(1994/ロバート・レッドフォード製作・監督/レイフ・ファインズ、ロブ・モロー、ジョン・タトゥーロ、ポール・スコフィールド、マーティン・スコセッシ、バリー・レヴィンソン、エリザベス・ウィルソン、デヴィッド・ペイマー、ハンク・アザリア、クリストファー・マクドナルド/132分)
劇場では観てなくて、随分前にレンタルビデオで観た映画だ。NHK-BS2での放送を録画した今回が2度目の鑑賞。レッドフォードの「ミラグロ(1988)」に続く監督第3作で、50年代のアメリカでお茶の間の人気番組だったクイズショーの裏側とそのショービジネスに振り回された知識人の苦悩を描いた、実話に基づいた作品であります。【原題:QUIZ SHOW 】
今でこそ日本の視聴者参加クイズ番組は「パネルクイズ/アタック25」くらいしか思いつかないが、昔は「アップダウンクイズ」や「タイムショック」など沢山あったような気がする。こういった番組も大概アメリカの物まねで、マイナーアレンジした番組が多い。それでもこの映画のような不祥事は無かったように思う。大体、視聴者が一対一で戦うような番組はなかったし、複数の人間が競うクイズ番組では八百長は成立しにくいでしょう。TV番組でスターを作り、その人気に便乗して視聴率を上げ、スポンサー商品の売り上げもアップさせる。アメリカさんらしいビジネスライクな仕組みでありますな。
1958年のアメリカ。全米の人気を博したテレビ番組“21(トゥエンティ・ワン)”。視聴率から割り出された聴視者の数は4千万とも5千万とも言われたオバケ番組である。二つのブースに対戦する二人の参加者が入り、司会者がランダムに選んだジャンルから得点の違う問題を出題する。回答者二人に対してではなく個別に問題は出される。正解すれば加点されるし、間違えれば減点される。二人のうち早く21点を取った方が勝ちとなるゲームだ。
現在の勝ち抜きチャンピオンはハービー・ステンペル(タトゥーロ)という男性。ニューヨークのクイーンズ地区に住むユダヤ人で、奥さんと男の子が一人いる。放送は週に一度だが一回の放送での勝ち抜き賞金は1万ドルを越え、ハービーはいわばアメリカンドリームの体現者。放送終了後にタクシーで帰宅した彼は近所の住民のヒーローだった。
映画が始まってすぐに“21(トゥエンティ・ワン)”も始まるが、司会者の質問に要らぬコメント差し挟むハービーは、いわゆるKYな男として紹介される。彼としてはスポンサーに気を利かしたつもりなんだろうが、番組を見ていた当のスポンサー重役は早速テレビ局に電話して、ハービーを番組から降ろすように言う。視聴率が頭打ちとなって、既に大衆はハービーに飽きてきたと判断していた所に、彼のモサッとした対応に嫌気がさしたのだ。
ハービーに変わって新しいクイズ王に選ばれたのがチャールズ・ヴァン・ドーレン(ファインズ)。コロンビア大学出身で両親も叔父も著名な文学者という名門インテリ一家の御曹司だ。元々クイズ番組が好きだったチャーリーが友人に勧められてテレビ局に来たところを“21(トゥエンティ・ワン)”のプロデューサーに目を付けられたのがきっかけ。願ってもないスターの卵を見つけたプロデューサーは、答えを教えるから是非とも番組に出てくれないかと言い、チャーリーは正々堂々と戦えるなら出ると応える。何しろ母校コロンビア大学の講師をしている教育者だ。八百長なんてとんでもない。
ハービーは別の番組に出してやるからと言うプロデューサーの言葉を信じてわざと負けるが、その後音沙汰がないのに業を煮やし、ついには大陪審に訴える。“21(トゥエンティ・ワン)”は八百長番組だというハービーの訴えは、彼以外の番組出演者が否定したために大陪審はソレを封印し、事件は外部に知れることはなかった。
しかし、ワシントンの下院小委員会に勤めるディック・グッドウィン(モロー)が目を付けたことから、事件はマスコミの知るところとなる。放送業界は下院の監督下にあり、立身出世を熱望するグッドウィンは巨大な金が動く放送業界にメスを入れようとしたのだ。ディックはハービーと接触し、やがてチャーリーも疑惑の渦に巻き込まれる・・・・。
オープニングは、ハーバードを主席で卒業したディックが(ワシントンでの就職が決まり)クライスラーの新車を見定めに来ているところから。ラジオのスイッチを入れると「♪Mack The Knife」が流れだし、ボビー・ダーリンの軽快な歌声に乗ってタイトル・ロールが始まる。クラシックなタイトル文字もレトロな雰囲気。
