コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~

制圧者とインカの末裔たちとの戦いの物語

コンドルの系譜 第六話(117) 牙城クスコ

2006-11-30 19:32:36 | 牙城クスコ
軽く肩を竦めて、それから、フィゲロアは独り言のように呟いた。
「トゥパク・アマルといい、このアンドレスといい、インカ軍の将たちは、全くもって、いつもこのように破天荒な現われ方をするものなのか…。」
一方、窓硝子を隔てたバルコニーから、アンドレスは両手を広げて、武器など持ってはいません、と身振りで示す。

その様子に、フィゲロアは、かのトゥパク・アマルの対面の際にも同じような情景を見たことを思い出し、苦虫を噛み潰したような表情になる。
そして、思わず、顔を歪めて苦笑した。
あのトゥパク・アマルの話し合いの際も、武器を持たぬあの者に、結局は素手で打ちのめされたのだ。
(おまえたちの場合は、武器の有無など、関係ないではないか…!)

そんなことを苦々しく思いながらも、フィゲロアはゆっくりと窓辺に近づいた。
それから、やむを得ぬという表情を浮かべ、バルコニーに面したその窓を開く。
フィゲロアとアンドレスが直近の距離で、今、ついに対面する。
すぐにアンドレスは深く頭を下げた。
「突然の来訪、何卒、ご容赦ください。」
「唐突な来訪は、あのトゥパク・アマルの時で、もはや慣れた。」
皮相な口調でそんなふうに言い放つ眼前の敵将に、アンドレスは再び深く礼を払う。
「どうかお気を悪くなさらないでください。」
「で、今度は、何用だ?」

いきなりの本題に、瞬間、アンドレスの方が不意を突かれた表情になる。
が、すぐに意を決した眼差しになると、真正面からフィゲロアに向き直った。
「トゥパク・アマル様のことで…!!
あのお方が、スペイン軍に出頭すると仰っているのをご存知でしょうか?」
澄み切った真剣な瞳で激しく見据えてくる眼前の若者の視線を、同様にとても純粋なフィゲロアの瞳は、しかし、今は、さっとそらす。

「フィゲロア殿!!」
アンドレスは、フィゲロアの視線の先に回りこんだ。
「トゥパク・アマル様をスペイン軍の手に渡すことなどできません!!
そのために…そのために、あなたのお力が必要なのです。」
アンドレスの来訪以前から既に苦しげな色を浮かべていたフィゲロアの表情が、今、いっそう苦渋に歪みはじめる。
そして、回り込んできたアンドレスを避けるように、部屋の一隅に向かって、数歩、移動した。

「アンドレス、おまえの頭は、一体、どうなっているのだ?
俺は、おまえたちの敵であろう!
俺を当てにするのは、全くもってお門違いだ。」
低く冷たい声で言い放つフィゲロアの前に、しかし、再び、アンドレスは回りこんだ。
「いいえ!!
あなたの率いる褐色兵が、この後のインカの命運を…、そして、トゥパク・アマル様のお命さえをも左右するのです!!
どうか、あなたの率いる褐色兵の軍団を…――!!」
「黙れ!!
しつこいぞ!!」
核心に触れてきそうなアンドレスの言葉を鋭く制し、フィゲロアは凍てつくような目でアンドレスを睨み据えた。


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コンドルの系譜 第六話(116) 牙城クスコ

2006-11-29 19:30:30 | 牙城クスコ
当然ながら、扉には硬く錠が下ろされている。
アンドレスは窓の外から屋敷の内部を覗きながら、褐色の敵将フィゲロアの姿を探した。
一階の窓からは、フィゲロアの姿は確認できない。
彼は庭先から屋敷の二階を見上げた。
人の気配を微かに感じる。
アンドレスは屋敷脇の倉庫の屋根に跳躍すると、そこから二階のバルコニーに、まるで鳥のような身軽さで易々(やすやす)と舞い移った。
そして、バルコニーに立ったまま、鋭い眼差しで窓越しに室内を見渡す。

果たして、目的の相手、フィゲロアの姿を硝子(ガラス)の向こうに見出した。
相手は、まだ、突然の来訪者、アンドレスの存在に気付かない。
そのまま、アンドレスはフィゲロアの様子を探るように見た。
戦場で、幾度か既に、相見(あいまみ)えている勇猛なその姿は、しかし、今は、一人、室内のテーブルにうつ伏せるようにして、まるで肩を震わせているかのごとくに見える。

アンドレスは、息を呑んだ。
何か、ひどく胸に迫るものを感じて、暫し、じっとその姿に釘付けられる。
(フィゲロア殿…、もしやトゥパク・アマル様のことで、あなたもお苦しみなのでは…?!)
窓硝子を隔てて瞳を揺らしながら見つめるその視線を鋭く感じ取ったのか、フィゲロアが、はたと頭をもたげた。
そして、視線の方向を探るように、ざっと室内を見回した後、窓の方にも視線を向けた。

