その間にも、アレッチェの腕が、荒々しく掴み上げたマルセラの肩をさらに押して、ますます彼女の身体を手すりから大きく乗り出させていく。
女性としては長身で、いっぱしの女戦士の身なりなど装っているとはいえ、厳めしい軍人の体格をしたアレッチェの前では、マルセラとて、華奢な一人の少女にしか見えない。
そのアレッチェの手に掴み上げられて、体半分以上を手すりの外へ押し出される格好になっているマルセラの足は、恐らく、もはや石床にはついていないのではないかと思われた。
ロレンソ軍の兵たちの間から、悲鳴混じりのどよめきが湧き上がる。
ロレンソの喉からも、声にならぬ叫びが漏れた。
これまでも、非戦闘員であるインカ族の平民たちまで駆り出してきて、それらの民衆を平然と人柱としてスペイン軍の前面に括りつけ、生ける盾とまでしてきたアレッチェの仕儀。
あるいは、トゥパク・アマルの攻撃の矛先を鈍らせるために、同じインカ族の数万の傭兵集団を養成し、同族同士の大規模な流血を強要したこともあった。
目的達成のためなら手段を選ばぬ容赦無さ、冷酷さを、散々に見せつけられてきただけに、捕虜となったインカ族の女の一人や二人、突き落とすことなど、このアレッチェなら朝飯前だろう。
そう予測できるが故に、ロレンソはもとより、ロレンソ軍の誰もが顔面蒼白になったまま、その場に凍りついている。
「さあ、どうするのだ?
もっと傍まで来て、我らと堂々と戦って、この女を奪い返すのか?
それとも、そこに引っ込んだまま、見殺しにするか?」
そうアレッチェが言い終わるよりも早く、マルセラの決然とした声が、夜空に高く響き渡った。
「『アンドレス様』!!
こんな安っぽい挑発に乗っては、だめ!!
絶対に来てはいけません!!」
☆★☆ご挨拶☆★☆
本年も、当ブログにお運びくださいまして、本当にありがとうございました!
温かいコメントを残してくださいます方々、励みになる応援をしてくださいます方々、そして、そっとお読みくださっている方々、全ての皆さまに心よりお礼申し上げます。
長々しくなってしまったこの物語も、全体から見れば、もうかなり終盤にきています。
来年は、いろいろ広げてしまったストーリーを一つの流れの中に収束させていくことを目指しながら、ラストに向かって推し進めていくことができればと思います。
ただ、まだ書かねばならぬことが少なからずあり、すぐに完結、とはいかなそうなのですが^ ^;
(本章が終章の予定だったのですが、もしかしたら、もう一つぐらい短めの章を足さないと終わらないかもしれません。。。)
たどたどしい歩みではありますが、どうか来年も引き続き温かくお見守り頂けましたら幸いです。
来年もどうぞ宜しくお願いいたします。
全ての皆さまにとりまして、新たなる年が希望に満ちた輝かしきものとなりますように!
【登場人物のご紹介】
≪アンドレス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。
剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。
≪ロレンソ≫(インカ軍)
アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友。生粋のインカ族。
反乱幕開けと共に、インカ軍に参戦した。
アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。
現在、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて、若きインカ兵たちを統率している。
≪マルセラ≫
トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官である重臣ビルカパサの姪。
アンドレスやロレンソと同年代の年若い女性だが、青年のように闊達で勇敢な武人。
女性ながらもインカ軍をまとめる連隊長の一人。
此度の作戦では、昨日の英国艦隊とスペイン艦隊の戦況を陸上のインカ軍陣営に報告するため、少人数の部下と共に沖合の小島に渡っていたのだが…。
≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)
植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。
ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。
有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。
名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。
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