テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

荒馬と女

2010-11-11 | ドラマ
(1961/ジョン・ヒューストン監督/クラーク・ゲイブル、マリリン・モンロー、イーライ・ウォラック、モンゴメリー・クリフト、セルマ・リッター、ケヴィン・マッカーシー/124分)


 原題は“The Misfits”。
 オープニングのタイトル・バックにジグソー・パズルのピースが3個出てきて、スクリーンの端から中央に集まっていくショットがあります。あれっと思って見ていると、3個のピースは凹凸が合ってないのでどれもフィットせずにすれ違ってしまう。これはそりの合わない人々のドラマという意味なんだなと思って観ておりましたが、そういう意味合いもあるけれども、それよりは社会に適合できない人々が主人公のドラマなので“ミスフィッツ”なんだなと思いました。

*

 十代の頃にTVの吹き替えで初めて観た映画で、モンローとゲイブルの遺作という以外にはなんの印象も残っていなかったけれど、改めて観てみれば、そんな子供に解ろうはずもない大人の男女の心のすれ違いが、大人のタッチで描かれた大人の映画でありました。

 夫と離婚するためにネバダ州のリノにやって来た、男なら誰もが振り返りそうな美女ロズリン(モンロー)。
 妻と離婚し、人生の盛りを過ぎたのに今だに根無し草のような暮らしを続ける老カウボーイ、ゲイ(ゲイブル)。
 ゲイの友人で、奥さんと死に別れ、人生の目的を見失っている自動車修理工のグイード(ウォラック)。
 継父となじめずに実家を離れて放浪している若いカウボーイ、パース(クリフト)。

 そんな男三人と一人の魅惑的な女性との危なっかしい数日間の話で、モノクロのスクリーン(撮影:ラッセル・メティ)、ジャジーなBGM(音楽:アレックス・ノース)が心理映画のようなムードを醸し出す作品です。

 脚本は当時マリリン・モンローのご主人だったアーサー・ミラー。
 モンローより11歳年上で、劇作家として名を成した後に5年前に世間の注目を浴びながら当代きっての人気女優と結婚したのですが、映画の撮影に入る頃には既に夫婦仲は冷却状態に入っていたとのことです。
 ミラー自身が自作の短編小説をシナリオ化して映画会社に企画を持ち込んだらしく、その時には夫婦は円満だったという情報もありましたが、ロズリンは明らかにマリリン・モンローをモデルにした女性だし、彼女の社会へのミスフィット感も表現されているので、二人が順調だったというのは如何なものでしょうか? 撮影と同じ61年に二人は離婚しています。

 ロズリンの人なつっこく開放的な割には神経が繊細で、特に人や動物が傷つくことを自身の痛みと感じるような感受性の鋭さは、ゲイが指摘したように社会を生きていくには都合の悪いものでしょう。
 男を魅了する容姿と、ほのかに漂ういつかは自分のものに出来るかも知れないという期待を抱かせる親近感。ところが、人一倍の繊細さは彼女自身を傷つけるだけでなく、近づく男までをも傷つけてしまう。ロズリンは男たちのミスフィットを表出する媒介のような役目も担っているように見えますね。

 ゲイでいえば、ロデオ大会の後にバーで再会した息子と娘が突然居なくなった時の彼の慟哭。あの時のゲイにはロズリンを子供たちにどうしても紹介したいという気持ちがあったのでしょう。ところが、ロズリンを呼びに行った間に子供たちはどこかに消えてしまった。家族からも見放されたような気分は、社会に置いてきぼりをくらっているカウボーイに更なる追い打ちをかけたわけですね。

 ロズリンに最も影響を受けたのはグイードです。
 ロズリンをゲイに紹介したのは自分なのに、いつの間にか横取りのようにもっていかれ、しかしその事については何も言わずに平静を保とうとする。しかも自分の家を二人に使わせている。ゲイの慟哭事件の後、今度は彼が酔った勢いで車を暴走させる事でそんな不満を解消しようとします。
 ロデオ大会後の泥酔状態のゲイとパースとゲイを介抱するロズリンを乗せ、自身もかなり酔っているグイードが二人が暮らしている自分の家に送って行く。自暴自棄のように見える運転をしながら、ロズリンに『俺にももう少し注目してくれよ』と言います。こういう感情をこういうシチュエーションで描いた映画はあまり観たことがないですね。
 ついには、終盤の馬狩りのシーンでロズリンがゲイをなじったのを見計らったように告白をします。ところが、今度はロズリンがそんなグイードの心理の奥を見透かしたように非難します。
 『あなたは何でも欲しがるのね。被害者のような顔をして』
 ロズリンの反撥を受けた後の手のひらを返すようなグイードの言動には、弱い男のずるい心理がみえてイヤな気分になります。

 何となく現代西部劇の一編という印象もありましたが、西部劇という側面は全く関係ないですね。ただ、時代に取り残されたカウボーイが主人公の映画「ブロークバック・マウンテン」も背景が同年代だったのも思い出しました。

 書き忘れるところでした。パースについてはロズリンとの確執のようなものは出てきません。終盤で、ゲイに捕獲された野性馬が可哀想と涙をみせるロズリンの為に捉えられていた馬達を解放します。

 前回記事もモンローが主役の「バス停留所」。あれから5年の歳月が流れていますが、今作のマリリン・モンローには「バス停留所」のシェリーには無い表情の陰りが見て取れます。憂いを帯びた悲しげな眼差しは、役柄のせいだけではないような・・・。





・お薦め度【★★★=一見の価値あり】 テアトル十瑠

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« バス停留所 | トップ | ♪Friends(フレンズ) / Elt... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ドラマ」カテゴリの最新記事