その瞬間、窓の向こうのバルコニーに立ち、喰い入るように己を見ている混血の若者の姿が目に飛び込む。
フィゲロアは予測外のことに、さすがに驚きの眼で、はじかれるように椅子から立ち上がった。
そのまま、驚きを引き摺りながらも、窓辺の若者を素早く観察する。
(あの者、どこかで見たことがある?!)
フィゲロアは、険しい目つきのまま、貫くように窓硝子の向こうを見据えた。

貧しい平民の服装に扮してはいるが、凛々しくも華やかな気品溢れる、蒼い炎を纏ったような、その混血の若者の風貌には、確かに見覚えがあった。
そして、再び、はじかれたように目を見開いた。
(まさか、アンドレス…――?!)

直接、言葉を交わしたことはなかったが、戦場で、実に鮮やかな剣裁きで先陣に立つ若武者を、否、インカ軍の若き将を、フィゲロアの目は幾度かとらえていた。
当然ながら、その敵将の名は、フィゲロアの耳にも入っていた。
いや、それ以前にも、かのクスコの戦場で、トゥパク・アマルにどとめの一撃を喰らわそうとした時、目にも止まらぬ駿足と剣裁きで己とトゥパク・アマルとの間に割って入ってきた剣士、それこそが、今、思えば、このアンドレスであったのだ。
フィゲロアの引き締った口元に、意図せぬ苦笑が浮かぶ。

一方、窓辺のアンドレスは、相手の表情から、己の正体が知れたことを悟った。
(フィゲロア殿…――!!)
アンドレスは、窓硝子を隔てたまま、頭を下げて深く礼を払った。
それから、軽く硝子をコツコツと指で叩き、「開けてください。危険なことは致しません。」と、口を動かしてメッセージを送る。

フィゲロアは半ば唖然としながら、そして、半ば呆れたような眼差しで、まじまじとアンドレスの姿を見据えている。
(馬鹿め…!!
このような時に、敵中に一人で乗り込んでくるなど!
危険な目に合う立場にあるのは、おまえの方だろうが、アンドレス…!!)


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コンドルの系譜 第六話(115) 牙城クスコ

2006-11-28 20:43:52 | 牙城クスコ
険しくも、案ずる色を濃厚に漂わせはじめたトゥパク・アマルの方を、ロレンソは真っ直ぐに見上げ、きっぱりとした口調で言う。
「トゥパク・アマル様。
あなた様をお一人、むざむざ、あの悪鬼のごとくのスペイン役人たちのもとへ行かせるなど、アンドレス様には到底できぬことなのです!
アンドレス様なりに、道を必死で探っておられるのでございます!」
そう言って、跪いたその姿勢のまま、地につくほどに深く頭を下げた。
「何卒、アンドレス様のお気持ちをお察しください。
どうか、ご容赦ください!!」

友を弁護するために己の前に平伏(ひれふ)している若者の姿を見下ろすトゥパク・アマルの眼差しは、今は、もう、すっかり静かな色に戻っている。
そして、微かに溜息をついて、ロレンソに語りかけた。
「全く…そなたのように、よく出来た友をもち、アンドレスは果報者だな。」
そう言って、ロレンソの傍に彼もまた跪く。

「顔を上げなさい。」と、穏やかな声で言うと、慎重に頭を上げた真摯なロレンソの瞳に優しい眼差しで頷き返した。
「ロレンソ殿、この後も、アンドレスのことをよろしく頼む。」
「はっ!!」
再び、深く頭を下げて、しかし、力強い声で応じる若者の方に、細めた目でもう一度頷き返した後、トゥパク・アマルはゆっくりと立ち上がった。
そして、状況を見守っていたディエゴとビルカパサの方を順次見渡した後、トゥパク・アマルは思慮深い眼差しで、「まさか、迎えに行くわけにもいくまい。あのアンドレスのことだ。ここは信頼して、本人のしたいように任せるとしようか。」と言って、ほんの僅かに、しかし、はっきりと微笑んだ。



その頃、既に、アンドレスは、ロレンソに教えられた裏ルートを通って、スペイン兵たちの目を逃れ、クスコのフィゲロアの屋敷の門前まで来ていた。
もちろん、己の身分や正体を隠すために、貧しい平民の服装に扮し、頭にターバンのような布を巻いて、さり気なく顔を隠しながら。

