脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

「認知症が死因」?―日経新聞記事より

2017年10月23日 | 二段階方式って?

大きな台風21号が静岡県に上陸しました。伊豆高原は、風も雨もひどかったのですが、ピークは真夜中だったこともあり、朝になって小枝や木々の葉がたくさん道を覆っているのを見て台風の威力を感じる程度で済みました。
Jガーデンから大島を望む。今日の海は南国のような色を見せてくれました。

新聞記事を目にして以来、のどに刺さった骨のように気になっている件についてまとめておきたいと思います。
その記事は、10月14日の日経新聞に掲載されていました。
「『認知症が死因』認識弱く」という見出しに、「えっ」と声が出てしまいました。私の理解と体験からは「『認知症』が直接の死因になることはない」ということは自明の理でしたから。
重度認知症になって、というのは脳機能がどんどん落ちてきてと同義であるわけです。どんどん落ちてきた挙句に嚥下機能までもがうまくコントロールできなくなって誤嚥性肺炎で死に至った時に、認知症が原因と言えるのでしょうか?
脳機能低下により見当識障害がどんどんひどくなってきて、徘徊を起こして、溝に落ちて骨折。入院中嚥下性肺炎を起こしてなくなるというケースは割合によく聞く話ですが、これも認知症が死因となるのでしょうか?
徘徊を起こした挙句に、凍死したり事故にあったりして亡くなった時も、その死因は認知症なのでしょうか?
一般的なイメージとしたら、脳機能低下が進行したら「死に至る」よりも「寝たきりになる」でしょう。そして死に至るためには誤嚥性肺炎がクローズアップされてくるわけです。

記事は日米の診断の差から解説が始まっていました。
「日本では462万人(2012年調査)の認知症患者のうち、死因としては12,000人弱(2016年)しか記載されていない。
アメリカでの認知症患者数は500万人(2010年調査)とそんなに差はないのに、2014年には死因の6番目(93,000人)にのぼる」
その差を説明できる理由として、日本では「直接的な死因を記載する傾向がある」からで、死因が肺炎とされたもののうち「認知症による寝たきり患者が相当数含まれる」ということがあげられていました。
つまり、認知症の進行によって起きてくる歩行や嚥下がうまくいかなくなることによる死亡は、その死因を認知症にすべきだといっているのです。大雑把に考えれば、脳機能低下が進めば死に至るということです。

「お、これは良いアプローチかもしれない」と思いました。なぜならば「様々な症状を引き起こすのは脳機能の問題」だと言っているわけですから。
その喜びもつかの間。下の表が掲げられていました。

私たちエイジングライフ研究所の重症度分類と似ているようでもちょっと違いますが、症状だけで分けることそのものが、客観性がないことに気づいてほしいと思います。
エイジングライフ研究所は下の表のように脳機能という物差しから、「客観的に」認知症重症度を分類します。前頭葉機能を「かなひろいテスト」で、脳の後半領域の認知機能を「MMS」(粗点ではなく換算点の間違い)で測定します。

このように脳機能で分類すると
「正常」は前頭葉機能も、脳の後半領域の認知機能も年齢相応の能力を保っている状態。実はこの時「仕事が困難」という訴えはありません。

「小ボケ」は前頭葉機能だけが異常老化を起こしている状態。上表「軽度」のもう少し軽い状態に相当するレベルだと思いますが、この時の特筆すべき訴えは「意欲低下」。脳の司令塔である前頭葉がうまく機能していないことを本人がはっきり自覚しています。社会生活に支障が出てきます。

「中ボケ」は前頭葉のみならず脳の後半領域の認知機能も機能低下を起こしています。ここで初めて家庭生活にトラブルが出てくるのです。この最後の段階で、上表の「TPOに会った適切な洋服が選べない」状態になり、喪服を着ないで葬儀に参列したり、暑い時にセーターを着たりします。でも、この段階ではなだめて入浴させる状態にはなりません。

「大ボケ」は前頭葉機能も脳の後半領域の認知機能もどんどん低下していき、セルフケアもおぼつかない状態となります。上表の「やや重度」にかぶっていますが、「トイレの水を流し忘れる」はもう少し早い段階でも起こりますし、尿失禁と便失禁を同列に並べるのは無理があります。
上表の「重度」は一般的な脳機能テストでは測定できない状態です。エイジングライフ研究所の分類表にはありません。

「右脳と左脳は時分野が違うーその3」この記事の最後に「正常から認知症の移り変わり」として症状の変化がまとめてありますから、興味がある方はお読みください。この多彩な症状解説にはベースに脳機能検査があることをお忘れなく。

