テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

バージニア・ウルフなんかこわくない

2011-03-26 | ドラマ
(1966/マイク・ニコルズ監督/エリザベス・テイラー=マーサ、リチャード・バートン=ジョージ、ジョージ・シーガル=ニック、サンディ・デニス=ハニー/135分)


 プロットにトリックが仕掛けてあるだけで映画は2度観たくなるのに、更にこの作品に登場する夫婦の心情は一筋縄では理解できないので、実は初見の後半で些かうんざりしてきたんだが、やはり2度目を観ることにした。
 先日79歳で亡くなったエリザベス・テーラーの2度目の主演オスカー受賞作品。追悼であります。
 原題は【Who´s Afraid of Virgina Woolf 】。エドワード・オールビーによる戯曲が原作で、ヒッチコックの「北北西に進路を取れ (1959)」や、ロバート・ワイズの「ウエスト・サイド物語 (1961)」、「サウンド・オブ・ミュージック (1964)」などの名脚本家、アーネスト・レーマンが脚本を書いている。そして、これはレーマンの初プロデュース作品でもあるらしい。

*

 夜。豪勢な邸宅の玄関から一組の男女が見送られながら出てくる。
 静かな佇まいをみせる住宅地のアプローチ。ゆったりとした芝生と太い幹の広葉樹の木立の中、歩いている二人の体型と距離感から、いかにも仲むつまじい中年の夫婦を連想する。BGMはシンプルなギターのつま弾き。
 オープニングのタイトルバックはそんな映像。1966年の作品だがカラーではなくモノクロだ。

 お話の内容はおおよそ知っているので、『仲むつまじいわけあるか』なんて思いながら観ていると、タイトルが終わる頃に二人が彼らの家へ着き、室内の電灯をパチッと点けた途端に雰囲気がガラッと変わる。

 アメリカ北東部の大学町。バートン扮する夫ジョージは当地の大学の歴史学部助教授で、奥さんのマーサ(テイラー)は彼が勤める大学の学長の娘。その夜も恒例となっている週末の学長宅でのパーティーがお開きとなり、我が家に歩いて帰った所。“スープの冷めない距離”という言葉があるが、彼らのはスープが少しぬるくなりそうな距離である。
 奥さんのマーサはくわえ煙草で髪はボサボサだし、足元もゆらゆらと酔っぱらっている。
 散らかった室内を見渡しながら、うんざり顔で『ひどい家(What A Dump)!』と呟く。そして口走ったその言葉が、ベティ・デイヴィス出演のある映画の台詞だった事に気付き、台所に向かったジョージを追いかけながら、その映画のタイトルは何だったっけと聞く。

 『What A Dump!』

 マーサがその映画のシーンを思い出したのは、その台詞を言った時のベティ・デイヴィス扮する女性が不幸だったから。つまり、同じように『What A Dump!』と呟いた自分も不幸なんだと言いたい訳だ。

 登場人物は彼らと、後からこの家にやってくる新入りの教授夫妻。先程の学長のパーティーにも顔を見せ、ホストである学長が娘マーサにも相手をしてやれと言い、彼らも先輩の教授宅に顔見せにやって来るという次第。
 嫁の実家から我が家に帰ってホッとしているジョージは、客人がこんな夜中に来るとは聞いてないので、タダでさえ夫婦仲はよろしくないのに、更に機嫌が悪くなる。
 皮肉とののしり合いの口喧嘩は突然始まり、和解も見ぬ間に中断し、また何かをきっかけに始まる。
 気の強いマーサがアルコールで更に口先が滑らかになっているのを見て、客人の来る前にとジョージが釘を刺す。
 『やりすぎるなよ。特に子供のことは口にするな』

 やって来たのは若い生物学の教授夫妻。
 ドアが開いた瞬間のタダならぬ様子に若夫婦は帰ろうかと思うが、先輩夫婦は二人を中に引き入れる。
 夫の方のニック(シーガル)はマーサが学長の娘と知っているので、すぐにジョージとマーサの関係を見透かし、おまけに客を客とも思ってないようなジョージの話にも真剣に取り合わない。それがジョージのダークサイドに火を点けた。
 こうして、ふた組の夫婦の長い夜が始まる・・・。

*

 2作目の「卒業 (1967)」でオスカー受賞のマイク・ニコルズの監督デビュー作。
 元々舞台俳優から演出家になったニコルズだし、原作が出演者が4人の舞台劇、しかもニコルズはこの戯曲のブロードウェーでの舞台演出を手がけているので、きっと舞台臭満載の映画かと思っていたのに、全然そんな事はなく、それは多分名キャメラマン、ハスケル・ウェクスラーの腕にも寄るのだろうけど、クロースアップの組み合わせとか、ドリーショットの使い方とかも迫力があるし、俯瞰ショット、ロングショットの入れ方も申し分なかった。

 お薦め度は★三つ。
 ネタバレになるので書かないが、中年夫婦の葛藤の根本的な部分が、他の映画サイトの解説にもあるように一種狂気じみていて理解不能なのでマイナス。自分が分からないのにお薦めはできません。観ようによっては、夫婦の空っぽな茶番劇に付き合わされている感もある。

 賞レースではノミネートだけに終わったジョージ・シーガルが演じた若い教授が一番理解し易く共感も得やすいような気がする。決して善人ではないが、まとも。なので、終盤の展開には納得しかねる部分もある。但し、当時のアメリカの世相を反映させるとこういう展開も有りなのかも。

 原題の『Who´s Afraid of Virgina Woolf』という言葉は、マーサが作った、ディズニー映画「三匹の子ぶた」の劇中歌『狼なんかこわくない(原題:Who's Afraid of the Big Bad Wolf?)』の替え歌のサビの部分。推察するに、当時アメリカで盛り上がっていたフェミニズム運動をよろしく思わなかったマーサが、フェミニストであるバージニア・ウルフを揶揄したものでしょう。つまりマーサは、男は強くあるべきだという保守的な女性であるという事でありますな。


▼(ネタバレ注意)
 葛藤の根本部分というのは子供に関する事。
 ラストで夫の方がゲームの幕を下ろしてしまい、妻の方は涙する。一晩中大喧嘩したのに最後は窓辺で寄り添うなんて・・ったく。
 これぞ“愛憎相半ばして”という事でしょうか。ゲームの内容にも、こういう愛の形態も理解できません。
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 1966年のアカデミー賞で、主演女優賞、助演女優賞、撮影賞(ハスケル・ウェクスラー)等を獲得し、その他作品賞、主演男優賞、助演男優賞、監督賞、脚色賞、作曲賞(アレックス・ノース)などにもノミネートされたそうです。





※ 製作裏話が「素晴らしき哉、クラシック映画!」さんで読めます。リズは当時34歳。この役のために70キロまで体重を増やしたとか。凄い役者魂です

雑感、追記


・お薦め度【★★★=一見の価値あり】 テアトル十瑠

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