陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「大神さん家(ち)のホワイト推薦」(六)

2009-05-25 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女
ふっと小鳥の羽を吹き飛ばすような、やわらかい熱のこもった吐息が耳にかかるので、カズキはぞくりとする。



「ねぇ、先生はそんなこと言って…いいのかな?」
「なんのことだい?」
「だって、うふふふ、くすっ。かしこまっちゃって…」
「君はいったい何を言いたいのかね?」
「あれれ? やだやだ、先生まだ、とぼけてらっしゃるんですか?」

ユキヒトは、顔を離して、真っ正面からカズキの表情を覗きこんでいた。いつもは冷静な男の顔が青ざめていくさまを、思う存分堪能して。さもおかしげにくつくつと笑っている。
カズキは不審な顔でその笑いに構えている。この男はいったい何を知っているというのだ。

「はっきり、言いたまえ。私に疾しいところなど毛頭ない」
「では、バラしますね。いいんですね?」
「だから、なんだね?」

相方の念押しにいらいらを顔に描きながら、カズキは迫った。ユキヒトはその威圧にも臆することなく、逆にこちらから顔を近づけていく。カメラはそのふたりの緊迫感溢れるシーンをつぶさに捉えている。



「資料庫に…」
「……ハッ!」
「こっそりフィギュアを隠してるでしょう?」
「なッ?!どうしてそれを知っている?!」

わざといたぶりつけるように、ひと呼吸おいてからの、暴露大会。大きくのけ反ったカズキ。その空いた距離を埋めようと、ユキヒトがにじり寄った。

「ええ、知ってますとも。大神先生のことならなんでもね、ウフフ」
「私のいない隙に漁ったのか?」
「資料庫の鍵を僕にあずけてくださったのは、他ならぬ先生じゃないですか。あの本棚の奥にあった、美少女フィギュアの一団はなんだったのかな~」
「な、な、な…! 何を言ってるんだね?あれは、現代の土偶や埴輪さ。たぶん、祈りをこめてつくった最先端の造形美だよ!あの形はね、なにかとても神々しいものを象徴しているんだ」

大神カズキは、両手のひらで空にかたちを描きでもするように、いつになくオーバーなアクションをした。すっかりまごついていて、阿修羅像のような意味不明な手の動きだった。さもほんとうらしく証言するつもりが、声がうわずり、言葉のおしまいは裏返っていた。

「そうですかぁ~?どうみても、あれはごくごくフツーのフィギュアですよ。大きなお兄さん御用達の」
「違う!そんなの、私のフィギュアじゃない!フィギュアじゃない!フィギュアじゃないッ!私のものは特別なものだ。ブローカーにそう言われて購入したんだから」
「そりゃ、業者に騙されてるんですよ」
「ぬぬ…ぅ」

カズキは唸り声をあげる。図星だったのか。



【目次】神無月の巫女二次創作小説「大神さん家のホワイト推薦」




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