コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~

制圧者とインカの末裔たちとの戦いの物語

コンドルの系譜 第九話(803) 碧海の彼方

2013-01-05 02:22:56 | 碧海の彼方

まだ身を低めつつも僅かに顔を上げたビルカパサの瞳が、トゥパク・アマルを真剣な眼差しで見つめる。

 
「はい、トゥパク・アマル様。

 
ロレンソ殿をアンドレス様と思い込んでいるアレッチェが、あの二人の仲まで知っていたはずはありますまいが、偶然とはいえ、このような事態ともなると、ロレンソ殿のことが強く案じられます」

 
トゥパク・アマルも、俊敏に頷いた。

 
「ロレンソ殿とマルセラ殿が、そのような仲となっていたことは、わたしとしても、大いに喜ばしいことだ。

 
だが、そうであるとすると、そなたの言う通り、ロレンソ殿のことが心配だ。

 
いかに冷静な彼とて、この状況にあっては、その心情は平静ではいられまい」

 
「はっ、トゥパク・アマル様。

 
万一、ここでロレンソ殿が踏み外すようなことがあれば、彼の軍も多大な危険に晒されることになりましょう。

 
果ては、我らインカ軍の作戦全体も、総崩れになりかねません。

 
なれば、直ちに、我が兵を率いて、ロレンソ殿の援護に馳せ参じたく!」

 
そのビルカパサの進言に、トゥパク・アマルは、「いや」と、素早く首を振った。

 
「我が軍全体やロレンソ殿を思うそなたの忠義は良く分かる。

 
しかし、ここは、わたしが参る。

 
どの道、わたしが出て行かぬことには、アレッチェ殿はおさまらぬ」

 
「なんですって?

 
トゥパク・アマル様ご自身が、アレッチェの前面に出ていくと仰るのですか?!

 
そのようなことはなりませぬ!!」

 

【登場人物のご紹介】

≪トゥパク・アマル(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪ビルカパサ(インカ軍)
インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。
トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。

≪ロレンソ(インカ軍)
アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友。生粋のインカ族。
反乱幕開けと共に、インカ軍に参戦した。
アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。
現在、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて、若きインカ兵たちを統率している。

マルセラ
トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官である重臣ビルカパサの姪。

アンドレスやロレンソと同年代の年若い女性だが、青年のように闊達で勇敢な武人。
女性ながらもインカ軍をまとめる連隊長の一人。
此度の作戦では、昨日の英国艦隊とスペイン艦隊の戦況を陸上のインカ軍陣営に報告するため、少人数の部下と共に沖合の小島に渡っていたのだが

 

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