コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~

制圧者とインカの末裔たちとの戦いの物語

コンドルの系譜 第九話(327) 碧海の彼方

2009-11-30 20:55:05 | 碧海の彼方
こうしてアンドレスやロレンソの一行が再び行軍を開始した頃、敵将アレッチェは、彼もまた全身を強風に激しくなぶられてはいたが、己の配下の兵たちの無様(ぶざま)に混乱したさまに、口角から唾を飛ばしつつ激昂していた。

「馬鹿者どもめ!!

ただの一時的な疾風だ。

さっさと隊形を整えろ!!」

それから、彼は、己にぶち当たってくる石類や木片を鉄製の盾で荒々しく弾き返しながら、トゥパク・アマルの方を苛立たしげに睨(ね)めつけた。

「この場所の天候や風の性向を知っていれば、誰にでもできることだ。

このような子ども騙しまで使うとは、トゥパク・アマル、おまえも、余程、手の内が尽きてきたと見える」

そう憎々しげに言い放つアレッチェを冷ややかに見つめていたトゥパク・アマルの瞳が、再び、鋭い閃光を放つ。


【登場人物のご紹介】

≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)
植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。 
ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。
有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。
名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。


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コンドルの系譜 第九話(326) 碧海の彼方

2009-11-27 20:49:25 | 碧海の彼方
さらに、アンドレスは口早に続けていく。

「それに、可能であるならば、実際、両翼から攻める方が効率もいい!」

「だが、兵力が分散することになる」

忙(せわ)しなく言葉を交わしながらも、既にアンドレスとロレンソのそれぞれの腕は、無意識にサーベルと銃を装着し直し、砂塵や草にまみれた甲冑を手早く払って体勢を整えていく。

アンドレスは己の兵たちの方へ強い眼光を閃かせ、「即座に隊形を整えよ!」と視線で号令を送りながら、ロレンソに、今一度、向き直った。

「さっきの奴らの砲撃を見ただろう?!

あれほどの武装で固められた砦の正面突破は無理だ。

脇を狙うなら、いずれにしろ、突破口は狭い。

むしろ、兵力を分散させた方が得策だ。

さあ、急ごう!!」

「うむ…」

そう低く唸ってから、吹き止まぬ強風の中でロレンソは乱れた髪を手の平で撫でつけ、それから、「わかった」と凛々しい顔つきで頷いた。

アンドレスも笑みを返して、力強く相手の肩を握り締める。

それから、敏速な足取りで、背後に控える己の軍の方へと踵を返した。


【登場人物のご紹介】

≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪アンドレス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年(18歳)。
若くして剣術の達人であり、インカ軍最年少の連隊将。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
英国艦隊及びスペイン軍との大決戦に向けて、ラ・プラタ副王領への遠征から、ペルー副王領のインカ軍本隊へと帰還を果たした。

≪ロレンソ≫(インカ軍)
アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友(18歳)。生粋のインカ族。
反乱幕開けと共にインカ軍に参戦し、現在では、若いながらもインカ軍を率いる将の一人。
アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。


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コンドルの系譜 第九話(325) 碧海の彼方

2009-11-25 21:50:55 | 碧海の彼方
「つぅ……――」

暫しの間、本当に何か固いものを叩きつけられたかのように、きつく目を閉じて身を屈(かが)め、額を押さえていたアンドレスだったが、やがて、パッと大きな瞳を見開いた。

そして、ロレンソと彼の一行に敏捷に視線を馳せる。

「ロレンソ、君たちの軍は、計画通り、このまま進軍を続けてくれ。

俺たちの軍は、この混乱に乗じて、トゥパク・アマル様のご一行の背後を速攻で迂回し、敵陣の反対側に回る!」

「何を突然…!

二手に分かれると言うのか?」

「ああ、そうだ。

君の軍と俺の軍と、あの砦の両翼に二手に分かれる」

そう言って、アンドレスは、彼方のトゥパク・アマルの方へと顔を振り向けた。

「今、俺はそのように――」

「トゥパク・アマル様のご意志を受け取ったと?」

問いながら、ロレンソは思慮深い指揮官の目に戻って、頤(おとがい)に褐色の指先を添える。

アンドレスは、力強く頷き返した。

「ああ!

確かに、俺は、そう受け取った!」


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≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪アンドレス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年(18歳)。
若くして剣術の達人であり、インカ軍最年少の連隊将。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
英国艦隊及びスペイン軍との大決戦に向けて、ラ・プラタ副王領への遠征から、ペルー副王領のインカ軍本隊へと帰還を果たした。

≪ロレンソ≫(インカ軍)
アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友(18歳)。生粋のインカ族。
反乱幕開けと共にインカ軍に参戦し、現在では、若いながらもインカ軍を率いる将の一人。
アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。


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コンドルの系譜 第九話(324) 碧海の彼方

2009-11-23 20:14:12 | 碧海の彼方
昂然と呟きながらアンドレスが再び前方に向き直ったその時、不意に、遥か彼方のトゥパク・アマルが、サッと、鋭い視線をこちらに投げた――ように二人には見えた。

「え?!

ロレンソ、今、トゥパク・アマル様が、こっちを見なかったか?!」

「あ…ああ!

確かに、こちらをご覧になられたような…!」

二人は顔を熱く火照らせ、ますます食い入らんばかりに身を乗り出した。

そんな彼らに、トゥパク・アマルの遠いシルエットは、今度は、その腕を素早く左右に振って宙を切った。

それは、完全に瞬間的な動きであった。

が、その動きを見た途端、石つぶてか何かを強烈に頭に投げつけられたかのような激しい衝撃を覚えて、「アッ――!」と、アンドレスは咄嗟に額を押さえ込む。

「アンドレス?!」


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反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪アンドレス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年(18歳)。
若くして剣術の達人であり、インカ軍最年少の連隊将。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
英国艦隊及びスペイン軍との大決戦に向けて、ラ・プラタ副王領への遠征から、ペルー副王領のインカ軍本隊へと帰還を果たした。

≪ロレンソ≫(インカ軍)
アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友(18歳)。生粋のインカ族。
反乱幕開けと共にインカ軍に参戦し、現在では、若いながらもインカ軍を率いる将の一人。
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コンドルの系譜 第九話(323) 碧海の彼方

2009-11-21 20:45:17 | 碧海の彼方
ロレンソは吹き付ける砂塵を避けようと瞼(まぶた)の上に手びさしすると、蒼光りする稲妻に照らし出されるトゥパク・アマルの遠いシルエットへ視線を返した。

そして、眩しそうに目を細める。

「そういえば、こんなことが、以前にもあった。

あれは、そう、確かトゥンガスカの本陣戦の時だった。

トゥパク・アマル様がアレッチェの謀略にはめられて囚われた日、一寸先も見えぬほどの激しい豪雨となり、その最中、天地も裂けんばかりの凄まじい落雷が敵陣を襲ったのだ」

「そ…そんなことが――…!」

「ああ。

そなたは、ソラータに遠征に発った後のことだから、知る由(よし)もなかろうが」

「そんなことが……」


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