冬の夕暮れ、冷たく乾いた空気が舞いこんだ玄関で、迎え入れた者の大きさには不釣り合いなほど、ドアの閉じる音はおおきく響いた。
よほど、ノブを握った手の主は急いていたのかもしれない。自動照明のルームライトがぱっと点いて、「ただいまあ~」のかけ声がつづいて聞こえる。かけ声が遅れたのは、本人もドアの音にびっくりしたせいかもしれない。
靴を脱いで、フローリングの床をぱたぱたとはたくような足音がひびく。あの走り方は、きっとあの子だなと勘づく。だって、愛しいもうひとりはね、もっと落ち着いた足取りなんだから。
振り向くと、ふわふわの兎のスリッパを履いたかわいい足が、キッチンの敷居をまたぐところだった。オーブンから出した甘い匂いを放つトレイをテーブルにおいて、わたしは明るく最愛の娘を出迎えた。
「ヴィヴィオ、おかえり」
「ただいま、なのはママー!」
ヴィヴィオは威勢よくあいさつして、白いエプロンをまとった腰回りに飛びついた。九歳になってもヴィヴィオの抱きつき方はあいかわらずだけれど、ちょっと力が強くなっている。うっかりすると、ぐらいついたりする。でも全身で愛情を表現してくれるのも今だけなんだって、フェイトちゃん愛読の育児書にも書いてあったね。年齢が二桁になると、いろいろ難しいお年頃になっちゃうんだって。だから、ヴィヴィオのせいいっぱいの嬉しさは、ちゃんと全身でうけとめる。それが、なのはママの流儀。
「こ・ら!もう、ヴィヴィオ、おてんばがすぎるでしょ?」
「だって、なのはママが、夕方からお家にいてくれるなんて嬉しいんだもん~」
懲らしめのため軽くヴィヴォオの顔をつつこうとしたが、四本の指がひとつになっていたことに気づく。手にはめたミトンを外しながら、叱る気力も萎えてしまって、わたしはちょっぴり苦笑いですました。
きょうは午後に予定されていた航空武装隊訓練の演習がはからずも中止となって、とくに他にすることもなく半休をとって自宅に帰ってきたのだった。驚かそうと思ったのに、意外にはやくヴィヴィオが帰ってきたものだから、ちょっと冷や冷やした。でも、もうすっかりあれは焼けた。娘を迎える準備は九割がた終えていた。そう、あとの一割は、わたしのこころの準備。でも、その一割が肝心だった。
「ヴィヴィオ、ダメだよ。ママとした約束忘れてるでしょ? おうちに帰ったら、まず一番にどうするの?」
「なのはママとフェイトママに『ただいま』のごあいさつ」
あいさつは元気よく。それは高町家の代々の教育方針。
あ、ついでに話を聞かないコにはひっぱたいて耳を傾けさせるっていう会話術も教えとかなきゃね。
でも、ヴィヴィオはまだ基本的なこと、忘れてる。わたしは叱ることを覚えていた。
ヴィヴィオの額を指先でちょんと弾きながら、すこしだけ眉を三角にして諭した。ヴィヴィオはつつかれた額をさすりながら、ふしぎな顔つきでわたしを、まっすぐに見上げている。
「それはもうしてるよね。でもたいせつなこと、できてないよ」
【魔法少女リリカルなのは二次創作小説「冬のタルト」(目次)】
よほど、ノブを握った手の主は急いていたのかもしれない。自動照明のルームライトがぱっと点いて、「ただいまあ~」のかけ声がつづいて聞こえる。かけ声が遅れたのは、本人もドアの音にびっくりしたせいかもしれない。
靴を脱いで、フローリングの床をぱたぱたとはたくような足音がひびく。あの走り方は、きっとあの子だなと勘づく。だって、愛しいもうひとりはね、もっと落ち着いた足取りなんだから。
振り向くと、ふわふわの兎のスリッパを履いたかわいい足が、キッチンの敷居をまたぐところだった。オーブンから出した甘い匂いを放つトレイをテーブルにおいて、わたしは明るく最愛の娘を出迎えた。
「ヴィヴィオ、おかえり」
「ただいま、なのはママー!」
ヴィヴィオは威勢よくあいさつして、白いエプロンをまとった腰回りに飛びついた。九歳になってもヴィヴィオの抱きつき方はあいかわらずだけれど、ちょっと力が強くなっている。うっかりすると、ぐらいついたりする。でも全身で愛情を表現してくれるのも今だけなんだって、フェイトちゃん愛読の育児書にも書いてあったね。年齢が二桁になると、いろいろ難しいお年頃になっちゃうんだって。だから、ヴィヴィオのせいいっぱいの嬉しさは、ちゃんと全身でうけとめる。それが、なのはママの流儀。
「こ・ら!もう、ヴィヴィオ、おてんばがすぎるでしょ?」
「だって、なのはママが、夕方からお家にいてくれるなんて嬉しいんだもん~」
懲らしめのため軽くヴィヴォオの顔をつつこうとしたが、四本の指がひとつになっていたことに気づく。手にはめたミトンを外しながら、叱る気力も萎えてしまって、わたしはちょっぴり苦笑いですました。
きょうは午後に予定されていた航空武装隊訓練の演習がはからずも中止となって、とくに他にすることもなく半休をとって自宅に帰ってきたのだった。驚かそうと思ったのに、意外にはやくヴィヴィオが帰ってきたものだから、ちょっと冷や冷やした。でも、もうすっかりあれは焼けた。娘を迎える準備は九割がた終えていた。そう、あとの一割は、わたしのこころの準備。でも、その一割が肝心だった。
「ヴィヴィオ、ダメだよ。ママとした約束忘れてるでしょ? おうちに帰ったら、まず一番にどうするの?」
「なのはママとフェイトママに『ただいま』のごあいさつ」
あいさつは元気よく。それは高町家の代々の教育方針。
あ、ついでに話を聞かないコにはひっぱたいて耳を傾けさせるっていう会話術も教えとかなきゃね。
でも、ヴィヴィオはまだ基本的なこと、忘れてる。わたしは叱ることを覚えていた。
ヴィヴィオの額を指先でちょんと弾きながら、すこしだけ眉を三角にして諭した。ヴィヴィオはつつかれた額をさすりながら、ふしぎな顔つきでわたしを、まっすぐに見上げている。
「それはもうしてるよね。でもたいせつなこと、できてないよ」
【魔法少女リリカルなのは二次創作小説「冬のタルト」(目次)】