コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~

制圧者とインカの末裔たちとの戦いの物語

コンドルの系譜 第九話(88) 碧海の彼方

2008-06-30 19:16:47 | 碧海の彼方
再び嘘のように静まり返った中、暫し呆然としていたアンドレスだったが、はたと我に返ると、己の方を一心に見上げている兵たちの方に急いで向き直った。

そして、呼吸を整えると、声音を統制して、噛み締めるように続けていく。

「皇帝陛下は、これからも我がインカ軍の総指揮を執っていかれる!!

英国艦隊が来ようが、何が来ようが、トゥパク・アマル様がおられるんだ!!

何を恐れることがあろうか!!」

おお…―――皇帝陛下が…!!――兵たちの間から、深い深い安堵と感嘆の声が漏れる。

兵たちは夢中で丘の傍まで走り寄ると、懸命にアンドレスを見上げた。

「アンドレス様、本当なのですか?!」

「トゥパク・アマル様は、今も、ご無事なのですか?!」

アンドレスは、深く、俊敏に、頷き返した。

「ああ!!

トゥパク・アマル様は、まぎれもなく、ご無事で、自由の身になっていらっしゃる!!

トゥパク・アマル様だけでなく、ミカエラ様も、皇子様たちも、牢を抜けてご無事だ!!」

「おお…――そのようなことが……!!」

筋骨逞しい体を震わせて男泣きに濡れている兵たちを眼前にして、アンドレスも激しく胸に迫り来る熱い思いに突き上げられ、目元に涙を滲ませた。

そして、いよいよトゥパク・アマルとの再会を目前にしている現実に、強度の歓喜と興奮を覚えて身震いする。


【登場人物のご紹介】 

≪トゥパク・アマル≫
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪アンドレス≫
トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。
若くして剣術の達人であり、4万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
隣国ラ・プラタ副王領に遠征していたが、現在、ペルー副王領に帰還の進軍中。


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コンドルの系譜 第九話(87) 碧海の彼方

2008-06-26 22:24:06 | 碧海の彼方
「やはり噂は本当だったのか!!」

「あの世界最強の英国艦隊が襲ってきたなんて!!」

衝撃と驚愕に顔を歪める者、憤然と激昂する者――強度の動揺を見せる兵たちを見下ろしながら、アンドレスは苦々しく唇を噛んだ。

彼は両手の拳を強く握り締める。

そして、腹部まで深々と息を吸い込むと、内臓まで飛び出すのではないかと思われるほどの渾身の力を込めて、兵たちに向かって大きく叫んだ。

「だけど、トゥパク・アマル様は――皇帝陛下は、牢を抜けてご無事でいらっしゃる!!」

―――――!!!

兵たちのどよめきが、その瞬間、ピタリと止んだ。

突如にして訪れた水を打ったような静けさ――……。

(え…――?!)

アンドレスは、あまりの張り叫びように血の滲んだ喉元を押さえながら、息を呑んだ。

あれほどの騒然たる状態の中で良くぞ彼の言葉を聞き取ったものだと、アンドレスの側近たちも、驚愕して目を見張る。

状況の推移を見ていたアリスメンディも、鋭利な目元を聳(そび)やかせた。


【登場人物のご紹介】 

≪トゥパク・アマル≫
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪アンドレス≫
トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。
若くして剣術の達人であり、4万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
隣国ラ・プラタ副王領に遠征していたが、現在、ペルー副王領に帰還の進軍中。


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コンドルの系譜 第九話(86) 碧海の彼方

2008-06-25 20:03:01 | 碧海の彼方
兵たちの間にも、恍惚と共に、強い緊張が走った。

あのこと…つまりは、英国艦隊到来の噂の件か――と、兵たちの間にも、にわかに動揺の空気が走る。

そうした兵たちの間から、やはり丘上を見上げていたコイユールは、これからアンドレスが語るであろう内容を察して、息を詰めていた。

祈るようにギュッと強く組まれた彼女の両手の指先が、微かに震えている。

そして、また、コイユールと同様、アンドレスの側近たち――ロレンソやベルムデスたち――、そして、アリスメンディも、それぞれの場所から、それぞれの鋭利な面差しで、状況の推移をうかがっていた。

アリスメンディの同行に関しては、彼を昔から知るベルムデスでさえも慎重な見方をしていたが、アンドレスの堅い決定が下りた後であり、ロレンソ同様、その動向を見守るしかなかった。

かくして、今、霊峰を越えて遥か高くまで昇った太陽は、真昼の陽光を彼らの元へ燦然と降り注ぐ。

アンドレスは、足元の己の影を、その鍛えられた長い足でぐっと踏み締めると、鋭い横顔を前方へと向けた。

「皆、良く気持ちを落ち着けて聞いてほしい!!

