よみびとしらず。

あいどんのう。

巡りゆくもの

2017-08-08 23:23:36 | 散文(ぶん)
お月様にお金を貸したウサギが、いつまでたってもお金を返さないお月様に業を煮やして「一体いつになったら返すんだ」と火事場の馬鹿力でピョンと飛びはねてお月様につめよった。
お月様は一昼夜かけて、「決して返さないわけじゃない。返したい気持ちは星の数ほどあるけどいまはお金がないから返せない。どうかいましばらく待ってほしい」とウサギへの説得を試みたがうまいこといかず、ウサギは借金のカタにとお月様の一部をもぎとり、それを三日月の舟として地上へと戻った。
お月様はウサギに三日月分をとられたと太陽に泣きついた。
泣きつかれて困った太陽は、地上のキツネが金策に長けているという噂をききつけ、雌鶏に化けて地上へと降り立った。雌鶏に化けた太陽は、三歩歩くと自分が太陽であったことをすっかり忘れて、雌鶏の本分を全うすべく毎日の産卵に精をだした。そこへ通りかかった一匹の白蛇は、大好物の卵がいくつも転がっていることに大喜びしてなんのためらいもなく卵をどんどん飲み込んだ。お腹いっぱいになった白蛇はその場で眠りこけてしまったが、太陽が化けた雌鶏が産んだ卵は、白蛇のお腹のなかでつぎつぎと孵化して光りだし、空へと帰ろうとした。すなわち白蛇のからだごとぷかぷか宙に浮かびはじめた。
お腹のなかから光りを放つ白蛇を空で見かけたお月様は、とりあえず欠けた部分はこれを代用するかと手をのばし、光る白蛇を自分のからだに巻きつけた。だからいまあるお月様のからだの一部は、光る白蛇でできている。円形を取り戻したお月様は、お月様なりの解釈で、これでウサギへの借金は相殺できたと嬉しそうに微笑んだ。

海上では三日月の舟に寝ころんで、ゆらゆら波に揺られながら「最近はちっともお天道様が顔をださないなあ」とウサギがぽつりと呟いていた。

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