
あるゴシップ系ニュースサイトをうっかり覗いていたら。
とある女性が夫の低学歴や薄給を嘆き、自分の価値が下がるとした新聞への投書が載せられていた。ちなみにこの女性は40代公務員。周囲がタワマンや注文住宅なのに、自宅は安い建売住宅でみじめだと書いてある。家の大きさだとか、車のランクだとか、ブランドバッグだとか、そういったわかりやすいモノで見栄を張るのは、昭和の価値観で若者受けしないと思うのだが。
いざとなれば離婚すればいいという前提で結婚したとあるので。
おそらくは後継ぎ娘で子どもが欲しくてしかたなく結婚したか、外見目当てで年下と恋愛したか。いずれにせよ、うだつのあがらない配偶者をもつ自分は不幸と嘆きながらも、離婚すれば生活力が下がるのでしたくないという。意味がわからない。
このひとはウェブ上にある虚飾にまみれたエリートの生活をちまちまつづったSNSを見過ぎて、ノイローゼになったのだろうか。昔は、生活格差があったとしても、一億総中流といわれるだけあって、他人を露骨に妬みはしなかったし、貧乏を理由に極端ないじめもなかった。すくなくとも、私の子ども時代は。
男女問わずだが、自分の人脈にハイクラスがいると、自分まで偉くなったと勘違いする御仁は多いものだ。女性は特に無職でも、正社員の男性と結婚すれば人生リセットできると安易に考えるふしがあるが、専業主婦を強いる男性にもモラハラ夫がいたり、浮気性やマザコンがいたりと、いろいろで。男性も40過ぎてどこかの社長令嬢か資産家の婿養子でもなってというヒモタイプは、たいがい子どもができたとたんに追い出されたり、肩身の狭い扱いを受けるものだ。
こうした人脈依存は配偶者のみならず、ひどくなれば、職場の同僚、お友だち、さらには子どもの付き合いにまで及ぶ。
子どもをエリート家庭とつなげたいために、必死にお受験させる教育虐待親のせいで、勉強嫌いの子供が増える。その子はゆがんだ職業意識を植えつけられて育つので、親のお眼鏡にかなう医師だの学者だの大企業リーマンだのになれなかった場合、うさんくさい芸人やらウェブ上のなんちゃちゃってクリエイター名乗りだとかに身を落とす。これはまだいいほうで、下手したら犯罪に加担することもあり、秋葉原の大量殺人事件などがいい例だろう。
人脈で自分の価値を計りたがる要因のひとつは、大学進学率の高さにある。
10代のうちに大学教授なんぞと肩を並べて座るような日常を送ったばかりに、どうにも鼻持ちならない人物になってしまうことはありがちなのだ。社会人として基礎能力を身につけないまま、自尊心の高さだけで生きてしまう。あるいは、就職や受験で挫折したことがなく、すんなりと希望通りの人生を歩んでいるタイプにも多い。
似たような職種、気質のひととしか交らないから、世の中には自分とは相いれない、正反対のタイプがいることに気づかない。
私の身内にも、我が子の友だちが政治家の息子だとか、医師の跡継ぎだとか社長令嬢だとか、わざわざそれを丁寧に伝えてくれるひとがいるのだが。さて、かんじんのご本人子どもの成績はいといえば、正直ふるわない。子どもの頃の人脈などは全く人生上何らの意味を持たず、学生時代の人間関係が活きてくるのは早くても、一定の学力者が集められていく高校生以上だということに気づいていない。
こんなふうに上から目線で書きはしたが。
そうはいいつつ、私も「話がわかりそうな」初対面者には、親族の職業や企業名を明かしたりして、周囲の価値を利用しているのだ。私自身も国立大学卒や、県下有数の高校卒や、行政書士ふくめた士業資格ホルダーであることなど吹聴され、利用されているのだろう。
社会性を重んじる人間は自分以外にない属性を利用したがる。
学歴や職場歴、職種、年齢、資産、思想。大概似たような価値観で群れたがる。公務員にはお役人根性のネットワークがあり、とにかく市井のひとへの差別心がすこぶるひどい。だが、こうした選民意識はいつまで続くのだろうか。社会が求める頭の良さは年々変遷しているし、職業も絶対の自分の持ち物ではない。資産もインフレや大災害などで目減りするだろう。
大切なことは、自分自身にコンプレックスがあったとしても、すぐれた人とつながることで、自分がひとかどの人物になったかのように思わないことだ。
この投書の女性に言いたいことは。
学歴や収入のみならずに、その男に惚れた理由をもういちど思い当ってみることだ。そうすれば、他人が豪勢な生活をしていることへの羨望などは消えてしまうことだろう。あんがい豊かな暮らしを見せつけている人ほど、夫婦仲がギスギスしていて孤独で傷つけあっているものなのだ。お金持ちの生活をするよりも、少ないながらも家庭円満で過ごす方がどれだけ幸せであるかに気づいた方がいい。そして、家族の稼ぎが少ないと嘆くまえに、まず自分から収入を増やす努力をするべきであろう。あんがい、夫の属性を非難しているが、根っこにあるのは、夫婦間のコミュケーション不全なのである。
こういう手合いは、配偶者の悪口をこぼしながら、まかり間違うとエリートの同性に寄生しようとするので、自立した女性(あるいは男性)からみてもけっして気分のいい存在ではないはずだ。40代にもなって身近にいる人の階級で自分を高めようとするのは、親の職業や学歴、資産を自慢するのと同じで、すこぶる幼稚なのだということに気づいた方がいい。
(2023/08/19)