テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

リアル・スティール

2012-06-16 | ドラマ
(2011/ショーン・レヴィ監督/ヒュー・ジャックマン、ダコタ・ゴヨ、エヴァンジェリン・リリー、アンソニー・マッキー、ケヴィン・デュランド、カール・ユーン、オルガ・フォンダ、ホープ・デイヴィス/128分)


 高校生の息子がレンタルしてきたのを横から鑑賞。
 彼にとってはお気に入りの1本になったようだけど、その数百倍も映画を観てきたオヤジからみれば、中高生向きにはそこそこ纏まってはいるものの、大人の鑑賞に耐えるにはアチラコチラに物足りなさを残す作品でありました。

 近未来のアメリカが舞台。近未来といっても人々の様子も、街の様子も、そして生活様式も"今”の話だと言われても何の違和感もない感じ。唯一、未来の話だと分かるのが映画の題材であるボクシングの形態で、この未来では人々は人間同士の闘いに飽き足らず、鋼鉄製のロボットをリングに送っているのです。そう、セコンドに付いている人間がコントローラーを持ってロボット同士を戦わせているのです。コンピューター・ゲームをリアルな世界に持ち込んだわけですね。

 原作は「激突!」の原作者でもあるリチャード・マシスンが1956年に書いた短編小説「四角い墓場」とのこと。映画はアメリカのボクシング映画にありがちな父と子の感動の物語に仕立てられているけれど、原作は多分全然違うテイストなんだろうと想像します。

*

 ヒュー・ジャックマン扮する主人公チャーリー・ケントンも元はプロボクサー。ロボットにリングを追われ、今はプロモーターとしてロボットをトレーラーに乗せて転々としている生活で、お約束どおり勝率は良くなく、借金もかさんで四苦八苦している状態だ。
 そんな彼のところに10年前に別れた妻が急死したとの知らせが来る。しかも11歳の一人息子マックス(ゴヨ)を残して。
 別れたといっても正式には離婚していないのでマックスは今もチャーリーの子供なんだが、死んだ妻には姉がいて、子宝に恵まれていない彼女が妹の忘れ形見を養子に迎えようとチャーリーを呼び出した次第。つまりチャーリーに親権を放棄させる裁判を起こしたわけだ。
 召喚状に応じてノコノコやってきたチャーリーは義姉夫婦が裕福そうなのを見てすかさず一計を企てる。義姉の夫がかなり高齢な為に今後も子供は期待できそうにないと読んだチャーリーは、彼に声をかけて親権を金で売ろうとするのだ。要するに人身売買みたいなもんですね。どうやら息子には一欠けらの愛情も持っていないみたい。義理の兄の方には妻に子供を与えたいという気持ちもあり(彼女には内緒で)話はスムーズにつく。賢いマックスは直ぐにそれと気付くが、叔母さんにはしゃべらないという優しさも持っている。

(自分の売買代金の一部を自分にもくれと言う辺りは、懐かしい「ペーパー・ムーン」を思い出しましたね)

 借金の返済と、新しいロボットの購入代金の目処も付いたチャーリー。但し、義姉夫婦は3ヶ月ほど旅に出る予定があり、その間だけはチャーリーが10年間会ってなかったマックスを預かることになる。

 ここまで観たところで、後の流れは大体読めますよね。
 実の親子なのに親子らしい関係など築けそうになかった二人が、ロボット・ボクシングを介して本当の親子になっていき、3ヵ月後にやってくる別れが葛藤を生み、その後には感動のクライマックスを迎えて・・・でしょうか。

 話の軸となるボクシングについては、廃棄物置き場で土に埋もれた旧式のロボットをマックスが偶然見つけて、その「ATOM」と名付けられたロボットがボクサーに仕立てられ親子の絆を結ぶ役割を担います。
 チャーリーはATOMは旧式だからリングに上がれば直ぐに壊されると思っているが、マックスはチャーリーにATOMを訓練してボクサーにして欲しいと言うわけですネ。ボクサー時代のチャーリーのジムのオーナーの娘ベイリー(リリー)が今はロボットのメンテナンスもやっていて、ATOMは中身のパーツも新しいものと交換される。

