秋祭りだ。
祭りには空豆を植えるのが、わが村の掟のようになっている。
紋日(もんび=儀式がある日)に畑で働いていると、村の皆から白い目で見られた昔は、家でこっそりと出来る空豆の種蒔きが、ちょうどよい仕事だったのだ。
昔はトロ箱(木製の魚を入れる箱)に川でとってきた砂を入れて植えた。
お歯黒と呼ばれる黒い部分を下にして、頭が砂から少し出るように種を差す。
水をかけて四、五日すると、種のお尻がむずむずして、お歯黒から根が伸び、種が二つに割れて本葉が顔を出す。
マメ科によくある発芽の仕方で種自体が双葉になる。
だから、種をすっぽりと地中に埋めると双葉は無く、いきなり本葉が出たように見える[地下子葉性]。
今はプラスチックの育苗箱やビニールポットに種を植える。
春に自家採種したのを植えるので種代はいらない。
安上りなので以前は大量に作って道の駅に出していた。
しかし、エンドウ豆ほどには売れない。
少しほろ苦い味が子どもや若者に好まれないのだろう。
私にとっては良い酒のアテなのだが。
昨日の木曜の夜が町内の前夜祭で、今日の金曜の夕方が試験曳き、土日が本番の秋祭りだ。
この歳になると、若いころに自分が地車を曳いていたほどには、ワクワクもソワソワもしない。
朝のうちに、のんびりと空豆の種を蒔く。
昼前に、畑から帰ってくると、太鼓と鉦の囃子が聞こえてくる。
「おい、どんべい(祭り衣装)出しといて!」
昼過ぎに、近くの施設の人たちに地車を見せるために、家の前を地車が通る。
「おい、法被にアイロンあてといて!」
地車に一緒について行って、家に帰ってくる。
「おい、花(祭りの寄付)の袋はどこや!」
夕方、日が暮れる。
「おい、ちょと行てくるわ!」
かくして、祭り三日の飲んだくれが始まる。
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