ロンドンの廚(くりや)

ロンドンに住むフードライター Yasukoの「廚(くりや=台所)事情」ブログです。

Dinner by Hestonのセットランチ

2012-05-01 | とっておきロンドン!

「分子料理」で有名なイギリス人シェフ、ヘストン・ブルーメンタールの料理がなんと、32ポンド(フルコース)で食べられます。

なぜそれが驚きかと言うと、カントリーサイドにある彼のレストラン「ファット・ダック」は、予約を取るのも超難関なら、お財布も超分厚くないと(笑)という、リッチなグルメ御用達だからなのです。

昨年オープンしたロンドン店「ディナー・バイ・ヘストン」も、アラカルトメニューだけ見れば、やっぱりフツーの人にはとんでもない高嶺の花。
前菜が15ポンド前後、メインコースが35ポンドくらい、そして一番安いワインでも35ポンド。
フルコース食べてサービス料12.5%を加えたら...一人3万~4万円くらい軽ーく行ってしまいます。

ところが。

ヘストンは、「美味しい物は大好きだけれど、そんなにお金はない」人たちにも自分の料理を楽しんでもらいたい、と、このロンドンのレストランのオープン時から、破格値のランチセットを出しました。

3コースランチ 32ポンド!

「ディナー・バイ・ヘストン」は、超高級ホテル、マンダリン・オリエンタルの中にあります。

私が行った時もやっぱりロシアや中近東のお金持ちらしきお客が多かったですが、かなりの割合でごくフツーの人、観光客も混じっていました。
カジュアルな服装で行ったので、浮いてしまうかと思ったらぜんぜんそんなことありませんでした。

ロングドレスを着たスタッフにかばんやコートを預けて入った店内は、大きなガラス張りの厨房がどの席からも見えます。
パイナップルが何個も丸焼きにされています。

ここは本家ファット・ダックの完全な創作料理とは少し趣の違うコンセプト。
中世から20世紀までに書かれた膨大なレシピ本を研究し、現代的な調理技術を駆使して再現したというメニューを供しています。
それぞれの料理名の最後に、何年のレシピか年代が書いてあります。
一番古いのは14世紀、1390年。
日本なら室町時代でした!

ランチセットメニューは、それぞれのコースに2種類の選択指があります。

yasukoは前菜にヤギの生チーズ、ハーブとレーズンを使ったレモン・サラダ(1730年)、メインコースに鴨の胸肉(1670年)、デザートにオレンジ・バタード・ローフ、みかんとタイムのシャーベット添え(1630年)を選びました。

最初に出されたパンがまず、素晴らしい焼き上がり。

濃い黄色のバターには粗塩がふってあります。
噛めば噛むほどおいしさが染出てくるパン。
思わず食べ過ぎそうになってしまいました。


前菜はプラムほどの大粒のレーズンと、軽くマリネされたレモン、コッテージチーズのようにあっさりしたヤギのチーズのコンビが絶妙なサラダでした。


メインコースは、powdered duck という名前なので、粉々になった鴨肉が出て来るのかと思いきや、香ばしくローストされた胸肉が、バターたっぷりの絹のようになめらかなマッシュドポテト、ブロッコリと発芽させた茴香の種とともに出て来ました。パウダードというのは肉をマリネした液でグレージングした、と言う調理法を指すらしいです。
ふくよかな鴨肉が、複雑かつ濃厚な味のソースによくからみます。


アラカルトメニューだと、この胸肉が二切れも来るらしいですが、セットランチだと一切れだけ。
日本人の胃にはちょうど良い量でした。
二切れ食べたらデザートが入らなかったでしょう。

そして、そのデザート!

どちらかと言えば辛党な自分ですが、これはこの食事のハイライトでした。
甘みの少ないブリオッシュタイプのパンをカラメルでコーティングしてあります。
この、コーティングのぱりぱりした食感にまず感激しました。

中にはオレンジ味のフィリングが挟んであり、上にのっているのは、低温乾燥したマンダリン(みかん)。
分子料理的テクニックが感じられます。

柑橘系の香りとほどよい苦みのあるシャーベットと一緒に口に入れると、得も言われぬ幸福感が。

ドリンクやサービス料12.5%も合わせたらやはり、一人最低50ポンドはかかりますが、食材と調理の質の高さを考えると、これはまさに「お得」なランチです。
ロンドンで思い出に残る食事を、と聞かれたらこれからは多分、ここのランチをお勧めすると思います。

あの、琥珀色の極薄ガラスのようなカラメルが、口の中で、ぱりん...と弾ける感触が忘れられません。

でも、こんど行かれるのは、いつかな~。