コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~

制圧者とインカの末裔たちとの戦いの物語

コンドルの系譜 第九話(416) 碧海の彼方

2010-06-30 19:51:59 | 碧海の彼方
その時、再びトゥパク・アマルの声が聞こえてきた。

「次第に暮れ時も迫っているが、英国艦隊は未だ姿を現さぬ。

このまま日が暮れれば、夜間の襲撃をしてくるとは考えにくい。

その裏をかいてくる可能性も皆無ではないが、いかに英国艦隊と言えども、このような不慣れな海域で無理に夜間の襲来を試みれば、座礁の危険があまりに大きい。

恐らく、海上で一夜を明かし、装備や編隊を整え、夜明けを待って押し寄せてくる心積もりであろう」

「それでは、当地での決戦は明朝以降になると?」

低く絞ったビルカパサの言葉に、トゥパク・アマルは厳然とした横顔で無言のままに頷いた。

それでは、トゥパク・アマル様、急ぎサンガララに援軍に向かわれますか?!――と、衝動的に喉元まで出かかったが、ビルカパサは己の言葉を呑み下した。

いかに当地での決戦が明日に持ち越されようとも、どれほど超人並みに馬を飛ばそうが、もう間もなく戦闘の火蓋が切られるであろうサンガララの決戦に間に合おうはずがなかった。

それどころか、たとえ一晩、ここから死に物狂いで馬を駆ろうとも、サンガララの山麓の末端にさえも辿り着けはしないだろう。


【登場人物のご紹介】

≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪ビルカパサ≫(インカ軍)
インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。
トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。

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コンドルの系譜 第九話(415) 碧海の彼方

2010-06-28 21:02:19 | 碧海の彼方
めったに見せぬその顔色の変化と、非常に険しい横顔でサンガララの方角を睨んだトゥパク・アマルの様子に、少し離れた場所に控えて見守っていたビルカパサは、ついに居た溜まれなくなって歩み寄った。

「トゥパク・アマル様、何か不味いことでも?」

「サンガララの本陣に敵軍が迫っている。

しかも、我が軍が、かなり劣勢な状況にある」

低く早口で答えたトゥパク・アマルの傍らで、ビルカパサも生唾を呑み込んだ。

その彼の視界の中で、トゥパク・アマルはサンガララの方へと向けていた険しい視線を水平線の彼方へと移していく。

次第に夕刻時が迫り、射し込む斜光を受けて反射する海面は、まるで無数の残酷な刃を敷き詰めているかのごとくに見える。

その光景を見据えながら、トゥパク・アマルは、早くも懸命に頭を巡らせはじめているのであろう。

彼の思慮深い切れ長の目の端が、いっそう鋭利に研ぎ澄まされていく。

だが、そんなトゥパク・アマルの握り締めた拳には、必要以上に力が入りすぎ、不規則に微動している。

そのさまに、ビルカパサは胸を掻き毟られる思いに憑かた。

(トゥパク・アマル様……!

ご本心では、今すぐにも、ミカエラ様や皇子様たちのおられるサンガララへと馳せ参じたいに相違あるまい)


【登場人物のご紹介】

≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪ミカエラ・バスティーダス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの妻であり同志。トゥパクとの間に生まれた3人の皇子たちの心優しき母でもある。褐色の女神のように麗しくも、戦士のごとくに雄々しいインカ族の才媛。

≪ビルカパサ≫(インカ軍)
インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。
トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。

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コンドルの系譜 第九話(414) 碧海の彼方

2010-06-25 20:02:38 | 碧海の彼方
他方、やはりミカエラの伝令鳥に気付いていた護衛のビルカパサが、トゥパク・アマルと同様に嫌な予感を直観したまま、やや距離を保ちながら主の後を追う。

トゥパク・アマルは陣営の中心部から離れ、岬の突端に歩み寄った。

岬の下方から吹きつける強い潮風が、彼の長い漆黒の髪と黒マントを荒々しく宙に巻き上げる。

その風の中で、彼は伝令鳥に向かって高く腕を差し伸べた。

そして、地上の獲物に襲いかかる猛禽類の如く、瞬速で急降下してきた鳥を、その強靭な腕でガシッと受け留める。

それから、鳥の脚に結び付けられた布を手早くほどいた。

伝文の記されたその布を視線で辿るトゥパク・アマルの厳しい横顔に、苦渋の影が走る。

(やはり……!)

敵軍が山麓まで迫り来ていること、退路も無く、敵の約半数の兵力で迎撃するつもりであること――ミカエラの筆跡で簡潔に走り書きされたそれらの伝文を読み終える頃には、さすがのトゥパク・アマルも青ざめていた。


【登場人物のご紹介】

≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪ミカエラ・バスティーダス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの妻であり同志。トゥパクとの間に生まれた3人の皇子たちの心優しき母でもある。褐色の女神のように麗しくも、戦士のごとくに雄々しいインカ族の才媛。

≪ビルカパサ≫(インカ軍)
インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。
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コンドルの系譜 第九話(413) 碧海の彼方

2010-06-24 01:25:08 | 碧海の彼方
(あのミカエラが、伝令鳥までよこすほどの緊急事態とは――)

それは、彼女の手に余るほどの強大な敵襲以外には、考えられなかった。

トゥパク・アマルは、にわかに内心に動揺を覚えたが、しかしながら、一触即発の緊張状態下にある当地の兵たちに、これ以上の不安を煽るわけにはいかなかった。

彼は、目の前の斥候が報告を終えて立ち去った機をとらえ、一見、何も変わったところのない表情と態度のまま、スッと立ち上がる。

「暫し、はずす。

皆の者にも、順次、小休止をとらせよ」

そのトゥパク・アマルの足元に、斥候たちを取り次いでいた隊長格の厳ついインカ兵が、「はっ!」と、敏捷に畏(かしこ)まった。

トゥパク・アマルは頷くと、その長身を翻し、己を囲んでいた衛兵や斥候たちの集団から足早に離れていく。


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≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪ミカエラ・バスティーダス≫(インカ軍)
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コンドルの系譜 第九話(412) 碧海の彼方

2010-06-22 02:49:55 | 碧海の彼方
その時、高い天頂から、不意に、甲高い鳥の鳴き声がトゥパク・アマルの耳を貫いた。

(――!)

それは、とても遠く、微かな声であったが、彼は、それがミカエラの放った伝令鳥のものであることを瞬時に悟った。

と同時に、サンガララの本陣に異変の起こったことを即座に直観して、反射的に指先を握り締める。

これまでもトゥパク・アマルとミカエラは、遠隔地にありながらも、様々な伝達事項や情報の交換を頻繁に行ってきてはいた。

だが、そのための伝令文や書状は、専ら早馬による使者か俊足の飛脚たちによって運ばれていたのだった。

ミカエラ自身の判断力や統率力によって、あるいは傍に仕えるベルムデスの智慧によって、大概のことは解決されてきており、トゥパク・アマル自身も彼女たちの采配に信頼を置いていたため、これまでは陸路を経ての連絡で事は十分に足りていたのである。

そのような状況下、此度の突然の伝令鳥の飛来は、そのこと事態、本陣で並々ならぬ緊急事態の生じていることの証しでもあった。


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≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪ミカエラ・バスティーダス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの妻であり同志。トゥパクとの間に生まれた3人の皇子たちの心優しき母でもある。褐色の女神のように麗しくも、戦士のごとくに雄々しいインカ族の才媛。

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