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海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

樋口健二氏の2冊の写真集

2011-04-10 08:59:06 | 読書/書評



 『隠された被曝労働~日本の原発労働者~』というドキュメンタリー作品を3月25日に紹介した。同作品でレポーターとして被曝労働の実態を追う写真家・樋口健二氏が、1973年から1995年にかけて撮影した写真集である。冒頭部の「崩れゆく風景」という章で樋口氏はこう記している。

〈灰色の原発ドームは美しい自然とは裏腹である。それは決って列島の秘境の地である過疎化が激しい海岸線が選ばれて建設される。地元住民に対しては札束ぜめで漁業権放棄をせまる。漁民は漁業補償で一時の安らぎを得るが、働く喜びや苦労を奪い取られ、美しい風景や海にまつわる地域文化は崩壊してゆく。原発周辺は過疎地とはいえ、漁師の家が密集している。アメリカ、ソ連(現ロシア)のような大事故が起きないとはだれが保障できようか〉

 今、樋口氏が懸念していた大事故が福島第一原子力発電所で起こり、高濃度放射能汚染水の流出に加え、東電が自ら汚染水を海にたれ流したことで、茨城県では漁民が出漁を取りやめる事態となっている。しかし、原発が漁業に脅威をもたらしたのは今に始まったことではない。原発の建設自体が地域の漁業や人々の生活、自然、風景、文化を破壊するものだった。金をばらまき、過疎対策、雇用増加、地域振興をうたい文句に反対運動を押さえ込み、建設を推進していく手法は、沖縄に軍事基地を押しつけていくのと同じやり方だ。
 そうやって建設された原発は、多くの被曝労働者を生み出すことによって維持される。定期検査のたびに下請け、孫請け、ひ孫請けの労働者たちが原発内部に入り、被曝線量が多く数分刻みの作業しかできない場所で、人海戦術で作業を行っていく。この写真集には1977年7月に樋口氏が敦賀原発で撮影した作業の様子が収められている。今では電力会社が許可しないであろう貴重な写真である。
 劣悪な労働環境のもとで労働者たちは外部・内部被曝を強いられる。ガンや白血病、「ブラブラ病」におかされた労働者たちの存在を、電力会社は金と政治の力で隠蔽していく。原発が作り出す闇の中で苦しむ労働者や遺族の姿、声を樋口氏は記録し続けてきた。その中のひとり、永田利夫さん(元炭鉱夫)の証言は、いま問題となっている福島第一原発で何が行われていたかを明らかにするものだ。

〈原発に行くようになったのは友人の誘いですち。原発内部に入る時、そりゃものものしい格好ですたい。昭和四五年、東電福島第一原発三号基の地下一階で放射能が何万レムと溜まっているタンクに鉄ばしごをつけるための足場掛け作業だった。タンク自体が放射能の溜池ですち。人間の入る所じゃなか!そう思いました。タンク室の入り口前に鉛で二メートル四方位の放射能よけ小屋を作って待機しておったとですが、一分から三分くらいで一〇〇ミリレムにセットしたアラームメーターがビービーなる始末でしたばい。わしは溶接で切断する火花が下に敷いた石綿に燃えるのを消さなけりゃならんですち。狭い所なので、タンクにでも落ちたら、絶対生きて出てくることはできん。落ちたらコンクリートで固めてしまう、と現場監督は言うてましたばい。働いてから一五日も経った頃、入り口から流れ込んだ水が長靴に入り、みんな濡れねずみになったとです。三日後、ブツブツが出来、痒くて痒くて仕事にならん。東電の息のかかった地元医師に診てもらったら、「食中毒」なんていってとり合わんですち。わしらはおこってつめよったら「本当の事は書けん」と泣き出しそうに言う。それ以後、筑豊に帰ってブラブラの有様ですばい。(一九八一年・筑豊)〉(72ページ)
 
 1970年代、永田さんのように衰退した石炭産業から新しいエネルギー産業としての原発に労働の場を変えていった人は多かった。日本の経済成長を支えてきたエネルギー産業の陰に、過酷な労働と事故や被曝の危険に身をさらす労働者たちがいた。樋口氏は一貫して、そのような労働者や住民の側に身を置いて写真を撮り続けてきた。この写真集には利益を最優先する企業やそれを庇護する政府に対して、反原発のたたかいを続ける労働者や住民、そして台湾、アメリカ、フィリピンなど世界の原発とその周りで暮らす人々の姿も収められている。

