全部本物の木であることこそ最上!=“無垢材至上主義”であった自分の価値観に入らないこの、AX Chair and Tableを買った理由。
2つ目の理由はセールスマンの情熱ある説明でした。
多分、いかにもお金持ってなさそうな私に対して、売ろうという気はなかったと思います。
何かこう、売りたい以上に、このAX Chairの魅力と誕生した背景=物語を知ってほしいとでもいいましょうか...そんな感じだったのです。
そう、セールスマンは、“家具”という“モノ”を売るのではない。。
“家具”と一緒に、そのモノの誕生の背景=物語を持ち帰ってもらおうと考えているのです。
もっというとですね...説明しているご本人の背後に、もう一人のご本人がみえて、「売りたくな~い、ここに置いておきた~い」と言っているのが見えるような感じです。
さて、このAX Chair はどのような背景のもと生まれたのでしょうか...
ご存知のように、デンマークの国土は、日本よりも狭く、人口も少ない。天然資源が豊富なわけでもない。 あるのはブナなどの森林資源くらいのもの。それも銘木といわれるチークやマボガニ―、ウォルナットなどの南洋材は当然輸入になります。
そんな中でも、国が豊かになるためには、外貨を稼ぐ産業が必要でした。
知恵を出して、プロダクトに付加価値をつけること。
つまり、技術とデザインを武器に、製品を世界中に売ることを必死に考えたのです。
AX Chairは、そのような使命の元、誕生しました。
デザイナー:ペーター・ヴィッツ、オーラ・モーゴード・ニールセン
製造:フリッツ・ハンセン社
成形合板で有名な椅子には、同じくフリッツ・ハンセン社から発売された、アルネ・ヤコブセンの通称ありんこチェアがあります。この、ありんこチェアを可能にした合板の成形技術は、もともとはAX Chairの製造研究において開発されたものと言われています。
また、その1で書きましたように、脚部分の構造は、テニスラケットの構造を応用し、マボガニーの芯材にブナのベニヤを重ねた積層材でできています。貴重な材料を適材適所で利用し、効率的に強度を確保すると同時に、意匠性を高次元で両立させています。AX Chairの研究開発が、いかに重要であったかをうかがわせます。
そして、AX Chairは、世界中に大量に輸出されました。こでにも当時としては斬新な工法の開発がありました。
ノックダウン構造(組み立て式家具)の開発です。
材料費を抑え、軽く作り、そして輸送コストを抑えるー。これにより、世界中に輸出され、北欧家具は世界中に認知されて行きました。同時に外貨を稼ぐことができたのです。実は、日本でもっとも有名は北欧家具の一つ、Y Chair(デザイン:ハンス・J・ウェグナー)もまた、あのような特異な形をしていますが、非常にコンパクトに梱包できるのです。AX Chairで開発された輸送コストを抑えるアイデアは、後に誕生した家具に確実に引き継がれているのです。
材料はベニヤでも、
開発にかけられた人のパワーが、この椅子に唯一無二のオーラを与えた。
なにかしら、この椅子の周りには霞のように漂う空気感があります。
これが、AX Chairの最大の魅力です。 そして、このことは、建築空間の設計においても多分同じことが言えると思います。 このAX Chairが目の前にあることで、なえそうな時にも、モチベーションが保てることも、やはりあると思います。 良い材料も、人の手によって生かされてこそ。 結局、人なんだな―と、改めて思う次第。。。
で...本当は椅子だけのつもりが、他のテーブルでは似合わず、結局非売品であったテーブルも入手することになったのは、相当イタイ出費でした(泣)
AX Chair と Tableを、無理をしてまで購入した理由・・・それは大きく分ければ2つあります。
(1)製品そのもののオリジナリティ
(2)製品の歴史背景まで、熱心に語るセールスマンの存在
今日はそのうちの(1)について...
このAX Chairは、1950年にペーター・ヴィッツとオーラ・モーゴード・ニールセンの2人のデザイナーとフリッツ・ハンセン社の共同研究によって、デンマークで開発され、大量生産された製品です。
外見と座り心地の特徴は・・・・
・軽量でありながらゆったりとしたサイズで男女問わず快適に座れる。
・座面の絶妙な勾配により太ももに体重がかからず長時間座れる。
・テニスラケットの構造を応用した脚部分の構造美。
・座面から背もたれへの伸びる部材と連続する肘掛の美しいライン。
ショールームで初めて見たとき、正直言いますと
セールスマンの話す内容の半分はうわの空でした(ゴメンナサイ)。
なんだ~この椅子のオーラは!?
・・・ただただ気になった。
上記のような特徴はわかるし、確かに造形は美しい。
・・・が、だからと言って、別に奇抜で、すごくインパクトのある造形ではない。
しかも!
材料はベニヤ(・・・今風におしゃれに言うと成形合板)!
育った環境の影響もあり、
全部本物の木であることこそ最上!=“無垢材至上主義”であった自分の価値観の中には、
この椅子は、本来入ってこないはずなのです。。。。
・・・・
だってベニヤですよ。うすーくひいたペラペラの板を表面に貼っただけですよ!
もっとひどい言い方すれば、ホームセンターで売っている安い家具とおなじ作り方ですよ。
・・・・
もちろん、
AX CHAIRの製品そのものの完成度の高さや
北欧ブームの中、1950年代という北欧デザイン黄金時代の家具
フリッツ・ハンセン社というブランド
・・・・
それらはすばらしい付加価値です。
だがしかしベニア。。。
そんな考えは、セールスマンの情熱あふれる説明で、変わっていきました。。。
(次回また)