 とまぁ、お膳立ては完璧なんですが、僕が物足りなさを感じたのは、まずはチャーリーとマックスの関係でしょうか。
 10年以上会ってない、しかもマックスが乳飲み子の頃に別れたきりなのに、チャーリーはまるでほんの数週間前まで一緒に暮らしていた子供に再会したみたいに無感動だし、初対面のはずのマックスもほぼそんな感じ。ドライとかクールとかいうよりも、そういう関係を表現するのが面倒くさかったとしか思えませんでしたネ。二人の間に、マックスの母親(つまりはチャーリーの元妻)に関する話題も出なかったし。
 つまり、最初っから"親子なのに親子になれない二人”感が出ていないんですよ。だから関係が修復されていく感じもあんまりしなかった。
 も一つの重要な物足りなさはボクシングに関する部分で、多分原作とは違うスポーツ物としての側面もある今作なのに、そして闘うのがロボットという珍しい趣向なのに、映画としてのディーテイルを面白くする工夫が見当たらないんですよね。
 序盤で、チャーリーは新しく購入したロボットの特長さえも確認しないままにリングに上げて負けてしまうし、ATOMについても、ダンスが出来るとかいう性能は分かるけど、ボクシングに関する性能については殆ど語られない。シャドー機能と言うのが目新しい感じはするが、いきなり本番であんなに上手くいくかなぁという感じ。トレーラーではその機能で練習しているシーンがあるけれど、本編ではなかったような気がするんですよね。いずれにしてもその辺りの作り込みが不足している感じがしました。

 というわけで、スポーツ映画としても手に汗握る感じにもならなかったし、親子物としての終盤の感動もなかったしの中途半端な作品でした。今回は一度しか見れなかったから、もう一度見ると少しは変わるかしらん?

 トリビア的に面白かったのが、終盤でATOMが闘うチャンピオン・ロボットを設計した謎のアジア人の名前が「タク・マシド」といったこと。まるで「逞しいど」という日本語のようでした。
(←)そして、そのマシドの雇い主である女性プロモーター、ファラ・レンコヴァ(フォンダ)が漫画「あしたのジョー」の白木葉子に見えたこと。さてさて、彼女を見て白木葉子を連想した人、何人いるでしょうかねぇ?






・お薦め度【★★=中高生には、悪くはないけどネ】 テアトル十瑠

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6 コメント

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Unknown (けん)
2012-06-17 01:22:45
TBさせていただきました。
またよろしくです♪
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けんさん、いらっしゃいませ (十瑠)
2012-06-17 05:38:29
TBありがとうございました。
他の方のブログを見ると、大方好評なものが多いですね。
僕は、チャーリーの序盤のあっけらかんとした薄情ぶりが尾を引いて、ラストの盛り上げにも白けたまんまでした。
もう一度見ると★一つくらい上がるかもしれませんが。
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かなり絶賛でしたけどねえ・・・ (フシ)
2012-06-20 22:19:10
十瑠さん☆お久しぶりです。
TBにコメントありがとうございます。
この作品、後からあれもおかしい、これも納得できないと、ものすごく突っ込んでしまいますよね。普通はこうするだろうとか、絶対こうしたほうがいいよ、なんて自分が監督だったらこうするみたいなことを、いろいろ考えさせてくれる、楽しい作品ではありますね(笑)
それでも大半の人が絶賛されているんだから、いい作品なんですよ。
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フシさん (十瑠)
2012-06-20 22:36:10
★二つの作品は大抵2回くらいは観るので、この作品ももう一回くらいは見直したいんです。ひょっとすと、それで★一つくらいは(おまけで)上がるかも知れんです。

>自分が監督だったらこうするみたいなこと

そうそう、それを考えさせてくれるのが、こういう中途半端な映画の良いところです
返信する
TB&コメント有難うございました。 (オカピー)
2013-02-17 22:14:45
ショーン・レヴィという監督はファミリー映画御用達で、本作も限りなくファミリー映画に近いSFもどき。
安心して子供を連れていける映画を多く作っていますね。職業監督だけど、名前は早めに記憶しました。
ここ十数年、新人監督ばかりで監督で映画を観られないつまらない時代だから、職業監督も貴重ですよ。

>原作は多分全然違うテイストなんだろう
全く同じことを考えました^^
親子のドラマなんかきっとないだろうなあ、なんてね。

親子ドラマとしては、確かに設定が甘いですが、まあこんなものだろうとこちらも甘めに観ました。
返信する
記事を探すのに (十瑠)
2013-02-18 09:54:11
SFカテゴリーを探していて見つからず、「ドラマ」のカテゴリーに入れてたのに気付くという・・・。(汗!)
「チャンプ」や「ロッキー」も連想させるので、しょうがないですよね。

>ショーン・レヴィ

ハイ、覚えときます。
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