
マリみて再読レビューシリーズ。
今回は過去にあえてレビューを避けていた時期の巻を選びました。小説『マリア様がみてる─妹オーディション─』、そう、二年の秋になった福沢祐巳と島津由乃がそろそろに姉に…と周囲からせっつかれてしまう立場になっている、あの微妙な時期の。
私、この妹候補が出てくるあたりの話は、なんとなく迷走しているというか、結論を先延ばししすぎている気がして、従来、あまり好きではありませんでした。やたらと短編集が出版されていたのもこのころ。今野緒雪先生も執筆に迷ったのでしょうね。読者からいろいろ予想をたてられて。
いまから読みなおすと、たしかにお話の進みが遅くてもどかしい思いはするものの。
マリみてシリーズは主役級の山百合会幹部だけの話でないし、サブキャラにもそれなりの存在意義があることがわかりますね。今回で言いますと、武嶋蔦子さんと、内藤笙子ちゃんの再会がまさにそれ。「バラエティギフト」に出てきた厭味ったらしい姉の妹分のこの子、まさかこんなに表のエピソードに食い込んでくるとは、誰が思いましたでしょうか。
ところで、この表紙絵。
祐巳と由乃がエプロン姿でお茶菓子の用意をしている、という図なのですが。どうみてもオーディションというタイトルとはふさわしくないですよね。
じつは、オーディションと名づけられながら、途中から祐巳の提案で、妹選びというよりも、ただの薔薇の館を舞台にした先輩後輩の交流会というティーパーティーに変更されたからなんですね。なんというか、軽めのコンパみたいな?
マリみては姉妹(血縁だけでなく、心のつながりとしての)の話なのですが。ダイレクトに姉だの、妹だのを副題にふくめたことはなかったので、タイトルとしてはなかなかインパクトがある巻です。あとがきにもあったけれども、私はその昔「パンチでデート」とかいう男女のお見合い番組の、スイッチ押したら電線で意中の相手が結ばれるという仕掛けを思い出しました。あととんねるずの「ねるとん紅鯨団」だっけ。昭和生まれしか知らない話ですね、うん(苦笑)
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秋の学園祭も運動会も終わったリリアン女学園。
お手伝いの一年生、松平瞳子も細川可南子も遠のいて、福沢祐巳には本格的な妹探しのプレッシャーがかかります。それは、姉の姉の鳥居江利子さまと妹への顔合わせをするという無謀な約束をしてしまった島津由乃も同様。姉の小笠原祥子への反論が一年前の祥子の台詞そのままなのが笑えますね。もちろんすげなく却下なのだけども。
山百合会幹部の妹選びはただの個人間のスールの契りとは異なる。
薔薇の館の住人として、他のメンバーとも協働せねばならないのだから、それなりの働き者でなくてはならない。姉だけではなく、そのうえの姉や、横のつながりも必要。祐巳を慕う一年生は多いので、剣道部では貫禄がない由乃は出遅れまじと焦っています。
由乃の提案で妹を公開募集との話に、祐巳もむりやり噛まされて。
けっきょくはコンテスト形式ではなく、懇親会のようなかたちへの変更にするけれども、そこに新聞部も絡んできて、全校生徒から姉妹候補者を募集をすることになります。
そこで浮上するのが、以前から薔薇さまファミリー入りを狙っているという瞳子へのクラスからの反感。
乃梨子は意地をはって参加しようとしない瞳子を気遣い、本音は祐巳のほうか声をかけてほしいとさえ願ったのでしょう。だから、うっかり涙が出てしまう。祐巳はいまや人気者だから一年生から選びほうだい。なのに瞳子ときたら…と。祥子まで瞳子にお節介を焼きますが、ひねくれ者の瞳子はよけいにこじれてしまいます。乃梨子はいつも頼りになる後輩だし、友達にいたら頼もしいですよね。
黄薔薇姉妹も、それなりのささくれがあります。
姉の令を挟んで、由乃の江利子に対するライバル心。従姉妹であたりまえのように姉妹同然に育ったがゆえに、あらためて新しい関係を築く未知の妹を探すことの難しさ。
