陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「偶像の下描き」(一)

2010-12-30 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女


***



『アタシ、
雨森やや。
16才。
高校1年生。

シュミ?
カラオケとケータイの占い。

カレシ?
ただいま募集中♥』


ショートカットの女の子が、一頁目から丈の短いスカートを翻させてパンを口に挟みながら走っている。
顔の半分以上を占める異常に大きな瞳には、お決まりの綺羅星がぎらついていた。

安いインクの香りのする漫画誌に、濁ったような溜息を落とし、それをサンドイッチにしてぱたりと本を閉じた。
頁をめくらずとも次の展開は分かっている。ヒロインは角を曲がったところで、男の子にぶつかって。その男の子はじつは同じクラスの転校生で、学園を襲うすったもんだの事件があって、最後はふたりは恋に落ちてハッピーエンド。

──ああ、またつまらないものを描いてしまった……。

こんなどんよりした気分を背負うにはおあつらえ向きなほど、本日の天気はまったくもって暗い。
濁ったたんぱく質のごとき不機嫌な空の下、私は嘆きの輪を広げざるをえなかった。
毎回まいかい意に添わないものを描きたくない!…とごねても締切は、締切だけは鬼のように毎月しっかりとやってくる。

だから、ネタが浮かばなかければ否応無しに編集が苦心の策でひねった──といってもベタベタなシチュエーションばかりだったが──案を原稿にしなきゃいけない。それが苦痛で、締切間近まで自分をおいこんで、お酒を飲んで神経を緩めておかないと絶対にペンが進まないのだった。正気でこんなもの書いていたら、絶対に破り捨ててしまうだろう。だから自分の原稿の載った雑誌は献本されてもうけとらず、本屋で立ち読みにしておく。そうしないと作品をばらばらに砕きたいという衝動がおさえられない。

女子高生の純愛ストーリーなんて吐き気がでそうだった。
私が求めているのはもっと生々しいリアリティ。しかも殺伐とした話だ。だいたい、いまどきこんな純な女子高生なんて天然記念物だった。しかもぶりっ子してるくせに、やることだけはきっちりやるというのが、今のハイティーンの純愛なのだ。



【目次】神無月の巫女二次創作小説「ミス・レイン・レイン」






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