viva jijiさんも書かれていましたが、実に小気味イイ導入部であります。「♪Mack The Knife」に乗ってタイトルバックでは、“21(トゥエンティ・ワン)”に魅了された庶民の様子が点描され、「出題される問題は事前に銀行に預けてあり不正などありえません」との謳い文句があったのでしょう、銀行の貸金庫から封印された問題集の封筒がテレビ局まで運ばれるシーンが続く。問題なんて複写すればいくつでも作れる時代でしょうに、わざわざ金庫から出すなんざ笑っちゃいますな^^
「ミラグロ」で群像劇をこなしたレッドフォードが、ここでは三人の男達に注目する。チャーリー、ディック、そしてハービー。
クイズ番組の人気は学習意欲、勉学意欲を向上させるというプロデューサーの言葉を言い訳に、人気者になる喜びに浸っていったチャーリー。最期には大勢の国民を騙していたことに気付くのだが、時既に遅し、大陪審での彼の発言が注目される。
チャーリーと接触するにつれてその人柄に惹かれるディック。彼を傷つけずに、ディックはテレビ局の不正を暴くことは出来たのか。
目先の利害にのみ固執するハービーが自分の起こした波の大きさに気付くのは、ずっと後の事である。
原作者がリチャード・N・グッドウィン。ディックのことですな。彼が書いた回顧録の一章が基になっているようです。映画評論家出身というポール・アタナシオの脚本は主人公を3人に絞り、彼らをバランス良く描くことに成功、それぞれに葛藤があり、「ミラグロ」以上の深遠なドラマになっていると思います。
テレビは今も昔もショービジネスの巨大な城であり、裏では政治力とも密接に繋がっている。ハービーの言うとおり『テレビは印刷技術に次ぐ人類の大発明』かもしれない。新聞とテレビ。半世紀前から、人類はその影響力をコントロール出来ずにいるのではないでしょうか。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/26/cd36d94fe92a5d6866d56e15bb1576c9.jpg)
1994年度アカデミー賞で、作品賞、助演男優賞(スコフィールド)、監督賞、脚色賞にノミネートされ、ゴールデン・グローブでも同じ部門でノミネートされた(但し、こちらの助演男優候補はタートゥーロ)。
NY批評家協会賞では作品賞を受賞し、英国アカデミー賞では脚色賞を受賞、作品賞と助演男優賞(スコフィールド)にノミネートされた。
番組プロデューサーに扮したのが、デヴィッド・ペイマーとハンク・アザリア。クリストファー・マクドナルドは「21」の司会者ジャック・バリー役。
マーティン・スコセッシはスポンサー会社の社長という重要な役で出演。バリー・レヴィンソンもモーニング・ショーの人気司会者の役。どちらも役者顔負けの演技でありました。
実話なのにとても上手く構成しているが、やはり2時間12分は長いかも。お薦め度は限りなく★★★★★に近い★★★★。
マスコミを扱ったこと、裁判が絡むこと。フランク・キャプラを思い出しました。そう考えると、レイフ・ファインズがゲーリー・クーパーに見えてきましたな。ん~ン、やっぱ★一つおまけしよう♪
劇場では観てなくて、随分前にレンタルビデオで観た映画だ。NHK-BS2での放送を録画した今回が2度目の鑑賞。レッドフォードの「ミラグロ(1988)」に続く監督第3作で、50年代のアメリカでお茶の間の人気番組だったクイズショーの裏側とそのショービジネスに振り回された知識人の苦悩を描いた、実話に基づいた作品であります。【原題:QUIZ SHOW 】
今でこそ日本の視聴者参加クイズ番組は「パネルクイズ/アタック25」くらいしか思いつかないが、昔は「アップダウンクイズ」や「タイムショック」など沢山あったような気がする。こういった番組も大概アメリカの物まねで、マイナーアレンジした番組が多い。それでもこの映画のような不祥事は無かったように思う。大体、視聴者が一対一で戦うような番組はなかったし、複数の人間が競うクイズ番組では八百長は成立しにくいでしょう。TV番組でスターを作り、その人気に便乗して視聴率を上げ、スポンサー商品の売り上げもアップさせる。アメリカさんらしいビジネスライクな仕組みでありますな。
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![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/23/78d6cc6de0ee81c25c2c243163162eae.jpg)
