コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~

制圧者とインカの末裔たちとの戦いの物語

コンドルの系譜 第九話(813) 碧海の彼方

2013-01-29 23:44:59 | 碧海の彼方

マルセラの決死の叫びが終るよりも早く、アレッチェの振り上げた頑強な軍靴が、彼女の柔らかな腹部に思い切り蹴り込まれた。

 
――!!」

 
血を吐きながらむせるマルセラの体が、石床に激しく叩きつけられる。

 
強打のために意識朦朧となっているマルセラの襟首を、むずと掴んで引き摺り起したアレッチェの形相には、はち切れんばかりに青筋が立っている。

 
「下賤なインディオ女め。

 
それほど殺されたくば、願い通りにしてくれよう」

 
今にも手すりの向う側にマルセラの体を放り出さんとしているアレッチェの傍で、サルセードが、けたたましく叫んだ。

 
「あ!!

 
閣下、お待ちを!

 
あれは、トゥパク・アマルではありませんか?!」

 
――!」

 
次の瞬間、アレッチェの手から、マルセラの細い体が、ドサリ、と床に転がり落ちる。

 
アレッチェの全神経は、完全に眼下へ吸い寄せられていたのだ。

 
彼の視線の先では、突如現れたインカ軍騎兵部隊が、砦の射程内に進軍しようとしているロレンソ軍の長大な戦列を、外周から包み込むようにして、蹄音高く駆け込んできていたのだった。

 
「全軍、進軍を止めよ!!

 
断じて、前に出てはならぬ!!」

 
そう厳然と号を発しながら疾駆する逞しい白馬――漆黒の長髪をなびかせ、手綱を巧みに繰るその黒衣の人物に、アレッチェの目は、いやがうえにも引き付けられる。

 
(トゥパク・アマル――!!)

  

【登場人物のご紹介】

≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪マルセラ≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官である重臣ビルカパサの姪。
アンドレスやロレンソと同年代の年若い女性だが、青年のように闊達で勇敢な武人。
女性ながらもインカ軍をまとめる連隊長の一人。
此度の作戦では、昨日の英国艦隊とスペイン艦隊の戦況を陸上のインカ軍陣営に報告するため、少人数の部下と共に沖合の小島に渡っていたのだが

≪ホセ・アントニオ・アレッチェ(スペイン軍)
植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。 
ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。
有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。
名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。

 

◆◇◆◇◆ご案内◆◇◆◇◆

ホームページへは、下記のバナーよりどうぞ。

コンドルバナー

物語概要  物語目次  登場人物紹介  現在の物語



☆いつも温かく応援してくださいまして、どうもありがとうございます。

ネットランキング        wanderking banner 2