既に噂では聞き及んでいると思うが、此度の英国艦隊の到来は事実である…――!!

だが―――」

途端に兵たちの間から、ドッと大きなどよめきが湧き起こった。

と同時に、たちまちアンドレスの言葉は、喧騒の中に虚しくかき消されていく。


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≪アンドレス≫
トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。
若くして剣術の達人であり、4万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
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コンドルの系譜 第九話(85) 碧海の彼方

2008-06-24 18:33:10 | 碧海の彼方
遥々と無数の兵たちで埋め尽くされたその場所は、しかし、整然と隊列が成され、皆、毅然たる面持ちで丘上を見上げた姿勢で、見事なまでに静寂が保たれている。

アンドレスは、そのような兵たちに深く礼を払うと、決然と響く声で、力強く話しはじめる。

「皆、長く、険しいラ・プラタ副王領への遠征、本当にご苦労だった!!

そして、今、こうして、再び、俺たちはペルー副王領へと帰還を果たし、インカ軍本隊への合流を目前としている――!!

俺たちがインカ軍本隊を離れて遠征に出立してから、トゥパク・アマル様の率いていらしたインカ軍本隊でも様々なことがあったことは、聞き及んでいることと思う。

だけど、そうした厳しい状況下にあっても、俺たちがソラータやラ・パスでの戦いを乗り越えて、今、こうしてここにいるのは、ここに集う全員の力があったからに他ならない!!

皆、本当にありがとう!!」

山々にこだまする己の声に包まれながら、アンドレスは、今一度、眼下の兵たちに深く礼を払った。

強い恍惚を滲ませ、頬を紅潮させながら見上げている兵たちも、アンドレスの方へと深く礼を払う。

それから、アンドレスは、再び決然と兵たちに向くと、深く息を吸い込み、意を決したように話し出す。

「間もなく、俺たちは、インカ軍本隊へと合流する!!

その前に、皆に、大事な話を伝えておきたい――!!」


【登場人物のご紹介】 

≪トゥパク・アマル≫
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪アンドレス≫
トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。
若くして剣術の達人であり、4万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
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コンドルの系譜 第九話(84) 碧海の彼方

2008-06-23 18:51:15 | 碧海の彼方
いっそう深く礼を払う兵にトゥパク・アマルも頷き返し、それから、再び、作業場全体に俊敏な視線を走らせる。

「ご苦労であった。

ある程度組み上がったものから、順次、下界に移送する。

金属物ではないとはいえ、それなりの重量があるものゆえ、このような山間で行なうよりも、仕上げは下界にて行う方が効率も良かろう。

下界の同盟者の陣営に、作業スペースを確保してある――移送ルートは、打ち合わせの通りだ」

「畏(かしこ)まりました!!」

「明日には新たな資材も届く。

厖大な量が必要なことゆえ、この陣営以外でも並行して作業を進めている。

時は迫っている。

難儀な作業であろうが、宜しく頼む」

「はっ!!

お任せくださいませ!!」

跪(ひざまず)いて地につくほど深く礼を払う兵に、今一度、頷き返すと、トゥパク・アマルは作業現場から踵を返した。





一方、再び、アンドレス陣営――。

かくして、アリスメンディの同行を受け入れたアンドレスだが、彼の軍団は、日毎に手薄になっていくスペイン軍の攻撃をかわしながら、現在のところは順調に行軍を進めていた。

迫り来る英国艦隊到来の時に備え、スペイン軍の主力部隊は、内陸部から沿岸部へと、その布陣の中心を移動していたのだった。

そして、アンドレス軍は、いよいよディエゴのあずかるインカ軍本隊――トゥパク・アマルがいるであろうインカ軍主力部隊――との合流を目前としていた。

アンドレスは、今や4万を超える自軍の兵たちを前にして、小高い丘陵上に立っている。

彼は、強い力を宿した面差しで、眼下に結集した兵たちを熱く見渡した。


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インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪アンドレス≫
トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。
若くして剣術の達人であり、4万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。
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