 樋口氏の写真集をもう一冊紹介したい。



 『樋口健二報道写真集成 日本列島'66ー'05』(こぶし書房)は、樋口氏が写真家として最初にとりくんだ「四日市ゼンソク」問題をはじめ、全国各地の公害、乱開発、環境汚染、炭鉱や鉱山の事故、原発の被曝労働の実態、予備自衛官、傷痍軍人、原爆孤老、韓国人被爆者などを追った40年におよぶこの社会の記録である。あとがきで樋口氏は自らの方法論について書いている。

〈特に私が力を置いたテーマは「原発下請け労働者」の放射線被曝です。平和利用などというまやかしの言葉で数十万人の労働者が放射能を浴びつづけている現実に、日本人のどれほどが思いを馳せて来たのだろうか。
 現代社会の中で日本は表面的な豊かさを誇っています。原発は日常的に被爆者を生みつづけているわけですから、まさに平和の中の戦争ではないかと私は思っています。
 マスコミも被曝労働者の視点は欠落したまま、意識的にさけているようにも感じます。それは、巨大原子力産業をスポンサーとしているからに他ありません。この問題が解決するまでにはまだまだ、時間を要するでしょう。つまり原発を完全に止める時ではないかと考えるのです。
 私のフォトドキュメントタリーは残念ながら社会の闇の世界を追求することでした。取材現場には、驚くほどの弱き人たちが必ず存在していました。時代に翻弄され、打ちひしがれてゆく人たちの多くが、私に「この悲しい姿を訴えてほしい」と語る言葉に、切なる願いが込められているのを強く感じました。
 私のドキュメンタリーは社会的問題をさけて通ることが出来ませんでした。同情など何の役にも立たない事を私も知っています。だからこそ、歴史の証言者としてせめて世に問う方法論をとることにしました〉(254ページ)。

 私は1960年の生まれである。私が小学校の頃、樋口氏が撮った四日市ゼンソクやイタイイタイ病、水俣病など公害問題がニュースで大きく取り上げられていた。それはけっして遠いヤマトゥの話ではなかった。60年代の後半、家のそばを流れる小川に近くの製糖工場から排水がたれ流され、日によって川の水が白や黄色、赤、黒などと色を変えていた。
「ぬーが流ちゅらやー」(何を流しているのか)
 父はそう言って川を見ていたが、その下流ではの人たちが魚を釣って食べていた。やがて背びれや腹びれが溶けて鱗から血がにじんだチクラ(ボラの幼魚)や鼻の上がへこんだテラピアが釣れだした。製糖工場前の川で魚を捕って遊んでいると、背骨が曲がってS字になったり、胴体の一部が肥大したフナやテラピアが見られるようになった。みんなさすがに不安になり、公害魚(こうがいぃゆー)と呼んで釣った魚を食べなくなった。
 製糖工場の排水だけでなく、養豚場から流れ込む糞尿による汚染やパイン栽培による赤土流出など、ヤンバルの村でもすでに60年代から公害問題は起こっていた。さらに1972年5月の施政権返還から1975年の沖縄海洋博にかけて、土地の買い占めや開発ブームが起こり、ヤンバルの自然が大規模に破壊されていった。
 米軍演習やダム建設、林道工事によるヤンバルの森の破壊、金武湾、白保、泡瀬干潟など海の埋め立て、辺野古や高江の米軍基地建設など、軍事基地、経済振興、環境破壊が絡み合いながら問題は続いてきた。樋口氏が記録した全国各地の公害や環境汚染の写真を見ながら、そのような沖縄の過去と現在が重なった。
 福島第一原発の事故はかつてない規模の被曝者と環境破壊を生み出している。それがこれからどれだけ増え、広がっていくか見通しを立てる事さえできない。現在稼働中の他の原発も数多くの被曝労働者を生み出すことで維持されている。樋口氏が言う〈原発を完全に止める時〉が来ている。40年余にわたる樋口氏の仕事を見直しながら、現在直面している問題を考えたい。




