テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

死刑台のメロディ

2017-11-26 | ドラマ
(1971/ジュリアーノ・モンタルド監督・共同脚本/ジャン・マリア・ヴォロンテ、リカルド・クッチョーラ、ミロ・オーシャ、シリル・キューザック、ロザンナ・フラテッロ/125分)


 高校生の時に封切りで観て理不尽な内容に強い憤りを感じたのを覚えていますが、ストーリーは殆ど忘れていた作品であります。その後、TVで吹き替え版も放送されたはずですが、観たかどうかは覚えておりません。とにかく、実話を基にした物語であること、悲劇的な結末であったことは覚えておりました。

*

 時は1920年前後のアメリカが舞台。
 1917年のソ連建国以降、アメリカにおいても社会主義者や共産主義者の活動が活発化していて、ついには組織的なテロ活動も発生。それに対して保守派の圧力も暴力的になっていったわけですが、アナーキストとして現政策に批判的な活動をしていた貧しいイタリア系移民の多くも迫害の対象になっていたのです。
 そんなボストンのイタリア系の一般市民である靴職人のニコラ・サッコ(クッチョーラ)と魚の行商人のバルトロメオ・ヴァンゼッティ(ヴォロンテ)は、官憲の一斉取り締まりは逃れたものの潜伏先で捕まり、サッコが護身用に持っていた銃が未解決の強盗殺人事件に使用された銃と同じだった為に、その事件の容疑者として起訴されるのです。
 ストーリーの殆どは裁判に絡んだエピソードで、検察側証人の証言に即して過去のシーンが挿入される編集などは、69年製作のフランス映画「」を彷彿とさせるし、そのドキュメンタリー的手法は今となれば若干劇的な印象も感じられるところもありますが、その分迫力はあります。
 当時のニュース映像も交えた編集もスムースに纏められていて、BGMに流れたジョーン・バエズの主題歌(↓youtube)も懐かしい。

 アメリカを舞台にしながら言語はイタリア語。明らかに英語を喋っているはずの人間もイタリア語なのでそこに違和感は感じますね。アメリカ資本も入れて、きちんとリメイクされても面白いと思います。

 無実の彼らが、政治的な思惑からスケープ・ゴートにされているのは明らかで、アメリカ国内からもヨーロッパからも批難声明が発せられるのに、無理やりに死刑判決までもっていく検察官や判事の様子が酷いです。
 検察側の証人も殆どは買収や脅しによる嘘の証言で、その嘘を撤回した証人は保守派の連中にリンチにあったりするし、真犯人に繋がる資料も知らない間に消されている。二度にわたって交代した弁護人も、検察官や判事の偏見に満ちた進行に嫌気がさして裁判所を去って行くシーンもある。

 アメリカは自由と民主主義の国というけれど、偏見と暴力の歴史に彩られた国でもあるのですね。その闇を自身で描くところがアメリカの素晴らしさなのですが、この映画はイタリア人ならではの悲壮感の打ち出し方に迫力が感じられます。

 1971年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールにノミネート。サッコを演じたリカルド・クッチョーラが男優賞を受賞したそうです。
 お薦め度は★四つ半。昨今のきな臭い世界情勢を考えてもらうきっかけになってもらいたいという映画ファンとしては不純な理由で、★半分おまけしました。





・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】 テアトル十瑠

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