海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

「グアム協定」と米軍再編利権

2009-04-11 23:56:09 | 米軍・自衛隊・基地問題
 4月10日に衆院外務委員会で、在沖米海兵隊のグアム移転をめぐる日本側の経費負担を定めた「グアム協定」の締結承認案件が、与党の賛成多数で可決された。新聞報道によれば、同協定は14日に衆院本会議で可決され、参院で否決されても衆院の議決が優先されるので、5月中旬までには成立するという。
 100年に一度の経済危機がいわれるなか、国外に建設される米軍基地のために28億ドル(1ドル100円として2800億円)もの金を出してやるという。しかも、実際にどれだけの海兵隊員がグアムに移り、兵舎が何棟建てられるのかもはっきりしないまま、金を出すことだけが決まっているのだ。
 11日付琉球新報の記事によれば、直近の在沖海兵隊員の実数は1万2000人余りだという。これまで日米両政府は、在沖海兵隊員の定員数を1万8000人とし、そのうち8000人をグアムに移して定員数を1万人にするといってきた。つまり、実数から大幅にサバを読んでいたわけで、実際には2000人程度しかグアムに移動しないことになる。にもかかわらず、日本側の資金拠出は8000人を前提としたままなのだ。

 〈麻生太郎首相は、グアム移転実施後の在沖海兵隊の実数について「実数で何人になるか、分かるはずがない」と述べ、グアム協定に明記されている在沖海兵隊員八千人、家族九千人が実際に削減されるとは限らないことを認めた〉(11日付琉球新報)。
 
 麻生首相の発言は無責任でデタラメ極まりない。しかし、10数%しか支持率のない麻生内閣が、衆院で3分の2を占めるという数の力で、そのデタラメを押し通していく。グアム移転の費用といい、辺野古への新基地建設の費用(政府は3500億円以上と推算)といい、それらが医療や福祉、雇用対策に回されれば、どれだけ国民が助かるか。明日の生活の不安に怯えている国民を救うよりも、破壊と殺戮を目的とする米軍の基地を造るために血税を浪費するのが、この国の政府なのだ。
 このように「グアム協定」が強引に進められていく裏には、グアムでの基地建設に絡む利権の問題がある。その利権に与ろうという動きは、沖縄の中からも出ている。09年3月31日付琉球新報の経済面に〈在沖海兵隊グアム移転 工事受注へ新組織 県建設業団体 各業種と提携〉という見出しの記事が載っている。

 〈県建設産業団体連合会の呉屋守将会長らは三十日、県庁で記者会見し、在沖海兵隊のグアム移転に伴う整備事業への県内企業参入を目指し、一ヶ月程度をめどに建設会社や銀行などさまざまな業種と連携して新組織を立ち上げると発表した。
 移転に伴う施設・インフラ整備の日本政府負担約六千億円のうち、六百億円(約10%)程度の工事受注をを目指す。組織形態は今後、関係機関への出資金要請や意見交換などを行った上で決定する。組織設立後は現地の住宅・インフラ整備の実施主体となるSPE(特定目的機関)への参入を図る。
 組織設立の発起人は同連合会のほか、県電気管工事業協会、琉球海運、琉球セメント、琉球物流の六者。当面は同連合会に事務局を置く。呉屋会長は「株式会社など、分かりやすい組織をつくりたい」と述べた上で、一社から五十万ー百万円程度の出資金を募り、三十社程度で組織を立ち上げたい。立ち上げ資金は二千万ー三千万円程度を予定している」とした。
 同連合会などは二月十七日に日米両政府間で結ばれた「在沖海兵隊のグアム移転に係る協定」を受けて、組織の立ち上げを決定。呉屋会長は「個々の企業なら工事を受注することはできないが、県内企業がまとまれば工事を受注できる」と期待感を示した〉。

 グアム移転に伴う施設・インフラ整備事業の受注をめぐり、大手ゼネコンが競い合うなかで、それに割り込むために沖縄の企業が連合体を作ろうというものである。県内企業のこの動きは、辺野古への新基地建設や嘉手納以南の基地が返還された後の再開発事業など、一連の在沖米軍再編をめぐる工事をめぐり、ヤマトゥの大手ゼネコンと対抗して県内企業がどう受注していくか、も想定しているであろう。
 ダムや道路建設などの公共事業が減少するなかで、在日米軍再編をめぐる事業が巨大な利権を生み出す温床となっている。実際に在沖海兵隊員がどれだけ減るか、ということとは関係なく、積算根拠も曖昧なままグアム移転で巨額の金がばらまかれるのも、それが一番の理由であろう。
 辺野古新基地建設で、仲井真知事や島袋市長が沖合移動を主張しているのも、狙いは浅瀬部分の埋め立てを増やして沖縄の企業の取り分を多くするということだ。政府も知事らも「沖縄の負担軽減」だの「騒音低下」だのときれいごとを言ってるが、しょせんは企業の金儲けのために、グアム島の住民も辺野古の住民も、泣きを見ろ、ということなのである。
 そして言うまでもなく、泣きを見るのはグアムや辺野古の住民だけにとどまらない。米軍基地が県内たらい回しで固定化される沖縄県民、血税を搾り取られる全国の納税者も同じであり、最も悲惨な形で泣きを見ることになるのは、新しく造られる基地から出撃する米軍の標的にされる人達だ。人の不幸の上に富を築こうとする連中の思惑通りに、ことを進めさせてはならない。

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