認知症を考えるときに、どうして脳機能という物差しを使わないのでしょうか?糖尿病でも腎臓病でも肝臓病でも指標がありますよね…
これは去年の今頃。飛行機から見た富士山火口です。

ついでに「認知症」という病名についても書いておきましょう。
「認知症」という病名は当初から指摘されていたのですがちょっと無理があります。でも厚労省が言い出したとたんに、国中で使われるようになったということは、さすが日本というか一斉に同じ方向を向きやすい国民性なのでしょうね。
まず「認知」ですが、ウキぺデイアの解説を転記すれば「認知とは、心理学などで、人間などが外界にある対象を知覚した上で、それが何であるかを判断したり解釈したりする過程のこと」
いわゆる知覚というのは五感がベースにあるのです。
まず見る、そしてそれがなにかを考える。聴覚からの刺激を受け取り、意味を知る。触られたことも、触られたものも理解できる。というように表現するとわかりやすいかもしれません。いわゆる「知能テスト」で測ることができる能力と言い換えることもできます。

次に「症」です。
「病」は病気の原因(臓器に病理的原因がある)があって、それによる症状が明らかになっているものについて使います。「症」はそのような状態であるということを表しているだけです。熱中症とか脱水症とか感染症とか失語症などありますね。
つまり「認知症」という言葉は、何も言っていません。「認知」がどういう状態であるかがわかりませんから。「認知障害」なら症状を説明していることにはなりますが、既に使われていたということでボツになったとか。

日本語は何でも省略形にしてしまう傾向がありますが、この頃は「あの人、『認知』があるんじゃない?」「絶対『認知』のせいよ」「『認知』の問題は大きい問題です」等と「認知症」を「認知」と省略して使っていますが、とってもおかしいことですよ。
もう一度上記「認知」の説明をお読みください。

何だかとりとめもなく書いてしまいました。この際とりとめもなく画像を2枚あげておきます。記事中に日本とアメリカの認知症患者数が出てきたので、高齢化率をチェックしてみました。そうしたら2016年の人口分布が出てきました。(その他の数字は年度のズレもあり概数です)
まず日本。人口1億2600万人。高齢化率26.86%。65歳以上高齢者は約3400万人。そのうち460万人が認知症だとすると13.5%

多くて重たい高齢者層を、少ない若年層が支えていることがよくわかります。
もう一つショックだったのは、右の折れ線グラフです。いまピークを超えた日本の人口はグラフ最右2100年ではここまで低下と予測されています!
慌てて総務省統計局のデータにあたりました。その試算では、平成107年(2095年)になると5300万と予想されています。

次にアメリカ。人口3億2400万人。高齢化率15.16%。65歳以上高齢者は約4900万人。そのうち500万人が認知症だとすると10.2%

数字やグラフを見ると、一見説得力がありますが、それは人口分布や高齢化率だけです。
「認知症」の面からアプローチしていった途端に、「何」を「認知症」と言っているのかわからなくなってしまうから。数字は真実を説明しているようでいてそうではありません。
脳機能から客観的に認知症を知るようになってほしいものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 











改正後の介護保険法では「脳血管疾患、アルツハイマー病その他の要因に基づく脳の器質的な変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能およびその他の認知機能が低下した状態」として認知症を定義している。

診断学における感度とは、「ある特徴を備えていない」ことに着目し、「○○を備えていないから、○○ではないと言える」と判断するための指標です。特異度は「○○を備えているから、○○だと言える」と判断するための指標ですから、ちょうど正反対ですね。


テレビの医療バラエティーで取り上げるのは、特異度の高い症状が多い、ということに気づかれたでしょうか。その理由は二つ考えられます。一つは、特異度の高い症状は特徴的で印象や記憶に残りやすく、一方、感度の高い症状は地味なものが多いためです。二つ目は、感度を使って病気がないということを確認するのは、医師でない皆さんにとって難しいためです。感度を使い、「○○という病気ではない」と判断していったとしても、中途半端だと生命を脅かす病気を見落とすかもしれません。


無症状の集団はくも膜下出血である可能性は低いでしょうが、典型的頭痛のある集団はくも膜下出血の疑いが濃厚です。この集団ごとの確率のことを、診断学では「検査前確率」と呼びます。「頭部CTに異常がなければくも膜下出血でないのか」という設問を考える上で、過去2回の連載で解説した「検査のパワー(特異度と感度)」以外の第3の要素として、この検査前確率の推定が非常に重要となります。


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