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河内国喜志村覚え書き帖

大坂の東南、南河内は富田林市喜志村の歴史と文化の紹介です。
加えて、日々の思いをブログに移入しています。

旅19 / 老いの小文 六の②

2025年04月01日 | 旅日記

※①のつづきです。旅17から読んでください。

川岸に植えられているソメイヨシノはまだ蕾だが、家々の庭に植えられている他の品種は花を付けている。
そんな桜を車窓から追いながら、和気から吉井川沿いを走り、4時頃に備前の国の友人宅に着く。
荷物を下ろして庭に出る。
半年ぶりに見る懐かしい山々。

山際の冬木立が老人のハゲた頭の産毛のようで、山の端と空の境が定かではない。
山桜が咲いているのだろうが、冬木と同化してよくわからない。
少し歩くとサクランボの花が満開。
これも桜に違いないと写真を撮る。
ひゅーっと風が吹いて、ぶるっと震えたので家に戻る。
我が嫁はんへの「到着こメール」に、さっきのサクランボの写真を添えて送る。
友人と無事到着の乾杯をし、そのままオジン二人の家飲みの宴となる。

翌朝、家々に引かれた防災無線の音楽で目が覚める。
7時が、グリーグ作曲ペール・ギュント組曲の『』。
12時が、シューベルトの『野ばら』。
17時が、童謡の『夕焼け小焼け』。
その他に9時と15時に遠くでサイレンが鳴るので、この山里では時計は必要ない。
のんびりとした老人の時間だけが流れる山里である。

翌朝は、雲一つとてない晴天だが、昨夜に雨が降ったので畑に出ることはできない。
まずは、近くの山に美味しい湧水があるというので汲みに行き、ペットボトル三本汲んで山を下りる。
次に、無農薬、無肥料の自然農法を豪語する友人に、歳をとったのだから無理しないで除草剤と化学肥料を使うべきだと説得し、そそれを買いに美作まで走る。
買って帰ってしばらくすると♪童は見ーたり、野中のバーラ♪の防災無線が流れる。
昨日、来る途中にスーパーで買った、我がお気に入りの岡山の100円うどんに、酒の肴に買ったゴボ天の残りを入れて昼食。
なんとも安上がりで、なににも増してグルメなランチである。
テレビのニュースで、の岡山の桜の開花宣言を伝えている。
 桜咲くの報聴きすするうどんかな

昼からは、いよいよ畑へ。
草ぼうぼうの友人の畑に見かねたのだろうか。
隣の畑のKさんが、トラクターで1アールほど耕してくれたという。
そこに畝を立てるのが、今回の旅の目的だ。
大阪では刃が長方形で薄い一般的な平鍬を使うが、この地の平鍬は肉厚で刃が長く、刃先が少し尖っている。
チャップリンの履いている靴に柄を付けたような鍬である。
刃と柄の角度も浅く、重いし、かなり勝手が違う。
普通の平鍬は、手前に引きずるようにして土を削り、刃に土を乗せて畝に置くのだが、刃先が鋭角なので引きずれない。
二畝目を立てて、ようやく解った。
刃先を少し持ち上げ、地面に少し打ち付ける。
刃先がとがっているし重いので、ざくりと土の中に入る。
そして、そのまま引き寄せると、かなりの勢いで土が削れる。
なるほど、段々畑や山でも使えるように工夫されているのだ。
さすがは備中鍬を発明した土地だと感心した。
 山里や 土砕くごと春耕す

まことにうららかな春の陽を浴び、一枚一枚と服を脱いでいく。
歳が歳ゆえに何度も休憩を重ね、春を味わいながら十ほどの畝を立てる。
立て終わって、一息ついていると、♪夕焼ーけ 小焼けーの赤とんぼ♪の防災無線が流れる。
なんとものどかで、なんとものんびりした日が過ぎた。
※③につづく

コメント (1)
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