陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「夜の蚕(ひめこ)」(二十二)

2009-10-06 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女

嫉妬は、そのひとを愛しているからこその証拠。
自分の感情にしがみついているからこそ、生まれるのだ。千歌音の頬にさらりと伝うものがある。悔しい。誰に負けたとかではなく、屈したわけでもない。だのに、くち惜しい。神の怒りを鎮めたはずの自分が、あいもかわらず自分の感情の膿を持て余しているのが。こころの爛れはいつ治るのだろう。

隣に腰をおろした姫子が、舌で涙を拭いとってくれる。
それから、いつものように甘えた感じで抱きついてきて。這子になったのか、されているのか。他人の目があるときは姉ぶっているのに、千歌音だけの前ではまったく顔向きが違うのだ、姫子というひとは。千歌音が大人びてきたがために、今では姫子の方が幼げに見えることがある。

正面に回りこんだ姫子は、千歌音に背中を預けてきた。
いつもならば、姫子の方が背後から覆うように抱きしめてくれるので、珍しい。リボンを外した姫子の髪が頬をくすぐる。しばらく、千歌音が姫子を後ろから腰を抱くように座っていたが…。

「あっ…なにを…」

ふいに指先がふわりと持ち上がったかと思えば、そこへ柔らかな感触が走る。姫子が千歌音の右手をくわえ、指を一本ずつ舐めている。見せつけるように、わざとじらすようにしゃぶっている。甘い味の残る口で、それが気持ちよくないはずがない。しかも濡れた美しいその指先を、姫子は自分の胸とためらいもなく導いて──。甘い疼きのする、おのが乳首をいじらせはじめたではないか。

「や、…やめて、姫子。こんなこと、いけない」
「だめ。いつもはわたしがしてあげているから。今度は千歌音の番ね」

姫子にからだを慈しまれたり、優しく撫でられたりするあの気持ちよさは、この肌が覚えている。けれど、自分から姫子へ熱っぽく触れたことはなかった。からだを焦らすように撫でさせながら、姫子は石のように冷静なままだ。かすかに微笑みたたえたままで、千歌音のいい様にさせている。甘いため息がもれそうなのはこちらだった。豊かな胸を押しつぶすように姫子の背中を預かっている。尖った胸の先が姫子の背中にあたって、こすれて、千歌音はなおさら恥ずかしい。なのに、姫子はいっかな、それをやめてくれない。千歌音の耳もとへ口を寄せて、もっともっとと甘い声でおねだりして、悦楽の園へ底なしに誘いこんでくる。おかしくなりそうだった。

千歌音の手は、さらに姫子の太ももをさすり、内側を撫で、そして指先はさらにその奥へ、深みへと沈んでいく。姫子の禁断に触れたとき、千歌音は思わず手をひっこめようとした。しかし、姫子は離してはくれない。恥ずかしい声が出そうだった。いやだ、はしたない。千歌音はもうたまらなくなって、後ろから姫子の肩を甘く噛んでみた。姫子はそれでもやめさせてはくれない。むしろ、千歌音の恍惚と興がってうけとったふしがある。

「お願い…。私、こんなこと望んでなんか…。姫子を穢したくはない」
「わたしたち、巫女だから、お互いにこういうことはしていいのよ。遠慮しないで。月の大御神さまもそれをお歓びになっているの。わたしが教えたとおりにやればいいの。ほら…」
「ああ、…ぃや、…は」

千歌音の抗議はもはや言葉の連なりにならない。主体的に攻めているのは自分のはずなのに、どうも、まさぐられて感じているのが自分のほうだった。まるで、姫子のからだをそっくり借りたかのようだった。魂がくっつきあうというのが正しい。息遣いが荒く、顔は艶をおびて、ますます愛おしく切なくなる。お腹の下にある熱く疼いた芯が、姫子の真ん中を貫きたい衝動に駆られる。大切にしたい。壊したくはない。けれど、乱してみたい、心ゆくまで。崩してよがらせて、一途に情の深い女の脆さを見つけて、それをどこにも行かないように刻んでおきたい。こんな獣じみた感情に溺れるなんて、自分は一体どうにかしている。でも、もうどうにもならない。



【神無月の巫女二次創作小説「夜顔」シリーズ (目次)】




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