編「狼と黄金色の約束」「狼と若草色の寄り道」、及びエーブ視点で彼女の過去を描いた中編「黒狼の揺り籠」所収。

「狼と黄金色の約束」は本編と同じような雰囲気の作品。ただ正直なところオチがつまらない。短編の場合オチが冴えないとダイレクトに作品の評価が下がる。

「狼と若草色の寄り道」は非常に短い作品。いつも通りのロレンスとホロのやり取りが垣間見られて悪くはない。

「黒狼の揺り籠」は好みが別れそうに感じた。ロレンスもホロも登場しないというのはシリーズ初。エーブがまだフルールと名乗っていた頃の物語であり、エーブと名乗るに至る経緯を描いた物語。
作品の出来は決して悪くないが、エーブの過去としてはちょっと甘すぎて気に食わない。敵キャラがいい人になってしまうのはありがちだが、エーブの場合「対立の町」時点で大きくイメージを損なってしまい、更にこの中編では私の中では初登場の頃の彼女に繋がっていかなかった。
何も知らない元貴族の落ちぶれた娘が商人となっていく様を描いた作品としては、かなり大甘ではあるがそれなりに読ませる出来と言えよう。これがエーブの物語でなければ、もっと評価できたと思う。シリーズとしても甘い方へと流れてきたきらいがあって、少し不満を感じるまでになりつつある。ロレンスとホロの関係は甘くていいが、その世界は決して甘くないがゆえに面白さが際立っていただけに、メリハリをもっと撤して欲しいと感じた。