陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「最高の晩餐」 (五)

2007-08-22 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女
「それにしても、上手くできてるわ。とても美味しい」

二度目の賞賛を洩らした千歌音の唇は、ふた口目を催促して、咽喉を品良く鳴らした。

「やっぱり?私もちょっぴりそう思っていたの。先生にちゃんとレシピ教わったのが良かったんだね」
「先生って乙羽さん?」
「ううん、今回のは違うの。ほら、憶えてるかな?間桐桜ちゃん」

それは最近、冬木市の穂群原学園弓道部と交流試合をした際に、知遇を得ていた少女の名だ。

間桐桜。
穏便で控えめな性格。
姫子と同じ薄く紅色づいた温か味のある肌をしていてる。
長いストレートの髪をかき上げる癖があって、形の良い片耳が見える。
耳に甘い余韻を残す姫子の声と質は似ているけれど、少しだけ低い。
そしていちばん違うのは、その甘い顔立ちにときおり浮かんでいる、花曇りの空のような憂いを帯びた表情だった。
どこかしら瘴気を身に抱えたような、得体の知れないところがあって、千歌音は初対面であまり好きになれなかった。

平坦な道でさえも転んでしまう特技(?)のある姫子と違って、弓道を嗜んでいるせいか、身体の重心が安定している。弓構えが良く矢筋もきれいだった。
副部長の兄の代理で、急遽一年生ながら副将を務めたらしいが、将来有望な新人だろう。
乙橘学園弓道部の十年と続く全国制覇の栄光も、姫宮千歌音の在籍する今後二年間は揺るがないと目されている。けれど、あの少女は意外な対抗馬となりそうだ。

半月ほど前。
千歌音の射る姿をカメラに収めたくて、姫子もその試射会にいた。

「姫宮さん」

試合終了後、射場にひとり残っていた制服姿の千歌音が帰り支度をととのえていると、聞き慣れた声がうしろから届けられた。
千歌音は思わず、待ち人の声と聞き間違えて喜び勇んで振り向いた。他人行儀な呼び方をするのは乙橘ではいつもそうで、「宮様」と言わないのは他校の学生がいる場だからだろうと思っていた。しかし出迎えたのは、望んだそのひとではなくて。さきほどで見覚えのあった袴着姿の少女の作り笑いめいた笑顔だった。

「貴女は…たしか穂群原学園の、間桐さんね。なにか御用?」

満面に湛えた笑顔が徐々に薄らいで冷たい面持ちへと移ってゆく千歌音の顔を、探るような目つきで眺めながら、その少女は姫子にかなり近い声でしかし姫子からはあまりに遠いことを、思いがけず口にした。

「姫宮さん、私と賭けをしてみませんか」
「賭け?私は貴女と争うものなど、ないわ。今日、貴女がたが我が部に負けたことが今さら口惜しいのかしら。でも、せめてリベンジは公式戦にしてくださらない?」
「大事なひとを待たせているからですか?」

千歌音は瞳を鋭くして、射るかのごとく桜をみつめた。物怖じしない少女は穏やかな微笑みをわずかにも崩さない。彼女が只者ではないと、自分の勘が告げている。



【目次】神無月の巫女二次創作小説「最高の晩餐」







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2 Comments

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  (SS)
2007-09-26 09:20:30
お久しぶりです

…以前の件でかなり悩んだのですが…どうしても
此処の文(二次創作、何かの感想)を読みたくて、
通わせて頂いております
今後、色々と自重します 本当に

神無月二次創作、読ませて頂きました
こういう創作にはかなり作者の色、解釈が出る感が
あって、貴方の姫千歌観を垣間見ることが出来、
何か嬉しく思いました

姫子が一番の千歌音ちゃん、普通の文章だったら、キャラだったらくどいだけの言い回しが、此の上無くマッチしていました…!
此処まで千歌音ちゃんなら見ている…そしてこう感じているだろう…というのが、上手く表現されていると思います  
文章が堅い…と言っておられ、それも何となく感じましたが、それも妙に神無月アニメの空気に近いものを感じました

キャラを描くための創作としては、十二分にいいものだと思いました!

+αで「彼女」が絡むとは驚きましたが、どうなるかが楽しみです

では… 私が此処にいて、いいのでしたら…
次も楽しみにしています!  それでは…







追記
不覚にも、姫子が乙羽さんの注意が無ければ砂糖をお粥に砂糖をいれようとしていた回想では吹きそうになりましたw
彼女ならやる(断言) というか千歌音ちゃんなら絶対美味しそうに食べてしまう…!
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Unknown (万葉樹)
2007-09-26 22:02:54
お久しぶりですね。
以前の件は私も書きすぎたかなとは思いましたが、後悔はしていません。
読むのを続けるのも、やめるのも読者様の自由です。
また同じように書き続けるのも、やめるのも書き手の自由です。
そして何を書くかも、いただいたコメントをどう扱うかも管理人の自由です。
過剰な熱意は敵意になりやすいし、異常な好意は悪意ともうけとられかねない。顔の表情がみえない、ネット上の文面だととくに、ありもしない感情をよみこんでしまいがちなので。

ひとにはそれぞれの表現特性というものがあって、それをわきまえたうえで読んでくださっていると思います。
たとえば百合系の感想ブログに、アンチ百合な書き込みするひとっておかしいですよね。うちもそうですが、お得意先様にもときおり、ヘンなコメントがついていて胸をいためています。
他人が趣味で無償でやっているサイトを、暇つぶしとうさ晴らしの対象にしないでほしいです。

私の書く姫子と千歌音にあまり同意しているひとは、そんなに多くはないと思います。
オリジナルからかけ離れているんじゃないかと常々感じてますし。
お言葉は非常にありがたいです。
ただ、二次創作にしろ感想にしろ、自分が何箇月もかけて構想をあたためてきたものが、ほんとうに言いたかった部分がちゃんと伝わっていなかったりするのは哀しいですね。

できたらSSに関するコメントは、なるべくなら全部読み終えてからのほうがいいでしょうね。
最後にがっかり、かもしれないですし、書く側も妙にプレッシャーになるような励ましもらうと続けづらいですから。

コラボレーションものとあえて断り書きしなかったのは、書くと先の展開を読まれるだろうと思ったからです。
それぐらいで見破られちゃう単純な話のつくりなんですけどね(苦笑)

塩と間違えてではなくて、お菓子をつくるような感覚でもって、本気で甘いお粥があるって思っているような気がします、来栖川姫子って子は…(笑)

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