陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

アニメ業界労働者の待遇改善は

2017-06-08 | テレビドラマ・アニメ

6月7日放映のNHK報道番組クローズアップ現代は、アニメ業界の労働環境改善の動きを伝えるものでした。先月の「オイコノミア」という教養番組で、アニメが2兆円規模の売上を出す巨大産業と化しつつあるも、その制作現場を支えるアニメーターの労働環境は最悪なことが軽く触れられたばかり。番組のコメンテーターだった社会学者も芸人も、制作者がわの過重労働と貧困にはあまりつっこんでいないのが気がかりだったのですが、今回の特集はこれに答えてくれるものだったといえるでしょう。ただし、ちょっと、まだ気になる点もありますが。

アニメーターの手書き原画は一枚200円ぐらい。手の早いベテランでも一日20枚がやっとですから、これではコンビニ以下の日給。アニメ業界での正社員は全アニメーターの15パーセント、フリーランスも多くいます。フリーランスと言えば聞こえはいいですが、委託の個人事業主扱いなので、「労働者」扱いされず、労働基準法の適用もありませんし、普通の会社員のように健康保険や厚生年金も加入できません(建設業界や士業などのように、職業団体ごとの健康保険組合などはあるのかもしれませんが)。個人事業主でも労災加入できる場合ありますけども、フリーのアニメーターはどうなのでしょうね。手が腱鞘炎になったら、それは労災適用すべきですし、そもそも過密スケジュールで過労死しそうだったりするのに、不安定な働き方危ないですよね。問題点を長時間労働の改善だけに絞り込んでいる気がします。番組内で賃金アップする話は触れていません。でも、これを言い出すと、どんな業界にもあてはまってしまいますからね。

年収100万円、平均でも330万円ほど(ただし、監督クラスになるとそこそこ高給取りになるという話も)というアニメーターの薄給。制作現場にお金が下りてこないのは、業界構造にあります。版権を握っているのは、出版社、広告代理店、テレビ局などが出資しあった製作委員会。製作委員会から制作会社へ発注され、さらに下請けへ。アニメがヒットして、二次利用で関連商品が売れまくっても、原作者、監督や脚本家にはマージンが入りますが、下請けのアニメーターには恩恵がありません。アニメの制作会社がわの代表者は、テレビ局などが制作会社に対する製作費の取り分を増やすこと、労働環境改善をおこなった良質なアニメの制作会社には税制優遇を行うこと、またアニメ制作者がわも交渉する努力を、と提言しています。

最近は、アニメ制作会社自体が町おこしのイベント企画をしたり、オリジナルアニメでグッズ販売したりするケースも多いですね。アニメ制作会社自体が、出版社などに比肩するといえば、近々テーマパーク建設案がもちあがったスタジオ・ジブリでしょうけど。アニメ制作会社それ自体が、マスコミを超えるメディア産業になるというのは、いま、インターネットの動画サイト(でも、ドワンゴってKADOKAWAと提携したんでしたっけ…)もありますからおかしくはないけれど、そうなると、出資を募った大々的な株式会社にならざるをえない。アニメ好きの皆さん、アニメの制作会社の株券や社債買いますか? 株の配当金や社債の利子で恩恵を受けたいなら、アニメーター自身が株主にならねばなりません。あるいは、製作委員会を形成しているメディア企業の大株主自体が出版社やテレビ局などに圧力をかけるか。麻生さんみたいな政治家にお願いして、制作者保護のための法律をつくってもらうとか?

労働環境改善については、分業制のスケジュール管理を取り入れた制作会社もあれば、CGで手書き作業を大幅になくしてコストダウンした例も。ただし、設備投資が必要なので、やはり最初に利益ありき。人間の手と遜色ないくらいの見栄えある動きが表現できるのですが、さて、そこで人の個性はどうなるのか? 技術の継承は? という疑問符が浮かびます。
CG技術が進んだら、仕事が楽になるのではなく、誰でも描けてしまえるので、確実に人間のする仕事が減ってしまうのでは。どのアニメもこぎれいだけど、どっかで見たような滑らかな動きとか、もったりした顔とか、区別のつかない体形だとか、そんなものになってしまうのでは。そんな疑惑がありますね。機械化していずれコスト下げるんだから、人材育成する気がなくなっているともいえますし。そもそも、人件費の安い海外に外注していますし。

「攻殻機動隊」の生みの親であるProduction.I.G.の社長が語った、制作本数を少なくして、良質なものだけ絞り込んでクオリティを上げる、というのがいちばん納得できる答えでした。失礼ですけれど、出版社が自社の漫画とかライトノベルの宣伝CM代わりに見境なくアニメ化させているんじゃないか、と思うふしもありますし。でも、そうなったら、売れそうにもない、マイナー作品なんて絶対世に出ないのでしょうけれど。



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