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2 コメント

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2011の3.11 (ゲンシケンのうえざと)
2011-04-13 00:34:29
 テレビの飽食する日本の姿に目をそむける。一方でニュースで朝から流れる原発の「直ちに健康には・・・云々」にだんだん「あーそうねえ。」とメディアに毒されて行く自分を見る。目は日々つぶされ、作られていく思考。ここは民主主義の世界ではない。カネと権力のはびこる実は戦慄する世界なのではないか。
 原発も沖縄の基地問題も同じ根っこから表れた問題だと思う。
 東京は、原発と基地で潤ったあだ花の都かもしれない。
Unknown (豊里友行)
2011-07-20 20:52:12
樋口健二先生のブログを担当しているものです。
いろいろ情報が載っています。
http://toyoanneru123.ti-da.net/e3634428.html

下記にコメントもいただきました。
ご一読を!!

「第35回全国高等学校総合文化祭」の福島開催に想う・・・。

福島や被災地を応援したいという純粋な高校生たちはどうなるのでしょうか?
福島の原発問題を取材しているジャーナリストなどにお話をお聞きしました。

権徹(ゴン チョル)先輩は、放射能の漏れている現状を前にして、まったく未知の世界が広がっている。
どうなるかわからない。
福島行きには否定的で自己責任で行く覚悟をとのことでした。


森住卓さんは長年、世界の核問題を追い続けて自分の被曝歴よりもジャーナリスト魂に突き動かされてこのたび福島を取材しています。
できるだけ一般の人は近づかないほうがいいと。
どうしても行くなら季節がら暑くて大変だけどマスクをして、食事などの前には手を石鹸できちんと洗うようにした方がいいと。
手を石鹸で洗うだけでも放射能は落ちるし食事の際に内部被曝するのを避ける為です。
特に女性の内部被曝は妊娠時の体内の胎児にも影響を及ぼす恐れがあります。
すぐに影響はないというものの、 それでも通常よりも放射能の高いのは否めないとのことでした。
原発から離れている福島の会津若松でも修学旅行はキャンセルが相次いでいます。
それぐらい福島の放射能は、風評被害でなく実害を出しているのに福島頑張れと高校生たちの2次被害に晒していいのか?
特に森住卓さんも若者達を放射能の危機に晒すことを危惧していました。
放射能測定器つまりガイガーカウンター。
自分がどれくらい被曝したかを量る積算線量計。 
どちらも値段が高騰しています。
森住卓さんの助言で「放射能は、目に見えないし音もなく味もない、五感に感じられない。」と言うしその危険性を福島の危険性を訴えています。
彼はの世界の核被害の現状を報道して来ただけに切実な問題のようです。


一番簡単な最低限の予備知識としてインターネットで放射線量のチェックをされることです。
たとえば会津若松市のページなどをご観覧するといいかもしれません。
http://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/ja/joho/kankyo/radial/index.htm

かなり放射線量が低いように思えますが、ユーチュウブなどを見ればそれが当てにならないことがわかります。
http://www.youtube.com/watch?v=h31S-RQR6eA

全国放射線量マップ の 日常生活と放射線 を読んで予備知識をつけてください。
http://radiation.goo.ne.jp/


沖縄へ非難してきた友人のジャーナリストは、知人を放射能が原因と思われる心筋梗塞で亡くされています。
若い女性は放射能によって自分の子孫を殺していくことになるともらす。
子供を生みたい女性なら危険を犯すのをさけるべきだと訴えていた。

琉球大の名誉教授の矢ヶ崎克馬先生は、「健康にただちに影響はない」といわれても何十年も生きていくうえで発癌する確率は福島の原発問題では見過ごしてはいけないだろう。国に粘り強くそういった発癌を訴えていくようにしないといけない。長い目で慎重にこの原発の放射能汚染地帯を対処しないといけない。」と述べています。



