陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

とある美術館の採用試験

2009-02-13 | 芸術・文化・科学・歴史


就職活動のエピソード…あまり、いい思い出ありません。といいますのも、新卒で就職できなかったからです。時代のせいにするのはずるいかもしれませんが、当時は氷河期。国立なのに、大手のアミューズメント企業の求人まできていて唖然としました。大学も就職活動に熱心ではありませんでしたし、周囲の人もまじめにサラリーマンになろうという気概のある方はいませんでした。私の時代よりすこし前から、リクナビでエントリーできるようになって、格段に就職活動がラクになりました。それ以前の先輩方は何十件も送り状、お礼状を書いていたと聞き、びっくりしております。

それでも、いちおう三十件は説明会に行き、試験も受けました。当時、私はなんとなくPCをつかった仕事がしたい、というあいまいな理由でSE志望でしたが、数列などをあつかう試験問題はからきしだめ。説明会に出かけたら、ビルの一室がオフィスで、実質社員を派遣する企業だったというのもありました。それでも、ある中堅電器メーカーの最終試験にまで残りました。役員の方がたを前にしてうまく質問をかわしたと思ったのもつかのま、たったひとつの質問につまづいてしまいました。それは、「貴女はお酒に強いほうですか?」私は言葉を濁して言いつくろいましたが、かなり顔に出ていたと思われます。けっきょく、いい返事はもらえませんでした。

そのあとは、また研究のほうが楽しくなってその年の夏でぱったり就職活動はやめてしまったのです。中途半端に会社にはいって後悔するよりは、今できることをしようと。研究に力をいれたぶん、自分でも悔いのないくらいいい論文が執筆できたのですが。論文を書く能力と社会で求められる能力は、まったく別ものでした。

…と、ちょっと情けない体験談で、参考にもなにもならないので、付け足しを。
まだ大学に在籍中、院に進学してまもない時期のことですが、ある国立近代美術館の採用試験を受けたことがあります。研究実績がまだ紀要に掲載されたばかりの論文一本のみという状態でしたが、ものは試しということで。国立の美術館ですから、公募はしますけれど、試験を受けるためにあらかじめ書類選考がありました。大学教授の推薦書をもらってやっと受験させてもらうために上京。ふつうの地方自治体の博物館試験なら百人超の受験者がいるようですが、ここの受験者は三〇人ほど。試験を受けさせてもらえただけでもありがたかったのかもしれません。しかし、受験者の皆さんはなかなかの猛者、博士後期課程やポスドクで、海外に留学経験あり、なんていう話をうかがっていますと、自分はなんて場違いな場所にいるのだろうかと、恥ずかしくなりました。
ふつうの都道府県の美術館でしたら公務員あつかいですので、一般教養の試験(むしろこの勉強のほうがたいへん)があるのですが、この美術館は専門試験のみ。英語の要約と、お題をあたえられての記述問題でした。こういう試験の英語問題は、たいがい最近邦訳が出た美術史・美学の著作が多いですね。あとで分かったのですが、たしかそのときの問題は、著名な海外の美術史研究者があらわした美術史入門の本でした。
たぶん、この本です。

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けっきょく、その採用試験は落ちてしまいましたが、受験後にうれしいおみやげが。試験管の方から、企画展の割引チケットをいただきました。が、しかし!開催が一週間後で、それまで東京に滞在できるわけがありません。けっきょく、研究でお世話になった恵比寿にあるある企業ギャラリーのキュレイターの方に譲ることに。

東京へは先述したように、修了年の民間企業回りでも通いました。でも、企業説明会よりもそのあとの美術館巡りを楽しみにしてしまったふしがあります。
その後、名古屋の文化財団に応募したりと、いろいろトライしてみましたがだめでした。そのうち、美術が好きといっても、自分の興味はひじょうに限られていて、汎用性がないのだとわかり、あきらめてしまった次第。
美術館学芸員という仕事はあこがれの職種のひとつでしょうが、けっこうハードです。単に絵を見るのが好きではやっていけなくて、美術史・美学どころか科学的な知識も求められますし。これは図書館司書が、あんがい力仕事であるのとおんなじですね。子どもにもわかりやすく説明でき、親しまれる人柄でないと客寄せできないでしょう。土方のような作業もありますし、読書の虫、文章を書くのが好きでは務まらないものですね。それと近年は新卒で採用することはあまりなくて、民間企業などで企画やディレクションの経験がある方を求めているようです。要するに利益が追求できるようにマネジメント能力が必要なのだと。

自分の趣味にあわない作品を好意的にあつかえるのか、しかも売れるというわかりやすい価値判断がないものを、ということを考えたとき。私はあまり向いていないように思ったのです。自分の好きなことを好きなだけ語り尽くすだけなら、どこでもできます。こだわりをいれて何時間も仕事をしているようなスペースなら、どんな仕事もだめでしょう。クオリティというのは、決められた予算、時間内ですばやい成果をあげたものをいうのです。けっきょく、こうした専門職とて、一般企業にもとめられる能力とさして変わりはありません。

…と、こんな私ですが拾ってくださって、まるで親のように親身になって接してくださった経営者の方もいらっしゃいました。
大企業でボーナスがこれまではいいところでも、不景気風でリストラに脅えている正社員もいる。いい企業に入社したら将来安泰なんていえないでしょうね。とくに新卒採用を控えて派遣や請負で人件費をおさえることで、見かけの経常黒字をあげていた企業は。

いま現在、就職活動中の方もいらっしゃると思いますが、いい職場に巡り会えることをお祈りしています。



あなたの就職活動エピソード大募集!@aafactoryホームページ制作



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