陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

漫画『フラッシュ!奇面組』

2017-06-02 | 読書論・出版・本と雑誌の感想
昭和の日に書こうかなと思っていたレビューだったのですが、ふと、あのタイガー・ウッズ選手の逮捕を聞いて思い出したのがこの漫画。若かりし頃の、あの全盛期のタイガー・ウッズを知っている人ならばこそ思い出すあの爽快な顔と、この漫画に何の関係が?

『フラッシュ!奇面組』は、新沢基栄の大人気ジャンプ漫画『ハイスクール!奇面組』を、平成時代にリメイクしたもの。実はこの二巻に、タイガー・ウッズを模したキャラクターが登場するのですね。私が買ったのでなくて、家族が残したものだったのですが、なぜかこの二巻だけがあったので思い出したところ。

奇面組とは、外見に特徴があって、行動があまりに突飛で、言葉が的外れ、それなのにクラスのヒロイン的な可愛いヒロインには興味を持たれて友だちになってしまうという、かなりおいしい男子高校生の五人組。彼ら以外にも、曲者揃いのクラスメイトや教師まで個性豊か、ハチャメチャ高校生活をおもしろおかしく描いた青春コメディ。

彼らの合言葉は「変態」です。倒錯的な性癖を持つ人というのではなくて、リーダー・一堂零はじめとした奇面組のメンバーは意外や意外、紳士的。でも、留年3年もしてるようなのですが深刻さもない。教師や校長や、威張りくさっている先輩や部活のエリートたちを煙に巻く、いつもの展開に笑います。予測不可能な場所から登場するとか、福笑いの崩れた表情だとか、人間離れした運動とか、とにかく意表を衝く。

基本は一話完結なのですが、部活挑戦シリーズみたいに特殊なクラブ活動に参加してひやかしに勝負をするというパターン。で、この『フラッシュ!』の二巻に登場したのがゴルフ部で、当時スターだったタイガー・ウッズ選手を真似た、大河渦率いる五人組に挑むというエピソードがあるのです。ギャグマンガなのですが、かなりデッサン力のある描画とゴルフの専門知識をおさえた内容になっていて、なかなか読み応えあり。

この漫画、実在人物をパロディ化して登場させることが多く、苗字の付け方もすごいセンスがあるんですよね。熱苦しい教師の「事大作吾」とか、同級生の「真実一郎」とか「織田摩利」とか。担任の若人蘭(わかと・らん)がお嬢さまで世間離れしている設定がなんとなく、『マリア様がみてる』の祥子さまを思わせます。天野邪子さんとか、似蛭田妖とか、不良キャラも人気ありそう。いま、こんな不良は田舎でもいないでしょう。昭和の遺産ですね。

この奇面組の五人、今の漫画ではなかなかお目に掛かれないほどの、インパクトの持ち主なのですが、おもちゃ屋、酒屋、ケーキ屋、風呂屋、本屋という、個人商店主の子どもなんですね。今は廃れた商店街には必ずあったような商売。ギャグはいまでも通用する面白さだとは思うけど、かなり昭和くささが漂う雰囲気ですね。生活感溢れております。

この『奇面組』、TVアニメ化もされ、今でいうところのAKB48に近い大人数アイドルグループの走りだった、おニャン子クラブのメンバー「うしろゆびさされ組」「うしろがみひかれ隊」が主題歌を歌ったため、かなり人気を博した作品。秋元康作曲の挿入歌なども作中に用いられ、当時の視聴率は20パーセント前後あったとか。

零くんと唯ちゃん、豪くんと千絵ちゃんのペアがなんともツンデレというかほほ笑ましかったですよね。あと妹キャラの霧ちゃんが可愛い。

旧作の『ハイスクール!』は作者の腰の持病が悪化したかでコミックス20巻で完結となりました。ちょうど、昭和の最終年ですね。それから、『フラッシュ!』が登場したのが、2001年。もとは週刊少年ジャンプだったのですが、リメイク版はガンガンコミックスから。この二巻のカバーを見ると、当時、週刊少年ガンガン誌で人気をかこっていた、荒川弘先生の『鋼の錬金術師』や、柴田亜美先生の『南国少年パプワ』の続編だとか、「神無月の巫女」の原作者の介錯先生の出世作『円盤皇女ワるきゅーレ』と同時代!! うわ、すごい、懐かしい!
『フラッシュ!』は三巻まで刊行されたものの未完結とのことらしいです。

『ハイスクール!奇面組』の最終回では、すごく余韻の残るエピソードなのですが、ヒロインの語る最後のモノローグを読むときに、いつも泣いてしまいます。ただし、このラスト、かなり物議を醸したらしいですが、何でだろう。作者の表明したいことがとても詰まったすばらしいラストシーンですよね、ほんとうに。

「人に合わせて器用に生きる人たちがいる────」
「自分をいつわらず無器用に生きる人たちがいる────」
「どちらが幸せなのか 今のわたしにはわからない────」
「だけど…」
「できるものなら たった一度でいいから自分を輝かせてみたいと思う────」

作者の新沢氏はあとがきにおいて、他人と違って普通じゃない、いつも笑われている、ひとりぼっちの連中たちを世界の隅っこにやらず、堂々と前に出してやろう、そんな思いからこの漫画を手掛けたのだと語っています。なんていいますか、今だと、発達障害とかなんとか、そういう言葉でかしこまって片付けられがちなのですが、世のなかで肩身の狭い思いをして生きていけないはみだし者に対する、原作者の切なさと優しさとが感じ取れますね。学校とかでいじめられている子が読んだら、勇気をもらえたはずに違いない。これを言わせるためにこそ、河川唯というヒロインが存在したといっても過言ではない。

この最終回と作者のこの言葉に、何度励まされたことか。
原則ナンセンスギャグで笑えるのに、たまに一塩落としたみたいにほろりとくる話もあったり。名作少年漫画といえば、「キャプテン翼」とか「ドラゴンボール」とかそのあたりが語られるんですが、なんといっても、これを忘れてはいけない。今だったら、『怪物くん』とか『忍者ハットリくん』みたいに実写ドラマもできそうですよね。と思っていたら、なんと原作者の監修のもと、舞台化されていて、今年の6月1日から公演されているようです。



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