軽く肩を竦めて、それから、フィゲロアは独り言のように呟いた。
「トゥパク・アマルといい、このアンドレスといい、インカ軍の将たちは、全くもって、いつもこのように破天荒な現われ方をするものなのか…。」
一方、窓硝子を隔てたバルコニーから、アンドレスは両手を広げて、武器など持ってはいません、と身振りで示す。
その様子に、フィゲロアは、かのトゥパク・アマルの対面の際にも同じような情景を見たことを思い出し、苦虫を噛み潰したような表情になる。
そして、思わず、顔を歪めて苦笑した。
あのトゥパク・アマルの話し合いの際も、武器を持たぬあの者に、結局は素手で打ちのめされたのだ。
(おまえたちの場合は、武器の有無など、関係ないではないか…!)
そんなことを苦々しく思いながらも、フィゲロアはゆっくりと窓辺に近づいた。
それから、やむを得ぬという表情を浮かべ、バルコニーに面したその窓を開く。
フィゲロアとアンドレスが直近の距離で、今、ついに対面する。
すぐにアンドレスは深く頭を下げた。
「突然の来訪、何卒、ご容赦ください。」
「唐突な来訪は、あのトゥパク・アマルの時で、もはや慣れた。」
皮相な口調でそんなふうに言い放つ眼前の敵将に、アンドレスは再び深く礼を払う。
「どうかお気を悪くなさらないでください。」
「で、今度は、何用だ?」
いきなりの本題に、瞬間、アンドレスの方が不意を突かれた表情になる。
が、すぐに意を決した眼差しになると、真正面からフィゲロアに向き直った。
「トゥパク・アマル様のことで…!!
あのお方が、スペイン軍に出頭すると仰っているのをご存知でしょうか?」
澄み切った真剣な瞳で激しく見据えてくる眼前の若者の視線を、同様にとても純粋なフィゲロアの瞳は、しかし、今は、さっとそらす。
「フィゲロア殿!!」
アンドレスは、フィゲロアの視線の先に回りこんだ。
「トゥパク・アマル様をスペイン軍の手に渡すことなどできません!!
そのために…そのために、あなたのお力が必要なのです。」
アンドレスの来訪以前から既に苦しげな色を浮かべていたフィゲロアの表情が、今、いっそう苦渋に歪みはじめる。
そして、回り込んできたアンドレスを避けるように、部屋の一隅に向かって、数歩、移動した。
「アンドレス、おまえの頭は、一体、どうなっているのだ?
俺は、おまえたちの敵であろう!
俺を当てにするのは、全くもってお門違いだ。」
低く冷たい声で言い放つフィゲロアの前に、しかし、再び、アンドレスは回りこんだ。
「いいえ!!
あなたの率いる褐色兵が、この後のインカの命運を…、そして、トゥパク・アマル様のお命さえをも左右するのです!!
どうか、あなたの率いる褐色兵の軍団を…――!!」
「黙れ!!
しつこいぞ!!」
核心に触れてきそうなアンドレスの言葉を鋭く制し、フィゲロアは凍てつくような目でアンドレスを睨み据えた。
◆◇◆物語へのご招待◆◇◆
物語概要 物語目次 登場人物の紹介 現在の物語の流れ
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「トゥパク・アマルといい、このアンドレスといい、インカ軍の将たちは、全くもって、いつもこのように破天荒な現われ方をするものなのか…。」
一方、窓硝子を隔てたバルコニーから、アンドレスは両手を広げて、武器など持ってはいません、と身振りで示す。
その様子に、フィゲロアは、かのトゥパク・アマルの対面の際にも同じような情景を見たことを思い出し、苦虫を噛み潰したような表情になる。
そして、思わず、顔を歪めて苦笑した。
あのトゥパク・アマルの話し合いの際も、武器を持たぬあの者に、結局は素手で打ちのめされたのだ。
(おまえたちの場合は、武器の有無など、関係ないではないか…!)
そんなことを苦々しく思いながらも、フィゲロアはゆっくりと窓辺に近づいた。
それから、やむを得ぬという表情を浮かべ、バルコニーに面したその窓を開く。
フィゲロアとアンドレスが直近の距離で、今、ついに対面する。
すぐにアンドレスは深く頭を下げた。
「突然の来訪、何卒、ご容赦ください。」
「唐突な来訪は、あのトゥパク・アマルの時で、もはや慣れた。」
皮相な口調でそんなふうに言い放つ眼前の敵将に、アンドレスは再び深く礼を払う。
「どうかお気を悪くなさらないでください。」
「で、今度は、何用だ?」
いきなりの本題に、瞬間、アンドレスの方が不意を突かれた表情になる。
が、すぐに意を決した眼差しになると、真正面からフィゲロアに向き直った。
「トゥパク・アマル様のことで…!!
あのお方が、スペイン軍に出頭すると仰っているのをご存知でしょうか?」
澄み切った真剣な瞳で激しく見据えてくる眼前の若者の視線を、同様にとても純粋なフィゲロアの瞳は、しかし、今は、さっとそらす。
「フィゲロア殿!!」
アンドレスは、フィゲロアの視線の先に回りこんだ。
「トゥパク・アマル様をスペイン軍の手に渡すことなどできません!!
そのために…そのために、あなたのお力が必要なのです。」
アンドレスの来訪以前から既に苦しげな色を浮かべていたフィゲロアの表情が、今、いっそう苦渋に歪みはじめる。
そして、回り込んできたアンドレスを避けるように、部屋の一隅に向かって、数歩、移動した。
「アンドレス、おまえの頭は、一体、どうなっているのだ?
俺は、おまえたちの敵であろう!
俺を当てにするのは、全くもってお門違いだ。」
低く冷たい声で言い放つフィゲロアの前に、しかし、再び、アンドレスは回りこんだ。
「いいえ!!
あなたの率いる褐色兵が、この後のインカの命運を…、そして、トゥパク・アマル様のお命さえをも左右するのです!!
どうか、あなたの率いる褐色兵の軍団を…――!!」
「黙れ!!
しつこいぞ!!」
核心に触れてきそうなアンドレスの言葉を鋭く制し、フィゲロアは凍てつくような目でアンドレスを睨み据えた。
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