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『敵影』古処誠二 138回直木賞候補作
本書は今年の直木賞候補となったもので、
古処の作品はこれまで山本周五郎賞に2回、
直木賞にこれを含め3回ノミネートされ、いずれも逸賞している。
これまでの選考委員会では津本楊が強行に反対したらしい。
作品は沖縄の捕虜収容所で終戦を迎えた日本兵たちが、
捕虜という囚われでありながら危険の無い小さな自由の中に在って、
米兵という明確な敵を失い、同じ捕虜達に対し仇討ちなど、
新たな敵影を求めるという人間の性を描く。
古処は作品の中で
〈丈夫な者から兵隊に取られ、誠実な者から死んでいく。
生き残った不誠実な者は、将校に罪をなすりつけ、軍に罪をなすりつけ、国に罪をなすりつけ、他人に罪をなすりつける〉
と言い切る。
とても思い切った言葉だが、その通りだと私は思う。
本当に勇敢だった者や誠実だった人はすべて死んでしまったのだ。
決して派手な文章ではなく渋く生真面目だが、
心を揺さぶられ共感を覚える素晴らしい作品だった。
★★★★★
古処誠二は1970年、福岡県の生まれです。
まだ38歳という若さですが、
その文章は静謐(せいひつ)にして簡潔、誠実であり、
良くも悪くも今様ではありません。
津本楊が拒否反応を示したのも
結局彼に戦争の実体験がないという理由のようです。
他の著書を読んでいませんが、
戦争を真摯に見つめる異色の作家のようです。