陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「レイジング・ブル」

2017-09-28 | 映画──SF・アクション・戦争
1980年のアメリカ映画「レイジング・ブル」(原題 : Raging Bull)は、ボクサーの波乱万丈な三〇年を追った物語。ボクサーと言えば先行作の「ロッキー」が有名ですが、本作は無名の素人が王座に輝くという感動のスポーツドラマではないことは確か。どちらかといえば、問題児のボクサーを巡る愛憎劇と破天荒な人生鐔といった感じです。

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1940年代のアメリカ。
”レイジング・ブル(怒れる牡牛)”の異名を持つボクサー、ジェイコブ・ラモッタは、宿敵シュガー・レイ・ロビンソンを相手に惜敗辛勝を繰り返す。
気の荒い兄を常に支えたのは弟のジョーイ。しかし、勝っても負けても自己節制がきかないジェイコブは、減量に苦戦し苛々をつのらせては妻のベッキーに当たり散らす。

ジェイコブはけっして爽やかなスポーツマンシップの持ち主ではない。
後ろ盾となる街の元締めから八百長試合を依頼され、中途半端に負けてしまったために評判を落としてしまいます。それがきっかけとなってかんしゃくが爆発。娼婦あがりで兼ねてから男に色目を使う妻の浮気を疑い、弟までも信用しなくなります。
1949年に念願のミドル級チャンピオンになったものの、シュガーとの六度目の再戦で惨敗。引退してからは場末のバーを経営してコメディアンとして活躍するも、けっして安泰した生活は望めませんでした。

時は移り、1960年代。かつての逞しいボクサーの面影はなく、でっぷり肥えた中年男がしがない劇場で俳優まがいをしている。周囲からみれば惨めな後年なのに、本人は未だもってスター気分。
あまり胸のすく映画ではないですね。拳の強い者が、女に暴力をふるうあたりがなんとも解せません。

アカデミー賞主演男優賞を受賞したほど、驚異の大幅な減量と増量とで役づくりに挑んだロバート・デ・ニーロの意欲は買いたいのですが、てんで駄目男の人生を見させられてうんざり。
評価できるのは、迫力のある拳闘シーンだけです。時代に逆行してモノクロ映像にしているけれど、芸術性はまったくなし。昔、とくに1930、40年代の黄金期の映画が白黒でも賞賛されたのは、心情をそそるような音楽としゃれた台詞回し、そして美しいと思える男女の造形があったからに他ならないのですが、形式的に懐古趣味に走っているだけでつまらないとしかいいようがないですね。
どうしてこれが、名画扱いされているのか、不思議でなりません。

最後にジェイクが演じているのが、若き日のマーロン・ブランドがボクサー上がりの港湾労働者に扮した名画「波止場」というのが、なんとも皮肉です。正義のために孤独で組織に立ち向かったヒーローを、暴力と嫉妬のために醜く老いさらばえた男が演じるなんて。

助演はキャシー・モリアーティとジョー・ペシ。
監督は「ギャング・オブ・ニューヨーク」のマーティン・スコセッシ。
原作は実在のプロボクサー、ジェイク・ラモッタの自伝。


(2010年3月31日)

レイジング・ブル(1980) - goo 映画

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