徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「ひと夏のファンタジア」―心ときめく真夏の夜の夢のような―

2016-07-19 16:00:00 | 映画


 韓国の是枝裕和として注目される、俊英チャン・ゴンジェ監の最新作である。
 映画は河瀬直美のプロデュースで、奈良県五條市を舞台に撮影された。

 見知らぬ土地の人々との出会いがある。
 二人の男女が寄り添って、偶然と必然が交錯する。
 淡々と描かれる風景の中に、出会いがあり別れがある。
 映画は第一章と第二章の二部構成になっている。











第1章・・・。
韓国からやって来た映画監督のテフン(イム・ヒョングク)は、助手兼通訳のミジョン(キム・セビョク)とともに、観光課の職員武田の案内で街を歩き、様々な人々と出会い、いろいろな話を聞く。
古い喫茶店、廃校、ひとり暮らしの老人・・・。。
寂れゆく町にも人々の営みを感じたテフンは、旅の最後の夜に不思議な夢を見る。

第2章・・・。
観光から奈良にやって来た若い女性ヘジョン(キム・セビョク二役)は、五條市の観光案内所で知り合った、柿農家の青年友助(岩瀬亮)に案内されて、古い町を歩き始める。
自分にはひとりになる時間が必要だ。
そう悟るヘジョンに、友助は次第に心惹かれていくのだったが・・・

チャン・ゴンジェ監督のデビュー作「つむじ風」 (2009年)、「眠れぬ夜」 (2012年)に次ぐ、3作目の作品だ。
1章に出てきた同じ俳優で、1章に出てきた五條という同じ町で、どうすれば違うドラマが作れるか。
そう考えながら第2章は作られている。
2章は、1章に登場した人たちの過去を見ているようだ。
映画の順序とは逆に、現在と過去が同時に進行しているような、不思議な感覚にとらわれる。

1章に登場する映画監督は、自分自身を描いているようだし、2章はシナリオらしいシナリオもないまま、ほとんど即興で作られていったようだ。
そう見ると、古びた町の現実をスケッチしたドキュメンタリー風でもあり、2章に入ってそれがロードムービーのような旅行映画の趣きを見せる。
韓国の女性が日本語を話している。
これもまた、新しい映画を思わせる。
全体をどう解釈しようと観客任せなのだ。

作品はモノクロとカラーと二分別され、異なった時空で、同じ俳優が演じているところに観ている方はこだわってしまうのだが・・・。
第1章については、映画内映画という、入れ子構造という手法を使っての撮影で、ここでもかなり即興部分が演出効果を上げている。
1章でポツリポツリと語られるモノクロが、2章に移ってからカラーに変わり、韓国から出てきたヘジョンが、青年友助と出会って切ない恋に落ちてゆくシーンがなかなかいい。
この二人のほかに、この映画には町の人々も登場してくるし、どこか現実離れした雰囲気が醸し出されている。

華やかに空に舞い、散っていく打ち上げ花火・・・、人の心を癒し、はかなく消えてゆくファンタジーが、ひと夏の夢を彩る。
しいて言えば、ドラマともいえないようなドラマで、ささやかなロマンスの部分も、期待のわりには恋愛以下(?)の物語で、何やら切なさだけがしんみりと残って・・・。
一風変わった、映画作りの新しい実験とみると、韓国・日本合作映画「ひと夏のファンタジア」は、詩情漂うリアリティをもった夢のような映画だ。
いつまでも、余韻が心地よい。
     [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
次回はイギリス映画「ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出」を取り上げます。