まだ、真昼の日が高い頃ではあったが、暑さのためか、かえって街の人通りは少なかった。
アンドレスは人通りの切れた隙を見計らうと、そのまま策を弄さず、屋敷の門前の護衛官たちの前に進み出た。
たちまち、数名の厳(いかめ)しい護衛官たちに取り囲まれる。

相手に嫌疑の質問をさせる間も与えず、彼は、素手のままに、しかし、その腕と肘を常のサーベルのごとくに鋭く振り翳すと、護衛官たちの急所目がけて俊敏に振り下ろした。
通りの人目につく前に、瞬時に事を片付けねばならない。
彼は集団で襲い来る敵をかわして幾度か中空に跳躍すると、確実に狙いを定めて敵の急所めがけて舞い降りては、次々と一撃で相手の気を奪った。

たちまち辺りには静けさが戻り、微かに汗を滲ませて立つアンドレスの周りには、気絶した護衛官たちの体がばらばらと横たわっていた。
気を失って、すっかり伸びている兵たちを、門柱の陰に運んで、素早く隠す。
そして、急ぎ足で、屋敷のドアに向かった。


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コンドルの系譜 第六話(114) 牙城クスコ

2006-11-27 22:42:51 | 牙城クスコ
その時、部屋のドアにノックが聞こえた。
フィゲロアは、苦しげな表情のまま顔を上げる。
そして、「誰だ?」と、ドアの方に声をかける。
ドアの向こうから、「フィゲロア様、トバールでございます。」と、太い声がした。
「入ってくれ。」
フィゲロアの言葉に、重厚なドアが開く。

そこには、インカ族の戦士らしいガッシリと引き締った体格の、青銅色の肌をした中年の男が立っていた。
トバールと名乗ったこの男は、リマの褐色兵の将、フィゲロアの副官である。
彼は慎重にドアを閉めると、「何かわかったか。」と鋭い眼差しで問うフィゲロアの方に近づいた。
そして、一礼を払ってから言う。

「裏の情報ではありますが…、やはり、総指揮官アレッチェ殿は、トゥパク・アマル様を捕えた後、側近やその他のインカ兵たちをも捕らえ、さらには、増税も強制配給も再開する心積もりのようでございます。」
己の将、フィゲロア同様に、眉を顰(ひそ)めざるをえない様々なスペイン側の所業を、その渦中に身を置いて散々に目にしてきたこの副官トバールも、此度のトゥパク・アマルの投降については一方(ひとかた)ならぬ強い懸念を抱いていた。

「このままでよいのでありましょうか。
フィゲロア様…!」
既に皺の刻まれはじめた額を苦しげに歪めながら、己の方を激しく見据える、その腹心の部下を見つめるフィゲロアの横顔は、いっそう濃厚な苦渋の色に覆われていった。



他方、その頃、インカ軍の本営でも、再び騒然たる事態が生じていた。
「アンドレスがいない?!」
不意に目を見開くトゥパク・アマルの前に、ビルカパサが困惑した声音で、深く身を屈めて返答する。
「はい。
今朝方からお姿が見えず、ずっと探しているのですが、やはり、どこにもお姿がありませぬ。」
同様に探し回っていたディエゴも、トゥパク・アマルの天幕に現われると、非常に険しい眼差しのまま首を横に振った。

トゥパク・アマルが、考え深気にすっと目を細める。
「ロレンソ殿を呼んでくれ。」
「はっ!」
ビルカパサが再び深く身を屈めて礼を払うと、素早く天幕を出ていった。

まもなく、アンドレスの朋友、ロレンソがトゥパク・アマルの前に現われる。
「ロレンソ殿、アンドレスのこと、何か存じておるまいか。」
穏やかながらも鋭く問いかけるトゥパク・アマルに、ロレンソは深く畏まり、頭を下げる。
そして、ゆっくりと顔を上げて、その大人びた鋭利な表情をトゥパク・アマルの方に向けた。
じっと見つめるトゥパク・アマルの瞳の中で、ロレンソは微かに迷いの色を見せるが、すぐに意を決した目の色に変わった。
「アンドレス様は、クスコに向かわれました。」

やはり…――と、トゥパク・アマルがいっそう鋭い表情になりながら、再び、目を細める。
「クスコのどこに行ったのだ。」
「フィゲロア殿のお屋敷であります。
僭越(せんえつ)ながら、わたしが、先日トゥパク・アマル様をご案内した道をアンドレス様にお伝えいたしました。
そのルートで…。」

思わず、トゥパク・アマルは言葉を失(な)くす。
傍に控えていたディエゴ、そして、ビルカパサも、息を呑んだ。
「アンドレス…何という勝手なことを…!!」
わななくようにそう言って、ディエゴは気色ばみながらも、しかし、彼もまた、アンドレスの心中がひどく察せれて、思わず深い溜息を漏らした。


