つぶやき、或は三文小説のやうな。

自由律俳句になりそうな、ならなそうな何かを綴ってみる。物置のような実験室。

天を仰ぎ、7を思う

2017-08-06 23:16:22 | 文もどき
必然的に、彼女の物語には出会うことになったと思う。本邦では真夏に刊行された、真冬の物語を描いた人が、これを読んでいないはずがないから。
アンネ・フランクよりも旧く、映画『グローリー』の前夜。若草物語の時代の暗部を強く生き抜いたひとりの少女がいた。やさしく働き者で近隣住民の尊敬を集める老女が、家畜や農機具と同じ競売台に載せられる時代。肌の色のために、美しく生まれたことを少女たちが呪わしく生きねばならない時代。
南北戦争、クー・クラックス・クラン、マーティン・ルーサー・キング牧師、時代を呼びあらわす固有名詞のひとつに、彼女の名が連なることを祈る。
擦り切れた表現ながら、事実は小説よりも奇也、と言わずに居れない。絶望のうちにも光はある。きっとそうなのだろう。光あるうち光の中を進めるほど照らしていたかはわからないけれど。
ハリエット、あなたの声を聞けて良かった。師の勧めで生々しい傷痕に向かい記した勇気を、私も持てればと思う。
偶然の出会いから翻訳に至ったという訳者のセレンディピティにも。

ハリエット・アン・ジェイコブズ『ある奴隷少女に起こった出来事』(新潮文庫)