「フェイトちゃん、もしかしたら、この人は本物?」
「本物って、どれの?」
宅配業者なのか。臨時の教導官なのか、はたまた正真正銘の極悪強盗犯なのか。
腕組みして、うーん、唸っているなのはとフェイト。その隙をついて、芋虫状態で床に額づいていたはずの男はたちあがっていた。
「君たち、油断したね。このお嬢さんがどうなってもいいのかい」
ふたりが考え迷っているわずか数秒は、男の腕を自由にし、さらにギンガを人質にとる余裕まで与えてしまったようだった。ギンガを後ろから捕まえている男は、隠し持っていたカッターナイフの刃を、彼女の白い首筋に突きつけていた。
なのはとフェイトは、それでも動じない。フェイトのバインドを解いたのだから、魔道師の端くれといえるだろう。だとしたら、今晩やってくるべき教導官さまなのか。
「やっぱ、ホンモノかなぁ」
「それっぽいね」
十九歳のふたりがひそひそ話。そこに緊張感はからきし欠けている。
「こ、こら! そこの二人っ! こっちは人質をとってるんだぞ。もっと、それらしく慌てないか?!」
「でもさー。どうも脅し文句が素人はだしなんだよね」
「じゃ、ニセモノかな」
ニセモノといっても、何に対してのニセモノなのか。曖昧な問いを投げるなのはに、フェイトも適当に口を合わせているだけだ。先ほどは送り役を買って出ながらフェイトが平然と構えているのは、ギンガがまったく焦った表情を浮かべていないせいだった。軽めのバインドだったから、魔道師ランクB程度ならば、外せるだろう。それなら、ギンガでも相手できると見積もっているのだ。
「この女がどうなってもいいのか?! 本気で刺すぞ」
とたん男が声を荒げた。怒気のこもった「刺す」という言葉に振り向いたとき、男の握る刃先はギンガの頚動脈のあたりをうつろっていた。手首ががたがた震えている。
「刃先に本気は伝わってないわ。こんな刀の使い方は教わっていないもの」
ギンガがそのナイフを掴むと、男はぎょっとして握力を失ってしまった。
【目次】魔法少女リリカルなのは二次創作小説「高町家のアフターレッスン」