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コンドルの系譜 第六話(113) 牙城クスコ

2006-11-26 18:51:50 | 牙城クスコ
一方、かの褐色兵の敵将、フィゲロアは、ひどく苦々しい思いと共に、今、非常に深い葛藤状態にあった。
彼は、その日、一時的な停戦のためにクスコの地に戻っていたが、事態がトゥパク・アマルの投降の方向に進んでいることを知り、内心、ひどく穏やかならざる心境にあった。
戦場では、今でも彼は、スペイン側の討伐隊の極めて重要な将として、インカ軍との戦闘を続行してはいた。
しかしながら、続々と貧しいインカ族の農民たちを傭兵として狩り集め、敢えて同族同士で殺戮をさせ合うスペイン側のやり口に、本来は非常に正義心の強く純粋な彼は、次第に不信の念を募らせていた。
一方、トゥパク・アマル率いるインカ軍の兵たちは、いかに厳しい戦況になろうとも、己の兄弟姉妹たるインカ族の者たちに――たとえ今は敵、味方に引き裂かれていようとも――決して、致命的な攻撃を仕掛けてくることはなかった。

また、スペイン側とインカ側では、その捕虜の扱いも完全に対照的であった。
スペイン側のもとに捕虜として捕えられたインカ軍の兵たちは、いかに酷い負傷を負っていても、皆、拷問にかけられ惨殺された。
他方、インカ軍の捕虜となったスペイン兵たちは、インカ軍の従軍医によって手厚く治療され、釈放された。

フィゲロアはクスコの屋敷の一室で、その澄んだ瞳を揺らしながら、己の額を固く押さえ込んだ。
その部屋は、正体を隠すために女装に扮して己を単身訪れたトゥパク・アマルと、かつて直談判を行った、あの時と同じ場所である。
あの晩の話し合いの光景が、フィゲロアの脳裏に甦る。
輝くような威光を放ちながら、清冽な眼差しで、真っ直ぐに己を見つめて語るトゥパク・アマルの姿とその言葉の一つ一つが、幾度も彼の脳裏に、そして、心に、飛来した。

『今も、インカの地の民の、その身に深く宿る魂は、決して、いかなる民族にも劣るものではない。
我々の中には、まだそれが生きている。
いかなる者とて、それを押し潰し、息絶えさせてよいはずはない。
このまま植民地体制下の暴政が続くならば、民の命が果てるだけでなく、遠からず、民の魂までもが死に絶えるであろう。
そなたほどの者が、このままインカの民が死に絶え、あるいは、生きた屍となるのを見過ごせるか?
手遅れになる前に、ことを進めねば何も変らぬ。
今なら、まだ間に合おう。
だが、これ以上は、据え置けぬ。
時は今なのだ!
フィゲロア殿、我々、インカの民のために、そなたの力を貸してほしい。
我々インカ軍と共に戦おう!!』

フィゲロアは、額を押さえたまま、きつく瞼を閉じた。
「インカの地の民の、その身に深く宿る魂」…――たとえ敵方の傭兵に回されていようとも、白人たちに戦(いくさ)を強要された貧しい農民たちを決して討たず、今に至っては、己の命を呈して減税その他の民の負担を軽減させ、且つまた、側近たちを含め全てのインカ兵たちの命をも守り抜く――トゥパク・アマルは、あの時の言葉を、その身をもって体現しているのだと、フィゲロアには、そう感じられてならなかった。

(トゥパク・アマル…!!
本気で、スペイン軍のもとになど、くだるつもりなのか?!)
フィゲロアの瞼が震える。
(この俺が、あの時、トゥパク・アマルの言葉を信じてインカ軍に寝返っていれば、このようなことにはならなかったということか…?
それでは…俺が…?
この俺が…トゥパク・アマルを、処刑台に送る段取りをつけた、ということか?!)
彼の目が、はじかれたように見開かれる。

だが、即座に全てを振り払うようにして、激しく首を振った。
(い…いや…トゥパク・アマルとて、あのアレッチェが言う通り、腹の底では、インカ皇帝に返り咲いて独裁政治を敷こうとしていたかもしれぬのだ!!
俺は、それを喰い止めた、という見方とてできるのだ。
そうだ…そうなのだ!
今更、俺は何を血迷っているのだ!!
これで良かったのだ…!!)
フィゲロアは吹っ切るように、その顔を、きっ、と上げ、毅然とした眼差しをつくった。

が、すぐにそれは、苦渋と皮相の色に歪んでいく。
(ああ…だが、このひどく落ち着かぬ感覚は、一体、何なのだ…。)
再び、フィゲロアは深く肩を落とし、テーブルの上で強く握り締めた褐色の拳を震わせた。


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