つぶやき、或は三文小説のやうな。

自由律俳句になりそうな、ならなそうな何かを綴ってみる。物置のような実験室。

花束と

2015-12-02 23:58:11 | 文もどき
最終にほど近い電車内で、ひときわ目を引いていたのは、色のせいだけではないはずだ。彼女が両手で掲げ持っている花束は、くっきりとしたピンクに彩られている。小さなバラ、大きな百合、ふわふわしたよくわからない花はまるで花瓶から引き抜いてきたかのように整えられた堂々とした佇まいだが、切り取った茎は空気にさらされてどこか居心地が悪そうに見えた。10本の指に絡め取られ、時折花びらがよれていないか下唇と顎に力を入れて確認されるほかは特にすることもないらしく、電車の揺らぎに合わせて花たちもゆらゆらしていた。セロファンもリボンもついていない花束というのは、車内に馴染まない。ちらり、ちらりと誰かが目をやっては、いけないものを見るように視線を微妙な角度に外す。
決意を固めた人の顔をした彼女が、プラットフォームに降りる寸前、そうっと端っこの小さな花を撫でた。
不意に、違和感の正体に思い至る。
花束だけが、裸だった。