脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

認知症からの回復ー兄のこと&Yさんのこと ③

2015年05月24日 | 認知症からの回復

後遺症は何だったのか?
Yさんの主治医から直接詳細を伺ったのではなくて、友人がYさんのご主人から伺ったことの又聞きですので、たくさん出てきたのは「『脳梗塞の時に起きたこと』は『記憶障害』と『言語障害』」というだけの表現なのでした。

実はこのどちらもどういう状態を指しているのかが、わかりにくいのです。
記憶障害。
記憶力のテストがあります。その結果からだと、どういう状態か共通理解できますが、そうでなければ、わかりにくいものです。
覚えることが難しいのか、覚えるけれども忘れてしまうのか。どの程度のことが起きているのか。
日常生活でも言いますね。ある程度の年齢になったら誰でも口にする「人や物の名前が出てこない」から重度認知症のひとつの症状「同居の家族のことも忘れている」まで、一言で言い表すなら「記憶障害」
もちろん実際に会って半日でも一緒に生活してみると「どういうこと」に関して「どの程度」障害されているのかを知ることはできます。
言語障害。
「話しにくい」と言われても、言葉が思い出せないのか、言い間違いが多いのか、滑らかに話せないのか(ろれつが回らない場合もあれば、発語自体が困難なのか)わかりません。文法的におかしい表現が多発しても「話しにくい」というでしょう。
「言われていることがわからない」場合もありますし、「読み取れない場合」もあります。

脳は、脳卒中などで壊れてしまうと、壊れたところが担っていた機能が働けなくなってしまいます。今うえで話した症状は、それぞれ別の場所が担っているということです。広く障害されると、当然症状は重なってくるわけですけれども。
大脳の機能局在とか巣症状という言葉を聞いたことはありませんか?
CTが普及する前には、脳外科のドクターたちは「いつから、どのような症状が、どういうふうに起きてきたか」を丁寧に聞いて、「どこに何が起きたのか」を「推理」して治療を始めたのです。
何ができなくなったかを知ると、脳のダメージを受けた場所がかなりはっきりわかってきます。
症状は、もちろん場所だけでなく、どの程度に障害されたかも大きく影響します。
いずれにしても、急性期を過ぎてリハビリもやって、できないことがはっきりしたら、それが後遺症ということになります。
いったん損傷を受けた脳自体は治りません。まったく改善しないという訳ではありませんが、リハビリや日常生活をすることによって、その周りがある程度機能を取り戻してくれると考えるといいと思います。一番改善できる期間が半年間。
命と引き換えに、背負って生きていくことになった様々な困難が後遺症です。

具体的な症状の方が、脳のどこが障害されたのかがよくわかります。
「言葉がしゃべりにくい」ということが言われていましたから、しゃべりにくさの内容がもう少しはっきりすれば脳の場所もはっきりしますが、ここは大きく左半球の障害だろうとしか言えません。
「計算ができない」という症状も左半球が障害された時に出てきます。
「ボタンがかけられない」は、形の問題ととらえたら右半球の障害「着衣失行」のようですが、右脳障害はほかに一つも出てきませんでしたから、「そのものの使い方がわからない」という左脳の後遺症がありますから、それに相当するものだろうと思います。
いずれにしてももう少し詳しい情報がないとお手上げです。
と、いうようにごくごく少ない情報から類推すると、左脳障害で失語症(詳しい内容は不明ですが)をきたしたということまでは言えると思います。

Yさんは、脳卒中のあと1年半ほどたったころから、少しずつ講師や講演活動にも復帰できたとご主人が友人に話されたそうです。


この話(情報)だけでは、失語症の回復がどこまでできたのか、そして本当に講演ができるまでの状況判断力があったのかなどわからないことだらけですが、とにかく講演できるまでには回復できていたようなのです。

リハビリで改善しない部分が後遺症。
脳卒中によるその他の障害はなかったのです!
この考え方がとってもとっても大切です。

そのままの生活を続けていらっしゃったら、「そのままの人」でいられたはずなのです。
もちろん、何らかの言葉を主とした後遺症はあったかもしれません。そして正常な老化現象も起きてきたでしょう。

「直前に行ったことも忘れる」
「料理ができなくなった」
「お風呂を嫌がるし、一人では危なかしい」
などのことが、「遅れて」出てきても、「それは脳梗塞の後遺症だと思っていた」!

それは間違いですから。
講演ができるまでに順調に回復されていた生活が、何かの「きっかけ」で大きく変わって、このブログで何度も言っている「ナイナイ尽くしの生単調な活」に変わられたはずなのです。
そこから「アルツハイマー型認知症=脳の老化が加速されてしまった認知症」が始まっていったのでしょう。
その開始点がいつからなのかは、まったく情報が手に入りませんでした。多分このような考え方が、主治医の先生にはなかったからでしょう。

 


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