陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

氷上の王者、威風堂々の舞

2010-10-25 | フィギュアスケート・スポーツ
史上初めてフィギュアスケートGPシリーズの開幕戦となった今年のNHK杯は、女子では波乱を巻き起こすいっぽうで、男子はエース高橋大輔選手が堅調な成果を手にした。
ショートプログラムで首位になったため最終滑走となるが、まさに最後を締めくくるにふさわしい大舞台だった。

フリーもSPとなじくラテン系の曲目で、情熱を銀盤に思いきりぶつけた。
情感たっぷりな演技の入りから、観衆は皆ひきこまれただろう。最初の大技四回転をみごとに成功させた。その後もトリプルトゥーループ、そしてループの連続を優雅に決めていく。
髪の毛が逆立ってしまうほどの高速のスピンを氷上の中央で見せたかと思えば、客席近くに迫って猛烈に表現力をアピール。そして、バンクーバー五輪(氷上のエース、初快挙!(前))でも、世界選手権(氷上のエース、黄金のステップ)でも披露したあの途切れることのない華麗な、あまりに華麗なステップ。柳のようにしなるからだに、足先のみごとなエッジワーク。花を抱えて天を仰ぎ見るかのようなスパイラル。どの要素ひとつとってもすばらしく、一秒足りとて目が離せない。
終盤にスタミナ切れからか、惜しくもサルコー直後のジャンプが一回転に終わり、転倒もしてしまったものの、持ち直してのラストは高速のスピンから竜巻が解けたかのようなけれん味たっぷりの決めポーズ。もし時間の制約がなければ、永遠に欲しいまま踊っていてほしいとすら望む力強い舞台だった。
これでハイスコアが引き出せないほうがおかしいと言わんばかりの圧巻の演技。156.35点を叩きだし、234.79点で、NHK杯三年ぶり三度目の栄冠に返り咲いた。

ライサチェクもプルシェンコも欠いた今季、世界選手権王者の貫禄をみせつけた日本の二十四歳。
さすがとしか言いようがない。

対する日本の新人、村上佳菜子とおなじく昨季ジュニアGPシリーズの覇者・羽生結弦選手も、十五歳ながらめざましい存在感を残した試合だった。
あのジョニー・ウィアーがデザインした(驚)といういささか妖艶ないでたちで臨んだ舞台に選んだ曲は、哀切な響きからはじまる「ツィゴイネルワイゼン」
序盤の四回転を堂々と成功させると、トリプルルッツ・ダブルトゥループを楽々と跳んだ。
まだ169センチのからだを長い手足がひときわ大きく見せ、ばねが入ったかのような柔らかさ。決してベテラン勢に混じっても見劣りはしまい。
だが、惜しくも経験の差が出たのは後半のスタミナ切れだった。シニアは四分半で三十秒長い分だけ、ジュニア王者には厳しかったのか。動きが鈍くなり、踊りの切れが悪くなったのが残念。それでも終盤三回転のサルコーをきれいに終えて、大幅なミスは防いだ。
結果、フリーで138.41点をつけられて、総合で207.72点。表彰台が狙えてもおかしくない数字だった。

だが、やはり男子の世界の壁は厚い。
フランスのフローラン・アモディオ選手がマイケル・ジャクソンを熱演して、会場を大いに沸かせ、総合213.77点に追い上げる。最終的に三位。

さらに、SPで二位の全米チャンピオン、ジェレミー・アボット選手。
曲目は「ライフ・イズ・ビューティフル」
我が子を守るために嘘をつき、悲しませないために恐怖を押し殺して楽しく踊り回る健気な父親、というあの映画の雰囲気がよく醸し出されていた。
四回転を封印して──この大技に敢えて挑まない堅実さは、五輪のライサチェク同様に、米国のお家芸なのか。ちなみにコーチは佐藤有香氏──いるものの、質の高いジャンプとバランスのとれたスケーティングで演技を壮大に見せていく。ライディングも完璧で、ほぼノーミス。ベテランらしい安定感を崩さない。こころ憎いほど隙のないプログラムだった。
総合で218点となり、その直後の高橋選手の逆転を待って、二位に落ち着く。

日本人男子の三人目、十九歳の無良崇人選手は四回転に果敢にチャレンジし成功するも、表現力が時おり雑なところが惜しく、191.85点に終わって六位入賞。とはいえ、SP、フリーともに四回転を成功させるという成績を残す。十分に世界で通用するレベルの高さともいえる。

けっきょく、女子とおなじく日本人の表彰台入りは一人だけ(氷上のニューフェイス、鮮烈なデヴュー その2)となったが、羽生選手や無良選手も次のソチ五輪出場も存分に狙える実力を秘めていることが証明されたといえる。

にしても、男子はやはりダイナミックで見応えがある。日本人男性勢がすべて四回転に成功したということも、注目したいところだ。
今季からルールの変更でジャンプの失敗でも基礎点がある程度加算されることになった。バンクーバーの男子の金銀争いで、四回転を飛ばずに賢くまとめたライサチェクと、飛んで銀に泣いた王者プルシェンコがもたらした歴史的な対決は、フィギュアスケート界に革新をもたらしたといえよう。


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