陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「てのひらの秋」(十三)

2009-08-03 | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは
母子の悶着を見かねたのか、それとも営業のじゃまなので早くどいてほしかったのか、カウンターの女性が口を挟んできた。こころなしか、先ほどのどこか人を踏みつけにするような態度のロボットガールと面ざしが似ていた。

「あの…失礼ですが。そちらのお子さまはお客さまのお嬢様ですか?」
「はい、そうです。正確にいえば、この子の法的な後見人なんです。きょうは母親の名代で」

保護者が同伴と聞いて安心したのだろうか、店員は急に表情をやわらげた。

「お嬢ちゃん、お年はいくつ?」
「高町ヴィヴィオ、七歳っ!」

ヴィヴィオはひろげた手のひらに指二本を足して、元気よく示した。こういう年齢の伝え方は、まだまだ子どもらしい愛嬌があってほほえましい。しかし、聞かれてもいないのに、大声で氏名までは名乗らないでほしかった、と思うフェイトだった。しかも、よりによってこの場所で。ヴィヴィオの一声で、店内を流れるBGMが一瞬にして耳から消えた。周囲に散った客の視線を痛いほど背中に浴びた。

店員の質問は、気まずい笑いを浮かべているフェイトに飛んだ。早くここから立ち去りたい。さもなければ、親切心を起こしたヴィヴィオが、かってに自分の紹介までしてくれそうだったから。

「そうでしたか。失礼いたしました。本日は、はじめてお借りになるのですね?」
「はい。ここの会員規約では六歳以上ならば、借りられるとうかがったもので」
「そのとおりです。就学児童の方でしたら、生徒手帳を見せていただきましたら、カードの新規登録をさせていただきます。いかがなさいますか?」
「あとで借りるビデオといっしょに、カードをつくる予定でした。それと、先ほどアトラクションに参加してポイントを頂きましたので」

フェイトの見せる印字されたレシートを一瞥しながら、店員はあいそよく笑った。

「もちろん、それでも構いませんよ。カードの登録とビデオの貸出返却の受付はおなじカウンターです。のちほど、お待ちしております」
「では、あとでお願いします」

後ろで待っている客の咳払いが耳にはいる。ちらりと覗きこんだその持ち籠には、目をとめてはいけないタイトルのビデオがたんまり放り込まれていた。赤面したフェイトがヴィヴィオを促そうとするが、ヴィヴィオはカウンターテーブルの飾りにでもなったように、そこから離れない。店員の服の裾をひっぱって、まだなにか聞き足りない様子。

「ねぇ、ねぇ。お姉さん、ヴィヴィオの質問に答えてくれてないよ」
「あら、ごめんなさい。えっと、お店の入口のことね。あのドアは壊れちゃいないのよ」
「じゃあ、ヴィヴィオが乗ったから、壊れたの?」

ヴィヴィオがちょっと悲しそうな顔をした。店員は優しげにほほえんで、ウインクしてみせる。後ろに並んだ客が隣のカウンターへ誘導されたので、安心したのだろう。しかし、三つあるカウンターの受付係はどれもみな同じ顔だった。

「違うの。あれはね、ある一定以上の体重がかからないと、開かないようになってるの。あなたは七歳だけど、軽かったのね」
「なぁんだ、そっか。よかったぁ~」

疑いが晴れたヴィヴィオが、にぱっと微笑む。数センチ上を歩く飛行魔法は、ヴィヴィオのもつ重力を減らしたはずだ。
フェイトはうすく苦笑いして、幼児仕分けの門の妙にひとり納得していた。そりゃ、そうだよね。ここ噂じゃ、レンタルの三割は大人向けのアレだし…と。

「それに、あまり言いたくはないのですが、五歳以下のお子さまの万引きが、この頃多いものですから」
「そうだったんですか」
「ええ。子どもに罪は問えないですから…、こちらとしてもお子樣の入店を制限させていただくしかなくて」
「たいへんですね…」

声を潜める店員に、フェイトは同情心で頷いた。
おそらく年端もいかない子どもに盗ませている、ひどい親もいたりするのだろう。

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