現在の勝ち抜きチャンピオンはハービー・ステンペル(タトゥーロ)という男性。ニューヨークのクイーンズ地区に住むユダヤ人で、奥さんと男の子が一人いる。放送は週に一度だが一回の放送での勝ち抜き賞金は1万ドルを越え、ハービーはいわばアメリカンドリームの体現者。放送終了後にタクシーで帰宅した彼は近所の住民のヒーローだった。
映画が始まってすぐに“21(トゥエンティ・ワン)”も始まるが、司会者の質問に要らぬコメント差し挟むハービーは、いわゆるKYな男として紹介される。彼としてはスポンサーに気を利かしたつもりなんだろうが、番組を見ていた当のスポンサー重役は早速テレビ局に電話して、ハービーを番組から降ろすように言う。視聴率が頭打ちとなって、既に大衆はハービーに飽きてきたと判断していた所に、彼のモサッとした対応に嫌気がさしたのだ。
ハービーに変わって新しいクイズ王に選ばれたのがチャールズ・ヴァン・ドーレン(ファインズ)。コロンビア大学出身で両親も叔父も著名な文学者という名門インテリ一家の御曹司だ。元々クイズ番組が好きだったチャーリーが友人に勧められてテレビ局に来たところを“21(トゥエンティ・ワン)”のプロデューサーに目を付けられたのがきっかけ。願ってもないスターの卵を見つけたプロデューサーは、答えを教えるから是非とも番組に出てくれないかと言い、チャーリーは正々堂々と戦えるなら出ると応える。何しろ母校コロンビア大学の講師をしている教育者だ。八百長なんてとんでもない。
ハービーは別の番組に出してやるからと言うプロデューサーの言葉を信じてわざと負けるが、その後音沙汰がないのに業を煮やし、ついには大陪審に訴える。“21(トゥエンティ・ワン)”は八百長番組だというハービーの訴えは、彼以外の番組出演者が否定したために大陪審はソレを封印し、事件は外部に知れることはなかった。
しかし、ワシントンの下院小委員会に勤めるディック・グッドウィン(モロー)が目を付けたことから、事件はマスコミの知るところとなる。放送業界は下院の監督下にあり、立身出世を熱望するグッドウィンは巨大な金が動く放送業界にメスを入れようとしたのだ。ディックはハービーと接触し、やがてチャーリーも疑惑の渦に巻き込まれる・・・・。
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オープニングは、ハーバードを主席で卒業したディックが(ワシントンでの就職が決まり)クライスラーの新車を見定めに来ているところから。ラジオのスイッチを入れると「♪Mack The Knife」が流れだし、ボビー・ダーリンの軽快な歌声に乗ってタイトル・ロールが始まる。クラシックなタイトル文字もレトロな雰囲気。
viva jijiさんも書かれていましたが、実に小気味イイ導入部であります。「♪Mack The Knife」に乗ってタイトルバックでは、“21(トゥエンティ・ワン)”に魅了された庶民の様子が点描され、「出題される問題は事前に銀行に預けてあり不正などありえません」との謳い文句があったのでしょう、銀行の貸金庫から封印された問題集の封筒がテレビ局まで運ばれるシーンが続く。問題なんて複写すればいくつでも作れる時代でしょうに、わざわざ金庫から出すなんざ笑っちゃいますな^^
「ミラグロ」で群像劇をこなしたレッドフォードが、ここでは三人の男達に注目する。チャーリー、ディック、そしてハービー。
クイズ番組の人気は学習意欲、勉学意欲を向上させるというプロデューサーの言葉を言い訳に、人気者になる喜びに浸っていったチャーリー。最期には大勢の国民を騙していたことに気付くのだが、時既に遅し、大陪審での彼の発言が注目される。
チャーリーと接触するにつれてその人柄に惹かれるディック。彼を傷つけずに、ディックはテレビ局の不正を暴くことは出来たのか。
目先の利害にのみ固執するハービーが自分の起こした波の大きさに気付くのは、ずっと後の事である。
原作者がリチャード・N・グッドウィン。ディックのことですな。彼が書いた回顧録の一章が基になっているようです。映画評論家出身というポール・アタナシオの脚本は主人公を3人に絞り、彼らをバランス良く描くことに成功、それぞれに葛藤があり、「ミラグロ」以上の深遠なドラマになっていると思います。
テレビは今も昔もショービジネスの巨大な城であり、裏では政治力とも密接に繋がっている。ハービーの言うとおり『テレビは印刷技術に次ぐ人類の大発明』かもしれない。新聞とテレビ。半世紀前から、人類はその影響力をコントロール出来ずにいるのではないでしょうか。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/26/cd36d94fe92a5d6866d56e15bb1576c9.jpg)