祐巳は、あっさりと可南子に妹候補から降りることを宣言されます。
双子の片方が火星に行ってしまったというたとえ話を自分なりに昇華することで。このときの可南子の返し方がなんともいいですね。自分の身勝手な理想像を全否定されたわけではない。祐巳にみた影へのその想いを幻だとけなさずに、こころをそっと撫でてくれたことへのお礼で、可南子は祐巳に固執する自分をふりきることができたわけですね。「マリア様の星」という美しい謂いで、過去にとらわれずに生きるために。過去に愛した人を幻滅させずに、きれいな思い出として飾るために、あるいは特別な関係にはなれないけれども友人になるための、ステップとして。
茶話会がはじまって、祐巳たちが気づいたのは、後輩たちとの認識のずれ。
薔薇の館をかなり神聖視して、かつアイドルのように嬉しがっている一年生たちはお客様気分。けれども、薔薇さまファミリーからすれば、全校生徒代表としてしっかり貢献してくれる人材が欲しい。なんだかこの関係、就職の面接にも似ていますよね。聖と志摩子、志摩子と乃梨子、祐巳と祥子、あるいは祥子と水野蓉子、などなど代々の薔薇姉妹がたどった、一目ぼれのようなスール締結とは異なって。
けっきょく、祐巳やら薔薇さま人気やらでかけつけた一年生たちはすべて脱落。
由乃は約束の剣道の試合に、江利子さまに妹を紹介できないため逃げ回ろうとしますが、そこへあの新人さんが…という、おいしいところで終わります。
シリーズがすでに完結しているうえで申しますが。
この由乃と有馬菜々、そして祐巳と瞳子の関係は、やはりもうすこし長く読みたかったな、というのが私のホンネ。登場人物が多過ぎてしまうと、姉妹関係が複層になってしまうので、新世代の彼女たちは割を食ったのかもしれません。瞳子はこのあたりからキャラが変わって、急に牙を抜かれたように思えますし。学園祭あたりまでの勢いがあったほうが面白かったんじゃないか、と。このあたりは「未来の白地図」か「仮面のアクトレス」あたりを再履修したら、思い出すのかもしれませんが、あのあたりの話、かなり重いんですよね。胸がしめつけられる…。
今回は薔薇組のみにフォーカスせずに、新聞部の新姉妹誕生など、外野の活躍も多かった回でした。
でも、万が一、自分たちが妹をつくれなかった、乃梨子一人に負担がかかることをしっかり懸念している由乃と祐巳もなかなか殊勝なものですよね。なんだか、田舎のお家継承問題での嫁探し、婿探しに似ている気がして、初読時とは違った気分で読んでいました。
可南子とはいい感じの距離感で終わっていたのに、瞳子と直接ぶつからないまま、なんとなくギクシャク。
ちょっとモヤモヤしますね。この時点で「くもりガラスの向こう側」も読んでいるので、紅薔薇の次代妹問題を巡っては、祐巳もけっこう痛手を負うし、わりと長引いてしまうのですよね。祥子と祐巳みたいに、スピード締結したほうが、あんがい楽なんでしょうかね。お互いをじっくり知ってから正式にじゃなくて、とりあえず、先に同棲しちゃいましょうみたいに、はじめてしまうほうがいいのかも。自分のこれまでの人付きあや別れ方をも含めて、いろいろ感じ入るものがあります。これこそが、百合作品だけどもそれだけにとどまらない人生哲学としての、マリみてならではの醍醐味といいましょうか。
祐巳が瞳子をどう救ったのか、いかに仲直りしたのか、気になって仕方がないので。
次回はランダムではなく、時間軸でこのすぐあとあたりの巻を選ぶことにします。レビューの公開は前後するかもしれませんが…。
(2023/05/06)
【レヴュー】小説『マリア様がみてる』の感想一覧
コバルト文庫小説『マリア様がみてる』に関するレヴューです。原作の刊行順に並べています。
(2009/09/27)
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