原発の被曝労働者を追って世界的に有名なフォト・ジャーナリストの樋口健二先生は、私の写真の師匠なのでお話をきいたらだいぶ絞られた。
100キロ圏内は安心できない。
チェルノブイリでは2千キロ離れたところでも高濃度の放射能汚染がありました。
だから会津若松が原発から離れているからという安易な考えは捨てたほうがいい。
とくに危惧すべきなのは一番激しく細胞が活発化している高校生を福島へ連れて行くことです。
先生がたに馬鹿かといってやれと叱られる。
これから10年の間に甲状腺癌の発症する福島の子供達はチェルノブイリの子供たちのように増えていくことでしょう。
放射能の恐ろしさを知らないではすまされない。
安全圏は750キロは離れていないといけない。
福島から神戸くらい離れてやっと安心できるはんいです。
引率するなら親に相談すべきだと。
親に対して申し訳ない。
こういう現状ですので子供たちを危険に晒せない。
自己責任で教師だけで行くべきだとも。
例えるなら17歳の高校生を連れて行くとして10年後で27歳くらいの結婚適齢期になる頃に発ガンしたり女性なら胎児に影響があったりと悲惨な結末になる恐れがある。
原発はじわじわ苦しめていくことを樋口健二先生は、原発の被曝労働者の著書で告発しているのでぜひ一読してほしい。
もしくは私の管理する「樋口健二の世界」のユーチュウブを見てみてほしい。

http://higuti.ti-da.net/


大手新聞でも東京の調布市で高濃度の放射能汚染された高校生の作った農作物が処分されています。
もう安全神話は崩壊しています。
とくに福島圏内は何処へ放射能が飛散しているのかわからないのが現状です。
マスコミの統制はあきらかですが、身を挺したフリーのジャーナリストなどにより福島の現状はどんどん報道されてます。
私の師匠である樋口健二先生しかり、権徹(ゴン チョル)先輩や森住卓さんなど多くの人たちが福島の原発から漏れている放射能の危険性を強く訴えている。
福島の現状をしっかりと知って欲しいです。

国や県や先生たちの無知で生徒たちを危険にされされるのを私も危惧しています。
正直この国の崩壊を意味するであろう原発の現状を放置することで成り立たせようとしている無責任さ。
それでは今後の未来の被曝の犠牲者をますます増加させてしまいます。
過去のチェルノブイリで自分の生まれた土地を離れられない老人たちを写真家で映画監督の本橋誠一さんの写真集『無限抱擁』や『ナージャの村』が鮮明に脳裏に蘇る。
福島の子供達の犠牲者を出してほしくありません。
沖縄の人々からも犠牲者を出してほしくありません。
未然に防ぐ予防は、被曝労働者の末路や福島の現状をよく視ることしかありません。
今回の「第35回全国高等学校総合文化祭」の福島開催で沖縄から高校生12部門129人が参加する。
これが全国の高校生だからもっともっと若者や引率の先生方が放射能の危険に晒されることになる。
そして国の放棄した福島原発の放射能汚染・・・。
原発から漏れ続ける放射能・・・・。
放棄された福島の民への何の対策もない。
森住卓さんなどのジャーナリストが福島へ取材に動かしていかざるえない放射能汚染の現状・・・。
もっと真剣に原発の放射能の恐ろしさを考えるべきだ。


P.S.「被曝したかどうやってわかるのか?」
関連サイトをみてべんきょうしましょう。

被ばくすると,人体に何が起きるのか?
= http://d.hatena.ne.jp/popeetheclown/20110315/1300201635

放射線障害
= http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BE%E5%B0%84%E7%B7%9A%E9%9A%9C%E5%AE%B3

あと被曝すると鼻血が止まらなかったりするらしいのでその際は専門の病院にて血液検査が必要だとお聞きしました。









2人のフォト・ジャーナリストの先輩などは、必死で福島を取材してブログにも載せています!
是非ご観覧ください!!

森住卓さんのフォトブログ
= http://mphoto.sblo.jp/

権徹 (ゴン チョル)先輩
http://toyoanneru123.ti-da.net/e3034001.html

本橋誠一のポレポレタイムス社= http://polepoletimes.jp/times/

沖縄出身の原発被曝労働者
= http://toyoanneru123.ti-da.net/e3588864.html

沖縄と東北を結ぶ 4・24連帯の集い
= http://toyoanneru123.ti-da.net/e3532295.html

第35回全国高等学校総合文化祭
= http://www.fukushimasoubun.gr.fks.ed.jp/kaizyo/01sougoukaikaishiki/index.htm

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