1994年度アカデミー賞で、作品賞、助演男優賞(スコフィールド)、監督賞、脚色賞にノミネートされ、ゴールデン・グローブでも同じ部門でノミネートされた(但し、こちらの助演男優候補はタートゥーロ)。
NY批評家協会賞では作品賞を受賞し、英国アカデミー賞では脚色賞を受賞、作品賞と助演男優賞(スコフィールド)にノミネートされた。
番組プロデューサーに扮したのが、デヴィッド・ペイマーとハンク・アザリア。クリストファー・マクドナルドは「21」の司会者ジャック・バリー役。
マーティン・スコセッシはスポンサー会社の社長という重要な役で出演。バリー・レヴィンソンもモーニング・ショーの人気司会者の役。どちらも役者顔負けの演技でありました。
実話なのにとても上手く構成しているが、やはり2時間12分は長いかも。お薦め度は限りなく★★★★★に近い★★★★。
マスコミを扱ったこと、裁判が絡むこと。フランク・キャプラを思い出しました。そう考えると、レイフ・ファインズがゲーリー・クーパーに見えてきましたな。ん~ン、やっぱ★一つおまけしよう♪
・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】 ![テアトル十瑠](http://8seasons.life.coocan.jp/img/TJ-1.jpg)
![テアトル十瑠](http://8seasons.life.coocan.jp/img/TJ-1.jpg)
マイ記事のどっかに彼の悪口さんざん書いた記憶があるぅ~・・・
レヴィンソン、あのズルそうな顔した司会者の役だったのね~~~^^
ところでね~(必死にクーパー話題から逃げる私^^;)
あの出題群、難し過ぎませんでした~?
ハービーが言わされた「波止場」の正解映画名だって
私、知りませんでした~(私だけか)(--)
十瑠さんからの貴重なTB成功に喜び勇んで私も
そりゃ!ってトライしましたが
やっぱりダメでした~
ファンって訳じゃないけど(何しろ彼の映画はTVの洋画劇場で観たモノばかりですから)、「オペラハット」、「真昼の決闘」、「友情ある説得」、「群衆」etc、彼の演じる人物に好ましい印象を持っているのは確かです。
★のおまけは、キャプラを思い出させてくれたからですよ。キャプラのユーモアは無かったですがね。
>あの出題群、難し過ぎませんでした~?
>ハービーが言わされた「波止場」の正解映画名
55年のオスカー作品ですよね。「マーティー」はBSの放送を録画しております。アーネスト・ボーグナイン主演の小品。DVDにしたまんまでまだ観てないんですが、タイトルは結構昔から知ってました。
“映画”以外の問題は、外国人には難しいでしょう。
恥ずかしながらHNに入れて持ってきました。
最後のほうにちょぴっと書いてますぅ。
いい映画だったのに、印象薄い。(←くやしまぎれの言い訳っぽい)
キャプラは好きよ♪
「或る夜の出来事」「スミス都へ行く」・・・
「ラスベガス万才!」でホレちゃったアン=マーグレット観たさに必死に探し求めボロボロのレンタル落ちビデオでやっと手に入れた「ポケット一杯の幸福」もキャプラでございました。
あんれ?
十瑠さん、キャプラ作品、ほとんど記事にしてらっしゃたわよね?
>キャプラ作品、ほとんど記事にしてらっしゃたわよね?
「群衆」は未稿で、「ポケット一杯」は未見です。その他の有名どころはアップしてますね。
失意のレイフ・ファインズは「群衆」のジョン・ドゥを思い出させました。
「マーティ」、いつ観るんだろう?
閑話休題。
kikiさんチのコメントで、イーストウッドと同様に、北野武についても過大評価ではないかとの御意見。
“激しく同意”、させていただきます。
(↑こんな2チャン的表現、今でも使われるのだろうか?)
映画「マーティ」が重要な要素になっているのは、映画評論家だった人物が脚本に当たったからでしょうね。
1955年のアカデミー作品賞は僕も正解できまする。何と言っても地味すぎる「マーティ」が僕の愛する「エデンの東」を押しのけて作品賞を取ったから。「エデンの東」は作品賞の選択肢にも入っていなかったような? アカデミー賞は大体地味な作品は避けるのに、この作品はどうして?という感じです。
尤も、前年作品賞を獲った「波止場」もカザンの作品ですね。
因みに、1994年の双葉師匠の第2位は「スモーク」でした。